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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 3 初めてのキスと恐怖の勉強会
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84 悪役令嬢の作戦会議 7

ギイ……。

従僕のロイドがドアを開け、美しく着飾ったドレスと対照的に、疲れた顔のマリナが入ってくる。

「……すごい顔」

エミリーがボソッと感想を口にする。

「死相出てるけど、大丈夫?」

「お疲れ様、マリナちゃん」

「……ただいま、ふふふふふ……」

視線を彷徨わせて笑うマリナは、リリーに促されて衣装部屋へ入って行った。


ハーリオン侯爵が、金と権力に物を言わせて改装した四姉妹の部屋は、卒業する時に元の仕様に直すことを前提に、侯爵家用の部屋より広い公爵家用の部屋を二部屋繋いである。一人用の部屋を二部屋使って四人が暮らすのだから、これでも譲歩したのだと父ハーリオン侯爵は話していた。姉妹のの部屋には、居間と寝室の他に、元から大きなバスタブのある浴室、ドレスが収納できる衣裳部屋、簡易な厨房と使用人部屋が備えてあった。

「本当に、マリナ様は青がよくお似合いですわね」

ドレスを脱がせながら、侍女のリリーが感嘆の声を漏らす。

「好きな色ではあるけれど、この頃重いのよね」

「冬物のドレスは少し重くはなりますけれど……」

「違うの。……ほら、髪飾りも……セドリック様の瞳の色と同じでしょう?」

「ええ……」

リリーは言葉の意味を察したようだった。髪飾りを渡された時のマリナの様子は、愛しい婚約者から贈り物をもらって喜ぶ令嬢のそれではなかったからだ。

「アスタシフォン王国の留学生が学院に来るのは知っているでしょう?歓迎会が明後日に決まったわ」

「予定は二週間後でございませんでしたか?」

「アスタシフォンの王子が王宮に潜りこんでいたのよ。予定も何もあったものではないわ。それも、レイモンドが私に司会をやれと言うのよ。お兄様か、剣技科の三年生と一緒に」

「まあ……マリナ様なら何でもおできになりますし、ハロルド様も安心なさいますわね」

もう一人の司会者をハロルドと決めて、リリーは話を進める。着替えの用意を頼んで、マリナは浴室へ入った。


   ◆◆◆


「今日はいろいろなことがありすぎたわ……」

夜着に着替えてマリナはベッドに座った。妹達が彼女を囲む。

「今日は報告会やめる?」

ボロボロの姉を見てジュリアが提案する。アリッサとエミリーが首を横に振る。

「ダメよ。お願い、皆に聞いてほしいの」

「……私も」

「作戦会議はするわよ。私も皆に話したいから」


マリナは、涙目になりかけていたアリッサに、何か困ったことになっているのかと訊ねた。

「うん……私、浮気したみたい」

「はあっ?」

ジュリアが叫んだ。

「アリッサがレイモンド以外の男に?ありえないって!」

「そうよね。あの極悪ツンデレ眼鏡がストライクゾーンど真ん中なら、同じような男性が他にいるってことに……」

正確に言うと、アリッサに対してだけはツンの要素はゼロだ。端からデレっぱなしである。

「ううん、違うの。今日はマリナちゃんもレイ様も王宮に行く日だったから、帰りにマックス先輩が送ってくれて」

「方向音痴対策」

「中庭を……通ってきたら、あの……」

「ダメじゃん。中庭は」

「知ってるよ、知ってるけど、イヤリングがねっ」

「イヤリング?あ、さっきつけてた花のやつ?」

「そうよ。昼休みにレイモンドからもらったんですって。午後はずっと惚気られて大変だったわ」

マリナは肩を竦めた。

「マックス先輩にイヤリングを取られたの。学院でつけるには派手すぎるって」

「少し、派手」

「私はいいと思うけどな。宝石はアメジストとエメラルドより、ルビーの方が」

「……ジュリアの好みは聞いてない」

エミリーがジュリアの鍛えられた脇腹に肘鉄をくらわせた。

「それで、イヤリングは返してもらえたのね」

「うん。寮に帰ってきたら、フローラちゃんにいろいろ訊かれたの」

「あいつ、しゃべりすぎ」

「別にいいじゃん。で、浮気じゃないかって言われたんだ?」

「婚約者以外の男の人と、中庭に行くのはよくないの。私、レイ様に嫌われちゃう!」

うわーん、とアリッサが泣き出した。マリナがハンカチを渡し、エミリーが頭を撫でる。

「中庭で見られたなら、男子寮でも噂が広まっているかもしれないわ。ただ、今日は他に噂になることがあるもの。アスタシフォンの王子が明日から男子寮に入るでしょう?レイモンドの恋愛話より、他国の王子の方が、男子生徒の興味を引くのではなくて?」

「確かに」

「王子様来るの早くね?もっと先だよね、何で?」

「王宮の侍女に化けて潜りこんでいたのよ。国王陛下以下、皆様大慌てで……陛下と学院長先生と宰相様が、今後の対応をお決めになったのよ。アスタシフォンの第四王子は、お名前はリオネル王子と仰るのだけれど、明日から男子寮に入って、明後日から登校よ。歓迎会も明後日に早まったわ。アリッサも泣いている暇はないわ、忙しくなるわよ」

「マリナちゃん……私、それどころじゃ……ぐすっ」

「馬車の中で役割分担を決められてきたわ。セドリック様は歓迎の言葉を考えて、レイモンドが司会の原稿を作るわ。私は司会者に交渉する係なの」

「私は?」

「レイモンドが手元に置きたがって、自分の補佐にするって言っていたわ。雑用係かしら」

「いいじゃん、アリッサ。準備の間はずっとレイモンドと一緒で嬉しいでしょ?」

ジュリアが頬を突き、アリッサは涙を拭いて頬を赤らめた。


「エミリーは復活したのね。死の呪い?はどうなったの」

「あれは、マシューがキ……むぐぐぐ」

「……話したら首絞める」

エミリーが馬乗りになってジュリアの口を塞いでいる。

「あら?エミリーのブレスレット、初めて見るわね」

「マリナちゃん目ざとい……」

「これは、うん……魔力封じ」

「封じたら困るでしょう?」

「学院内で魔力を使わないようにって、マシューが」

「いいねえ、エミリー愛されて……ぐふっ」

ジュリアの腹の上にエミリーが跨った。

「うるさい」

「よくない魔法の効果は解けたのね」

「そう。だから、大丈夫」

「闇魔法のレイゾクっていうやつだったんだって。光魔法の『魅了』とほぼ同じ効果が出るんだ。私がアレックスの魅了魔法を解いた時みたいに、マシューがキスしてさ」

「馬鹿!言うな!」


しばらくの間、エミリーは姉三人にキスの経緯を根掘り葉掘り聞かれ、ブレスレットを貰った時の話に移り、再度キスした話まで白状させられたのだった。

「……いいなあ、エミリーちゃん。愛されてるね」

「アリッサだって、あのムッツリスケベにキスされてるでしょ」

「ム……?レイ様はムッツリじゃないもん!」

「はいはい。で?マリナは晩餐会の予行で王子が現れて、それだけ?」

ふるふるとマリナが首を振った。

「私を殺そうとした男に会ったわ」

「殺す?」

「王宮で一人で歩いていた時に、若い男に部屋に連れ込まれたのよ。急所を蹴とばして助かったんだけど、ジュリアが見つけてくれなかったらどうなっていたか」

「誰なの?それ」

「エンフィールド侯爵よ。レイモンドの知り合いで」

「図書館の副館長さんだわ」

「アリッサは知ってるんだ?図書館によく行くもんね」

「……私、知らない」

「国土の北西、他国と接した山地がエンフィールド家の領地よ。うちの領地と接しているわね。何年か前に前の侯爵様がお亡くなりになって、遠縁の彼が新侯爵になったとか。血のつながりはかなり遠いってレイモンドが言っていたわ」

「要するによくわかんない奴ってことか」

「……血縁かどうかも怪しい」

「ええ。私もそう思うわ。領地経営はうまくいっているようで、周囲の評判もよい人物なのは確かなの。お父様も認めていらっしゃったでしょう?」

「そんな奴が、王宮内で十二歳の女の子を殺そうとしたわけだ。しかも、王太子の妃になるかもしれない侯爵令嬢を」

転がり込んできた棚ボタ爵位を捨てても、ハーリオン家に復讐したいのだろうか。父母は恨みを買うような人物ではないのだが。

「愉快犯には思えなかったわ。私は初対面だったから、うちに何か恨みがあるか、あるいは……セドリック様に」

「王宮の晩餐会でまた会うかもしれないね。気をつけてね、マリナちゃん」

「そうするわ。極力セドリック様から離れないようにする」


「ジュリアちゃんの番だよ」

「図書室で寝過ごしたんだって。……呆れる」

「窓辺の椅子がすっごい気持ち良くて……あ、そうじゃなかった。起きたら夜だったんだよ」

「警備員さんに見つかったのね」

「ううん。叫んでも誰も来なくて、仕方ないから窓から」

「窓ぉ?」

「バルコニー伝いに下りられそうな木の傍まで行ったんだ。そうしたら、庭に怪しい黒ずくめの男がいて、アレックスがそいつと戦って」

「待って。話がよく見えないのだけれど……」

「泥棒、か?」

「多分そう。アレックスが危ないから、私が警備員さんを呼んできて、泥棒は追いかけられていなくなったんだ。職員室でも、正当防衛だって説明したのに、バイロン先生は聞いてくれなくてさ」

「論点がずれてる」

「そうね。夜に校舎の傍にいた理由にはならないもの」

マリナが額に手を当てて俯いた。どうしてジュリアは騒動ばかり起こすのだろうか。

「結局、バイロン先生に叱られちゃったのね」

「一時間のお説教プラス保護者面談」

「保護者面談?」

「お父様が呼ばれちゃうの?」

「うん。貴族令嬢にあるまじきなんとかって」

ドサッ。

マリナが突然後ろ向きに倒れこんだ。

「マリナちゃん!しっかり!」

「……ああ、何てこと……」


自分のベッドに戻った四人は、口々に就寝の挨拶をした。

三人が寝静まっても、エミリーは一人、ベッドの周りに闇を作れないと腕輪に向かって悪態をついていた。


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