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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 3 初めてのキスと恐怖の勉強会
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72 マクシミリアン・ベイルズの日記

マックス視点です。

マクシミリアン・ベイルズの日記


○月△日

今日から新学期。

新二年生になり、身が引き締まる思いだ。

残留の役員は会長とレイモンド副会長と私だけになった。圧倒的に人手が足りない。

文化祭と、アスタシフォン王国高等学院との交流会へ向け、作業は増えているのに。

入学式では、セドリック生徒会長が代表して歓迎の言葉を述べた。普段は仕事をしない頼りない会長だが、壇上で堂々と話す姿は流石王族だと思った。途中、会長を指さして叫んだ女子生徒が一名いたが、会長の知り合いではないとのこと。貴族子女ばかりの学院に入学した者でも、王族への礼を欠いている者がいるとは驚いた。

会長と副会長は、新入生を生徒会に入れようと思っているようで、魔法科のキース・エンウィを立候補させるらしい。(伯爵家の継嗣で魔導士団長の孫なら、婚約者になりたい女子が生徒会役員になりたがるだろう。来年も安泰だ。)剣技科のアレックス・ヴィルソードには断られた。会長と副会長は、婚約者を役員にすると言っているが、向いているかどうか不安だ。


○月×日

会長の婚約者マリナ・ハーリオンと、副会長の婚約者アリッサ・ハーリオンが、生徒会室に来た。副会長になるマリナにはレイモンド副会長が業務の説明をし、私は会計になるアリッサに説明をした。アリッサは入学式で新入生代表を務めた生徒だった。私の役職は書記ではあるが、前年も三年生が忙しくなってからは、私が会計を兼ねていたので説明はうまくできたと思う。私が説明することに不安を感じていたのか、レイモンド副会長は終始私を睨んでいた。


○月□日

マリナとアリッサは仕事の覚えが早く、生徒会の新戦力として申し分ない働きをしている。会長と副会長は、婚約者と一緒にいられるのが嬉しいらしく、この上なく機嫌が良い。生徒会室内が甘い空気になっているのが気にかかる。会長は全く仕事をしない。


○月○日

今月末の生徒会役員選挙の立候補受け付けが始まった。

この間勧誘されたキースが早速立候補の届け出をした。真面目な生徒だと思っていたが、氏名と学年組の欄を入れ違えて書いていた。多少うっかりしたところがあるようだ。しっかりフォローしてやれば一人前に育つと思う。立候補した者は後日、全校生徒の前で演説をする。彼ならば大丈夫だろう。


○月☆日

私が生徒会室に来ると、先に一年生が仕事を始めている。マリナは次の仕事の手順が分かるようで頼もしい。あの頼りないセドリック会長の妃になるには、これくらいしっかりしていないといけないのだろう。アリッサは前日の仕事の続きをしていることが多い。決して彼女の手際が悪いわけではなくて、レイモンド副会長が邪魔で仕事が進まないのだろう。副会長も困ったものだと思う。


○月▼日

アスタシフォン王国との交流行事の打ち合わせで、会長と副会長は王宮へ出かけた。使節団に短期留学生がついてくる形であり、王宮でもパーティーが開かれるためだ。会長は自宅だし、副会長二名も王宮には慣れているから任せておいても安心だ。

アリッサに選挙後の事務について再度説明した。覚えが早くて助かる。


○月◆日

生徒総会の資料作成のため、アリッサと二人で決算の検算をした。

アリッサは本当に計算が速い。どうやって計算しているのか隣で見ていたが、頭の中で計算ができてしまうようだ。≪ソロバン≫をやっていたと言っていたが、何のことか分からない。異国の魔術か何かだろうか。神秘的で興味が湧いた。私にも教えてほしいものだ。


○月★日

今日もレイモンド副会長がアリッサの邪魔をした。私が仕事をしている傍で、アリッサの髪を撫で、腰に手を回し、あろうことかキスをした。アリッサは仕事が手につかなくなっている。貴重な戦力を奪わないでほしい。

王宮に出向く用事はレイモンド副会長に任せてはどうかと、先生に提案してみようか。


○月*日

今日は朝に廊下で呼び止められ、生徒会役員選挙立候補届を受け取った。今年の一年生はやる気がある者が多いようだ。

マリナの妹でアリッサの姉のジュリアが立候補する動きがある。剣技科の生徒が生徒会に入ることはあるが、会計になるのは珍しい。大丈夫だろうか。

レイモンド副会長がいるとアリッサの仕事が滞るので、先生に頼んでレイモンドに仕事を預けてもらった。王宮との連絡調整役は彼以外にできない。適任だと思う。これでアリッサも仕事が捗り、私も二人が戯れる様子を見なくて済む。


   ◆◆◆


生徒会役員選挙の準備で忙しくしていた頃、私は大変なミスをしてしまった。

いつも肌身離さず、鞄に入れて持ち歩いていた日記帳を失くしてしまったのだ。日記には日々の所感だけでなく、今後の予定も書きこんでいたので、大慌てで探したが見つからなかった。寮や学院の拾得物預り所を訪ねたが、私の日記と思われる赤茶色に金の縁取りがある手帳はなかった。


どこで落としたのだろう。誰かに中を見られるのは困る。

生徒会活動の記録をしていたはずが、最近ではアリッサの観察日記にようになってしまっていた。彼女は愛らしく勤勉で好ましい女性だ。傲慢なレイモンド副会長の婚約者で、私も彼女が生徒会室で迫られている様子を目にしている。筆頭公爵家の息子に迫られて嫌とは言えないのだろう。彼女を救いたい。私ならもっと幸せにできる。と、そんなことを書いていた気がする。


生徒会役員選挙は、キースは信任されたものの、会計の椅子を巡り混乱が発生したことから、立候補していた二人はどちらも落選となった。

選挙の翌日、落選に納得していないアイリーン・シェリンズが私の教室を訪れた。

「何でしょう。選挙については、学院長先生がお決めになったことです。もう動かしようがないのですよ」

「納得がいきません!私は悪くないんです!」

一貫して自分は被害者だと言い張る。彼女が怪しいと生徒会では睨んでいるのに。

「そうですか。ですが、私には何ともできないのです。お引き取り下さい」

「待って、待ってください、先輩!」

「用件は終わったはずですよ」

意識して冷たい言い方をして追い払おうとすると、アイリーンは私を見て楽しそうに笑った。

「会計が一人だけ……生徒会に入ったばかりのアリッサ・ハーリオンさんには大変ですよね」

「あなたには関係ないでしょう?」

「アスタシフォンからの留学生は来るし、学院祭はあるし……」

「だから何だと言うのです。彼女は誰より勤勉で仕事も頑張っています。きっとやり遂げられると……」

「私を生徒会の雑用として入れてくれませんか」

「お断りします」

――結局それが目的か。アリッサの話など持ち出して。

「そうですか……残念です」

「お分かりいただけたのなら……」

「アリッサさんは純粋な方のようですね。先輩の秘密を知ったら、どう思うかしら……」

アイリーンはポケットから手帳を取り出した。赤茶色に金の縁取りがあるそれは、私の日記帳に他ならない。

「最後の方、随分きわどいことも書いてますねえ。抱きしめて、口づけたい?……あ、夢の内容もすごかったなあ」

クラスの男子がこのアイリーンを可愛いなどと言っていたが、私には悪魔にしか見えなかった。彼女はクスクスと笑って私に決断を迫った。

「生徒会、お手伝いしてもいいですよね?マクシミリアン先輩」

アイリーンは首を傾げて、俯く私の顔を覗きこんだ。


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