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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 3 初めてのキスと恐怖の勉強会
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71 悪役令嬢は図書室へ誘う

――レイモンド、お願いだから早く来て!

文を書き写し、時折音読させられながら、マリナは何度も彼の登場を希った。

「マリナ」

左に密着しているセドリックの瞳が光り、視線が一瞬鋭くなった。

「今、レイのこと呼んだよね?」

――え?

早く来てほしいと願うあまり、つい名前を呟いてしまったらしい。

「レイモンドはアリッサ一筋だとばかり思っていましたが……少し、考えなければいけないようですね……」

ハロルドの瞳が怪しく輝いた。

「僕と勉強しているのに、レイのこと考えてたの?」

休み時間の彼の様子が脳裏を掠める。テラスでの一件以来、天真爛漫な変態王子だったセドリックの中に嫉妬心が芽生えたらしい。彼が嫉妬深いまま結婚すれば、不貞を疑われて幽閉される発狂王妃エンドへまっしぐらだ。

――嫉妬させてはいけない!

「い、いいえ、全然、ちっとも……」

「他の男のことを考えられないくらい、勉強に集中してほしいものです。……あなたが考えるのは、私のことだけでいいのですよ」

吐息交じりの囁きが右耳を溶かしていく。ハロルドの唇が耳に触れ、次の瞬間、耳たぶに痛みが走った。

――!?

彼を見ると、うっとりとマリナと見つめている。何か満足したようだ。

――もしかしなくても、耳たぶを噛まれたのよね……。

図書室で首筋にキスマークをつけられたことを思い出す。義兄はどんどん危険度が増してきているように思う。

「鏡を見る度に、私のことを考えてください」

セドリックに聞こえない小さな声で呟き、ハロルドはマリナの首筋を撫でた。


「マリナ、聞いてるの?」

「え?あ、はい……」

「よかった。君は心の準備が必要みたいだから、いいって言ってくれないかと思ったよ」

――準備?いいって言ってません!

全く話を聞いていなかったマリナは、セドリックが頬を染めていることに気づき、彼から離れようと身体を動かした。が、反対側にいるハロルドと密着することになってしまう。

「心配はいりませんよ、マリナ」

――いやいや、あなたが心配の種ですから!

とつっこむ余裕もなく、身動きをやめてアルカイックスマイルを作った。

「セドリック様、何のお話でしたかしら?」

話は仕切り直しだ。内容を確認しなければ、いいとも悪いとも言えない。

セドリックの指が頬を撫で、顎を上に向かされた。

――まずい。

「僕はね」

ゴクリ。

マリナの喉が鳴った。

「君にキスしたいって言ったんだよ?」

セドリックは王子オーラ全開で微笑み、右側からは粘りつくような視線を感じ、マリナは意識が遠くなりそうだった。


   ◆◆◆


医務室の治癒魔導士ロンに切り傷を治療してもらい、ジュリアは上機嫌で剣技科の教室に戻った。バイロン先生に呼ばれていたアレックスも、そろそろ解放されて教室にいるかもしれない。

教室のドアに手をかけ、中から話し声がするのに気がついた。

一人は女子生徒のようだ。クラスには自分以外に女子はいない。一体誰だろう。

「お願いがあるの、ジェレミー君」

――は?

相手はジェレミー?あの卑怯な巨漢男が?声だけでは判断できないが、女子は可愛い子のような気がする。あんな男のどこが良くて、甘い声で囁いているのか。ジュリアは信じられないものを聞いた気がした。

教室のドアをほんの少しだけ開けて、隙間からジェレミーを探した。

「何だよ」

「あなたにしか頼めないの。ね、お・ね・が・いっ」

――うげー。吐きそう。ジェレミーに色目を使う女子がいるなんて信じられない。

ジュリアは女子の声に引っ掛かりを覚えた。どこかで聞いた気がする。

再び隙間から覗くと、ピンク色のふわふわした髪が見えた。

――アイリーンだ!

ジェレミーを手駒にして何かを企んでいるのだ。間違いない。

可愛い女子に頼られて鼻の下を伸ばしているジェレミーは、アイリーンに耳打ちされて頷いている。ここから話の内容が聞き取れないのがもどかしい。


ポン。

「何してん……むがっ……」

後ろから肩を叩かれ、瞬時に振り返ったジュリアは、アレックスを壁に押し付けて片腕で逃げ場を塞ぎ、手で口を覆った。

「しずかに」

と口パクだけで告げる。

金色の瞳を見開き、こくこくと頷いたのを確認し手を外した。

「何だよ」

「教室にアイリーンが来てる」

「俺に魔法をかけたピンク髪の女か」

「ジェレミーと何か話してる。聞こえないけど」

名前を聞いてアレックスが眉間に皺を寄せる。鈍感な彼でさえ、嫌な予感はしたらしい。

「俺達の敵同士が手を組んだってことか」

「アイリーンは下心があるジェレミーをうまいこと虜にしたみたい」

「うん。なあ……」

「え?」

「さっきから、俺のこと壁に……その……」

アレックスは赤くなった顔を手で隠し、廊下の隅へ視線をやった。

――か、壁ドン!?

……を自分がしていたことに気づき、ジュリアは慌てて壁から手を離した。アレックスの方がかなり身長が高いので、完全には包囲できなかったが。

「ご、ごめん……」

「謝るなよ。……嬉しかったから」

――そういう恥ずかしいことを率直に言うんだよなあ、アレックスは。

「練習終わったし、一緒に帰ろうよ。単独行動は危ないもの」

「ああ。待ってろ、荷物取ってくるから」

アイリーンはまだ教室から出てこなかった。中に入るのは勇気がいる。

中に入ろうとドアに手をかけたアレックスの袖を引いて引き留めた。

「待って。行かないで」

「中に入るしかないだろ」

「危険すぎるよ。アイリーン達が帰るまで、どこかで時間を潰そう?」

「どこで?」

この時間になると食堂は閉まっている。

生徒会室に行けばアリッサがいるだろうが、部外者なので入るのが躊躇われた。

「んー……図書室とか?」

「お前が本読んでんの見たことないな」

「アレックスだって、殿下に首なし騎士の絵本を勧められてたくせに」

「あの時はまだ子供だっただろ」

「絵本の後も本読んでないでしょ」

「う……」

――本を読んだら私も寝そうだけど、ま、いっか。

不本意そうなアレックスを引きずり、ジュリアは図書室へ歩いて行った。


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