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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 3 初めてのキスと恐怖の勉強会
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83 悪役令嬢は司会に抜擢される

「ただい……わあっ!」

「ジュリアちゃん!心配したよぉっ」

姉妹の部屋に入るなり、アリッサが首に抱きついてきて、ジュリアは危うくドアにぶつかりそうになる。

「遅くなるなら連絡しろ」

不機嫌そうなエミリーが鋭い視線を向けた。二人は既に寝る準備を整え、アリッサはフリルがたくさんついたクリーム色のネグリジェ、エミリーは胸の下で切り替えがある以外に何の飾り気もない薄紫色のネグリジェを着ていた。

「ごめんて。図書室で本読んでたら」

「図書室?」

「ジュリアちゃんが?」

妹二人は驚きの声を上げた。傍に控えていたリリーも動揺して手からティーポットを落とすところだった。

「悪かったね……で、読んでたら眠くなっちゃってさ」

「……やっぱり」

「アレックス君も一緒だったんでしょ?起こしてくれなかったの?」

「先に寝たのはアレックスだもん。起きたら夜になってたってわけ」

「だから先生に怒られたのね」

「んー。ま、そんなとこ」

他にもいろいろあったのだが、説明しなくても明らかになるだろうとジュリアは思った。明日になれば、ハーリオン侯爵とヴィルソード侯爵が学院に呼ばれるのだ。

「マリナはまだなの?」

振り返ってリリーに尋ねる。

「ロイドが車寄せに向かいましたので、間もなく学院へお着きになられるかと」

「そっか。……四人揃ったら、話したいことがあるんだよね」

「私も。皆に聞いてほしいの」

「……私も、一応」


   ◆◆◆


グランディア王国王太子セドリックと、アスタシフォン王国第四王子リオネルの対面は、暴走したセドリックによってとんでもないものになった。レイモンドが止めなかったら、いつまでキスしていたか分からない。

「あれは、あんまりですわ」

帰りの馬車の中で、マリナはジロリとセドリックを睨んだ。

「ごめんね。……マリナも同意してくれたとばかり」

「しーてーまーせーん!」

「……そう、だよね……」

「他国の王族の方の前で、あんなこと……」

怒りで顔が赤くなっているのか、羞恥心が蘇ったせいなのか、マリナにはもう訳が分からなかった。

「次からは、しないから。許して」

すまなそうに眉尻を下げるセドリックは、情けない顔なのにやはり美しい。緩くウェーブして流れる金髪が乱れ、色気が破壊力抜群になっている。引っぱたこうと上げかけた手を下ろし、マリナは溜息をついた。

「……次はありませんからね」


「参ったよなあ……」

二人のやり取りには目もくれず、レイモンドは頭を抱えたままだった。いつも余裕綽々の彼が、ここまで悩むのは初めて見る気がする。

「僕も驚いたよ。茂みから出てきたのが、女装した王子なんてさ」

「セドリック様が問い詰めたりなさらなかったら、侍女のふりで逃げおおせたのでしょうけれど」

「気づいてしまったんだから仕方ないよ」

王宮へ出かける前にアスタシフォン語の勉強をしていたために、変装した侍女の発音がおかしいと感じられたのだ。苦痛で仕方ない勉強会も役に立たないわけではないのだ。


王宮に一人で乗り込んでくるという前代未聞の登場に、国王以下居合わせた貴族は皆度肝を抜かれた。晩餐会の予行は終わりかけの時間ではあったが、リオネルが会場へ乱入して自己紹介をし、たいへんな騒ぎになってしまったのである。国王がその場を収め、王子をもてなす正式な晩餐会は後日開かれることになった。

レイモンドが父の宰相から聞いた話では、王子登場と前後して、アスタシフォン国の大使が転移魔法で王宮を訪れ、アスタシフォン国王の書状を携えて国王に謁見を求めたらしい。書状の中身はひたすら無鉄砲な息子の行いを陳謝する内容だったとか。

「リオネル様も滅茶苦茶なお方でしたわね」

「……あいつのこと、名前で呼ぶのやめてくれる?」

「ご自身が名前で呼んでほしいと仰って、セドリック様も『リオネル』とお名前でお呼びになったでしょうに」

リオネルに言われた通り、セドリックは彼を『リオネル』と呼んだ。同様にリオネルが『セドリック』と呼び、年下の王子に呼び捨てにされて少し驚いたようだった。

「マリナは名前で呼ばなくていいから!」

「お二人とも『殿下』でしょう?分かりにくいですし……」

「君の唇から、他の男の名前を聞きたくない……」

指先がマリナの顎にかかり、上を向かされる。


「おい」

向かいの席に座っていたレイモンドが、セドリックの腕を掴んだ。

「そういうのは二人きりの時にしろ」

「レイが空気になればいい」

「断る」

これほど尊大な男が空気になれるはずがないとマリナは思った。レイモンドは長い脚を組み直し、指先で眼鏡を上げた。

「リオネル殿下は明日から学院へ移られることになった。寮の部屋の準備は前もってしてあるが、生徒会主催で予定していた留学生の歓迎会は、まだ先だと思って十分な支度ができていない。間に合うのか?」

歓迎会は明後日開催することに決まった。国王と学院長が話し合って決定した。そこに生徒会の意見を差し挟む余地はなかった。

「前日準備は人手があればどうにかなるよね。進行は大筋で決めてあるから、残りは司会者と余興かな」

歓迎会は所謂お楽しみパーティーである。生徒会が歓迎の言葉を述べ、留学生代表があいさつした後、余興がいくつか披露され、最後はダンスを踊ってお開きになるのだ。


「司会者か……俺の中では何人か、適任者を挙げてある」

「僕は無理だよ?」

「分かっている。お前は別の役割があるからな。司会者は、堂々としていて華のある、臨機応変に対応できる人物でなければ務まらない」

「うーん……」

セドリックは背凭れに身体を預けて考え込んだ。

「レイは誰がいいと思ってる?」

「生徒会以外の人物で、となると、剣技科三年のグロリア・フォイアは堂々としていて見た目にも華があるな。高位貴族の出ではないが、皆に慕われていると聞く。ただ……アスタシフォン語が堪能かと言うとそうでもなさそうだな。男は……そうだな、ハロルドはどうだ?」

「お兄様を司会者に?」

「見目はあの通りだし、アスタシフォン語も得意だろう。王太子を相手に怯まない姿勢も好感が持てる」

「怯まないって……」

「意地悪なだけだろう?僕とマリナの邪魔ばかり……」

ぶつぶつ文句を言い始めたセドリックを無視して、レイモンドはマリナに膝を向ける。

「それから、もう一人……マリナ、君はどうだ?」

「私が?」

「マリナは生徒会副会長だから、当日は忙しいよ?」

「お前は挨拶があるが、マリナは準備が終われば出番はない。王太子妃候補として、生徒達に顔が知られている上、立ち居振る舞いも完璧だ。アスタシフォン語は敏腕家庭教師が二人もついているんだ、どうにかなるだろう」

リオネル王子は危険な人物だ。当日も予定通り進む気がしない。

国王が場を収めたように、自分が混乱を鎮められるかと言えば、自信が全くない。先日の選挙の演説会で混乱が発生し、セドリックには事態を収拾できなかった。再びあのようなことが起これば、生徒会長である彼のリーダーシップが疑われるだろう。将来国王となるセドリックが、年下の王子に軽んじられている姿を生徒全員の目にさらしてしまう。

――司会なんて、自信がないわ……。

「お断りできますか?」

「明日までに、グロリアとハロルドを説得して、司会者に立てられるのならな」

当然だと言わんばかりに、レイモンドはあっさりと条件を提示してきた。

顔も知らない剣技科の三年生と、自分を溺愛している義兄である。グロリアを説得できても、ハロルドはもう一人の司会者がマリナでなければ自分はやらないなどと言い出しそうだ。説得は厳しい。

「……」

黙り込んだマリナの顔を、横からセドリックが覗き込んだ。

「台本は明日までに俺が用意する。会場の準備はマックスに指揮させる。キースを補佐につけるか」

「アリッサは?」

「俺の補佐に決まっているだろう?」

にやり、と薄い唇の端が上がった。それを聞いたセドリックが、マリナは僕の補佐ね、と勝手に決めたのを聞いて、マリナは再び溜息をつき、窓の外を眺めたのだった。


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