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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 4 歓迎会は波乱の予兆
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100 悪役令嬢の作戦会議 8前

「お疲れー」

帰ってきたマリナとアリッサに、長椅子に横になったエミリーが声をかける。魔法書を読んでいたようだが、半分昼寝になってしまっている。

テーブルの上にはクッキーと冷めた紅茶がそのままになっており、優しく出迎えてくれる侍女の姿がなかった。

「リリーは?出かけたの?」

「んー。今日は帰った」

「帰った?具合でも悪いのかしら」

「違う。……後で報告する」


夕食の後、四姉妹は自分達で入浴の準備をして交代で湯浴みをし、ネグリジェとパジャマに着替えた。お互いに髪を梳き三つ編みにする。

「綺麗な髪よねえ」

ベッドの上でマリナがエミリーの髪に櫛を入れながら呟く。切って手入れをすることがないエミリーの髪は、四人の中で一番長く、立ち上がると腿の辺りまであった。マリナとアリッサの髪は腰まで、一番短いジュリアの髪も肩甲骨まであった。

「結っても解けばさらさらストレートになるなんて、どんな髪質だっての」

アリッサの髪を三つ編みにしながらジュリアが言う。話をすると手元が狂うのではないかとアリッサは気が気でない。

「痛いよぉ」

「あ、ゴメン。ちょっと引っかかって」

「……不器用な奴に三つ編みは無理」

「できると思ったんだけどなあ」

「……こっちに来て」

エミリーがアリッサを手招きする。自分の前に座るよう促している。

「エミリーちゃんがやってくれるの?」

「そう」

半信半疑でベッドに腰掛けたアリッサの髪に、エミリーは指先を触れさせた。風もないのに銀髪がさらりと揺れる。

「魔法!?」

見ていたジュリアが瞠目する。緑と青の光がアリッサの髪をするすると編んでいく。

「水魔法と、風魔法かしら?」

驚いてマリナの手が止まっている。

「私、指先より魔法の方が、細かい作業ができるの」


   ◆◆◆


今日の作戦会議は、エミリーのベッドの上で開催された。四つ並んだベッドのうち、なにも端のベッドを使わなくても、とエミリーは思った。途中で抜けて寝られないではないか。

「じゃあ、始めるよ!」

「今日もジュリアちゃんが司会なの?」

「別にいいじゃん」

「マリナちゃん、明日の練習だと思ってやってみたら?」

「私が?」

ベッドの上の作戦会議とアスタシフォン王国留学生歓迎会では、全く趣が異なると思うのだが、マリナは妹の提案を受け入れた。

「そうね。では、今日の報告をしてもらうわ。……ジュリア」

「私?えー?特にないかな」

「ないの?」

「アレックス君が余興に腹芸を……」

「腹芸ですって!?」

マリナの目がキッと吊り上がり、ジュリアを視線が貫いた。

「う、うん、まあ、レイモンドが怒ってさ。腹芸はしないことになったんだよ」

「当たり前よ。……信じられないわ」

ハロルドの危険な語学講座を受けている間に、ジュリア達は何をしていたのかと眩暈がしそうになった。


「だからね、私がピアノを弾くことになったの」

もじもじしながらアリッサが告げた。

「そういうことだったのね。音楽室に行くと聞いたから、何かと思ったら」

「……で、どう?」

エミリーが流し目でアリッサを見た。

「曲は決まったわ。『アスタシフォンの想い出』よ」

「へえ。それ、難しいの?」

ピアノを練習したことがないジュリアが、興味なさそうに訊ねた。

「ちょっと難しいよ。いつも同じところでひっかかってしまうの。レイ様が練習に付き合って下さったのだけど、申し訳なくて……」

「レイモンドの練習……スパルタか?」

「だよね。私もそうじゃないかと思ったんだ。絶対鞭とか持ってそう」

意見の合わないジュリアとエミリーが、ドSピアノ教師レイモンドを想像で作り上げ、楽しそうに話し合っている。

「……違うわ。レイ様は優しいもの」

「ゲロ甘か。ま、レイモンドはアリッサにだけは優しいもんね」

「……何だ、つまらない」

「練習は間に合うの?今からでも曲目を変更したらどうかしら」

マリナが労るように声をかけた。

「ダメっ!」

ネグリジェのスカート部分を強く握りしめて、アリッサは声を上げた。物静かな彼女が震えながら、涙目で姉妹に訴えた。

「曲は、レイ様が選んだんだもの。絶対上手に弾いてみせるわ。……上手く弾かなきゃ、ダメなの。絶対に」

「アリッサ?」

「分かった分かった。アリッサが間違えないで弾けるように、私達も応援するよ」

「……弾けないくせに応援か」

「弾けないから応援しかできないんじゃん!」

「そうね。私も司会者だから舞台袖から応援しているわ。頑張ってね」

「うん。ありがとう、皆」


「そう言えばさ、さっき」

「うん?」

「エミリーが魔法で三つ編み作ってたじゃん」

「あれは見事だったわね。驚いたわ」

「綺麗に結えてるもんね」

自分の三つ編みを見ながらアリッサが感嘆する。

「魔法が使えるようになったの?……腕輪は?」

「……マシューが持ってった」

「返したの?」

「魔法が抑えられていて、アイリーンに殺されかけても反撃できなかったって言ったら」

淡々と話し出すエミリーに、ジュリアが掴みかかった。

「ちょ、ちょい待って、今、殺されかけたって……」

「私もそう聞こえたわ」

「狙われたの?エミリーちゃん」


三人に事の顛末を説明し、エミリーは腕輪を返したと告げた。

「要するに、返品したの」

「返品……」

マリナが絶句した。エミリーが身に付けていた腕輪は、乙女ゲーム『とわばら』でヒロインが攻略対象を陥落させた証として受け取るものだったはずだ。返品なんてできるはずがないのだが。

「アイリーンが腕輪を狙ってた。腕輪のために私の手首を斬ろうとした」

「マシュー先生は、エミリーちゃんに返されて残念だったと思う」

「……そう?」

「絶対にそうだよ。愛を込めた贈り物なんだもん」

一気にエミリーの顔が赤くなった。……ただし、姉妹以外には分からない程度に。

「……愛……って」

「いーなー。皆なんかもらったんだ」

ジュリアがベッドに寝転がって足をばたつかせた。

「ジュリアもアレックスに強請ったらいいじゃないの」

「練習の時に邪魔になるんだもん。普段つけられるのって少ないし」

「欲しいの?欲しくないの?どっちよ」

「……我儘」

「マリナは髪飾りに王妃様のイヤリングでしょ。アリッサは二人の瞳の色を模したイヤリングだし。返しちゃったけどエミリーも腕輪……羨ましいぞっ!」

腹筋を使ってがばっと起き上がり、隣にいたエミリーに抱きついた。

「ぐふっ……やめろ」

「明日、アレックス君にお願いしてみたら?」

「そうよ。……さあ、この話はこれでおしまいよね」

「待って」

ジュリアの腕を引きはがし、エミリーがマリナを止めた。

「リリーがいない理由……まだ話していないわ」


作戦会議の後編は今日中に掲載予定です。

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