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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 3 初めてのキスと恐怖の勉強会
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65 悪役令嬢は侍女に忠告される

ベッドの上が白く光った。

リリーは「またか」と首をすくめた。

「お帰りなさいませ、エミリー様」

ローブ姿のエミリーがベッドの上に伏していた。

「……どうなさいました?」

近寄って靴を脱がせた。エミリーは顔を枕につけたまま、ぶるぶると震えていた。何か恐ろしい思いをしたに違いない。

「ご安心ください、エミリー様。ここは寮のお部屋ですわ。恐ろしい何かはここに追って来られませんから」

「追って……?」

枕から顔を上げてこちらを見たエミリーの顔が恐怖に歪んだ。

「追ってきたらどうしよう?……はっ!結界!結界張らなきゃ!」

「落ち着いてください!結界など張らなくても」

リリーはエミリーを羽交い絞めにし、ぎゅっと抱きしめた。

「……リリー……」

背中から伝わる熱が、エミリーの心を優しく包んだ。

「わたくしではお役に立てませんか?」

「……あのね」

「はい」

「目を開けたら、好きな人とキスしてたら、リリーはどうする?」


リリーは固まった。

とんでもない爆弾発言だ。エミリーお嬢様は『好きな人』とやらとキスしてしまったらしい。

それも、寝こみを襲われた……?

魔力回復のためと称して、すぐに昼寝をしようとする浮世離れしたお嬢様である。どこかで無防備に寝ていたところをキスされてしまったのだろう。キスに至る経過は想像できるが、そもそも『好きな人』とは誰なのか。一緒に登校している伯爵家のキースとは友人だと聞いている。

エミリーの正面に来るようにベッドサイドに座り直し、リリーはゆっくり話し出した。

「……わたくしの場合は、好きな人は夫のロイドです。夫婦ですから、目覚めのキスをされたことは何度もございますわ。ですが、お嬢様は……」

「……夫婦じゃない」

「そうですわね。その方とお付き合いされているのですか?」

「……してない」

「では、好きだと言われたことは?」

「……言われてない」

好きだと言われたわけでもないのに、付き合ってもいないのに、マシューにキスされてしまったのだと思うと、エミリーは情けないのと混乱とで再び枕に顔をつけた。

「お嬢様!そんなにお顔をつけられては、息が止まってしまいますよ」

「もう嫌。私ばっかり、こんな……」


自分の知らないうちにエミリーは大人になっていたのだ。激しい思いを相手に向けて無下にされたと思ったら、いきなりキスをされて戸惑っているのだろう。学院に入学するまで殆ど家から出たことのない筋金入りの箱入り娘だ。手練手管に簡単に騙されるだろう。相手は悪い奴に違いない。リリーは確信した。

「いいですか、お嬢様。そのような輩はこちらから関係を絶って、金輪際関わらないようにすべきです」

「関係を絶つ?」

「はい。話しかけられても答えない、目が合っても逸らす、向こうから歩いてきたら別の道を通る……」

「避けるってこと?」

「そうです。お嬢様は混乱されておいでです。その方に関わればまた、先ほどのような苦しい思いをなさることでしょう。この際ですから、ご決断されては?」

リリーはエミリーの手を取った。温かさがじんわりと広がった。


   ◆◆◆


「レイ様!」

四時間目が終わるとすぐに、アリッサは教室外に出て立っていた。しばらくして上階から下りてきたレイモンドを見つけて笑顔になった。

「待たせてしまったな。行くぞ」

はた目から見ればエスコートされているのだが、レイモンドの歩くペースは速い。小柄で歩幅が狭く、運動不足のアリッサにはついていくのがやっとだった。

「食堂はあちらでは?」

「いつも同じ場所ではつまらないだろう」


連れてこられたのは薔薇園だった。

――ここって……。

先日、ジュリアがアレックスにキスをして魔法を解いた場所である。魔力で年中咲かせている薔薇を庭師が整えた美しい庭園で、乙女ゲーム『永遠に枯れない薔薇を君に』、通称『とわばら』の鍵となるイベントが起こる場所でもあった。

「天気がいいからな。たまには外で食べるのもいい」

「そうですね」

白い椅子を引き、レイモンドはアリッサを座らせた。公爵家から連れてきている使用人が、昼食を手早くバスケットから出して用意する。

場所が場所だけに、アリッサは上の空になっていた。レイモンドはここで何をするつもりなのだろうか。鉄面皮のレイモンドがヒロインにデレて、中庭デートに誘われる。彼に告白されて、ルートに入ったと確認できるのだ。

――休み時間に誘いに来てくださったのよね。あの時も、いつもと違ってて……。

「アリッサ?」

呼びかけられているのに気づかないほど考え込んでいたらしい。

「あっ……」

「どうした?考え事か」

乙女ゲームのイベントを思い出していましたなどと言えるわけがない。アリッサは俯いた。

「……何でもありません」

小さな声でそう言うのが精一杯だ。

「そうか」

レイモンドも言葉が続かないようだった。


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