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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 4 歓迎会は波乱の予兆
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94 悪役令嬢は異国の響きに翻弄される

荒々しくドアがノックされ、返事を待たずにフローラがオレンジの髪を振り乱して、生徒会室へと入ってきた。

「信じられませんわ!」

そばかすのある頬が紅潮し、緑色の瞳が怒りのために潤んでいる。

「どうしたの?フローラちゃん」

「どうしたもこうしたも……あの、シェリンズさんて、どういうおつもりですの」

「シェリンズか……」

レイモンドが目を眇めた。


「作業を始めてすぐは、ぶつぶつ言いながらも働いていたのですけれど、先輩と何やらお話ししてから、急に講堂を出ていってしまわれたのですわ」

「先輩?マックスのことかな」

「はい。集まった生徒有志の皆様に、マクシミリアン様が作業分担をなさって……」

「フローラちゃんは、作業をしなくていいの?」

「シェリンズさんがこちらに来ているのではないか、とマクシミリアン様が仰って、様子を見に参りましたの」

――マックス先輩は、アイリーンが生徒会室に来ると予想したの?

生徒会室にセドリックとレイモンドがいると知り、彼らと接触しようとすると読んだのだ。つまり、マクシミリアンはアイリーンの目的を知っているのだ。


「こちらには来ていないが」

「そのようですわね。いなくなる前にアリッサ様のお名前を呟いていたそうですから、てっきり何かあるかと思いましたのに」

「アリッサの名を?」

きつく問い詰めるようなレイモンドの口調にも、フローラは臆することなく話し続ける。

「はい。マクシミリアン様とのお話の中で、アリッサ様の話題が出たのでしょうね。『許せない』と言っていたとか」

「……怖い……」

涙が自然に溜まってきて、ペンを持つ手が震えてくる。肩に温かい感触がして、大きな手が涙を拭った。

「大丈夫だ。……君はここから動かないほうがいいな。俺の傍から離れるな」

「はい」

「ここに来ていないなら、彼女はどこに行ったんだろうね」

腕組みをしたセドリックが眉を顰める。アイリーンはアリッサが生徒会室にいると知っていたのだ。

「見当もつきませんわね」

王太子の問いかけをフローラはあっさりと受け流し、

「私もアリッサ様のお傍におりますわ。あのような怪しい輩に手出しはさせません!」

と仁王立ちで息巻いた。


   ◆◆◆


「こんな言葉を、言われるとは思えないのですが……」

アスタシフォン語でひっきりなしに甘い言葉を囁かれ、マリナは頭がパンクしそうだった。

ハロルドは神々しい微笑を浮かべ、耳元に唇を寄せてくる。

『あなたを食べてしまいたい……』

「ひっ」

軽く息がかかっただけでマリナは肩を震わせる。

『あなたをここに閉じ込めて……』

――アスタシフォン語なのに、発言が病んでる!

『私だけのものにしたいのです』

「な、な、何を?仰っている意味が分かりま……」

『アスタシフォン語で答えてください。グランディア語を使ったら……』

耳に何かが触れた。

――耳たぶが……甘噛みされた???

「い、今のは……」

『アスタシフォン語を使うようにと言いましたよ?』

青緑色の瞳がじっとりとマリナを見つめる。長い指先が銀髪を辿り、頬を撫でて唇に達した。

「お、おにいぃいさ……」

『次にグランディア語で話したら、噛むのはここにしましょうか』

――唇!?

『わかりました。きちんと話します。私はアスタシフォン語を勉強します』

たどたどしいフレーズにハロルドが笑い出し、マリナはつい

「そんなに笑わなくても……」

と呟いてしまった。

瞬時にハロルドが目を見張り、嬉しそうに顔を傾けた。

『言いましたよね。次にグランディア語を話したら……』

――そうだった!……って、顔が、近いっ!

美しい顔が近づき、いたたまれなくなったマリナはぎゅっと目を閉じた。


   ◆◆◆


「つきあってくれなくても、いいのに」

寮までの道のりをキースと共に歩いていく。エミリーの黒いローブが風に揺れている。秋も深まり、ローブだけでは寒いと感じられるようになってきた。

「いいえ。寮までお送りします。昼のようにまた、アイリーンが襲ってきたら僕が退治します」

「退治って……魔物じゃないんだから」

「魔物みたいなものですよ。無抵抗の人間相手に魔法を使ったり、殴ったりするのは」

「……そうね」

アイリーンが魔物だったら、どんなに邪悪な性質を持っているのだろう。

「エミリーさんは、アイリーンと何かあるんですか?昔から仲が悪いとか」

「あるわけないわ。うちは男爵家と付き合いはないもの」

「そうですよね。……となると、完全な怨恨か」

謎解きをする探偵のような雰囲気でキースが言う。こういう少年探偵もいそうだとエミリーは一人納得する。

「魔力測定の時の?怒られたのは私なのに」

「あれはアイリーンの魔法が失敗したことによるものでしょう?少なくとも、魔力を暴走させたと彼女もお咎めがあったはずですよ」

「……被害者はこっち」

「あとは、彼女がコーノック先生を好きなようですので」

「キースにもそう見える?」

「あれだけベタベタしていれば、誰でも気づきますよ。アイリーンはコーノック先生に構ってほしい。でも、先生はエミリーさんを気にかけている。となれば、あなたが邪魔ですよね」

はっきり言われると少し気持ちが重くなった。勝手に邪魔者扱いされて、消されそうになっているなんて、いくら悪役令嬢でも悲惨すぎる。

「だからって、光のチェーンソーで斬るのは勘弁してほしいわ」

「エミリーさん……やはり、先生に腕輪をお返しして、安全を確保すべきですよ」

――また腕輪の話か。しつこいなあ。

腕輪を外せなかったら、物理防御機能をつけてもらおう、とエミリーは単純に考えていた。


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