60 ヒロインは小躍りしたくなる
新章開始です。
ストーリーの進みが遅くてすみません。
【アイリーン視点】
学院長の頭が固いのには、怒りを通り越して呆れたわ。
悪いのはハーリオンだって何度言っても、私を生徒会会計にするって決めないのよ。
投票をしていないから結果がわからないだの何だのって。
騒動を巻き起こしたハーリオンが不適格なのは誰が見たって分かるはず。
あの爺さんにも魅了の魔法をかけておけばよかったわ。
演説は我ながら完璧だった。
それより完璧だったのは、アレックスの演説よ。
魅了の魔法の発動も、タイミングがよかったもの。
アレックスが「ジュリア・ハーリオンに一票を!」って言った時には、思わず顔がにやけてしまったわ。単純馬鹿だから、原稿を一字一句間違えずに丸暗記してきたのね。
彼には後でお礼をしないといけないかしら?
ジュリアとエミリーが先生に呼ばれた。
エミリーはドウェイン先生が尋問したと聞いて、何もかも狙い通りすぎて小躍りしそうだった。
三属性しか持たないモブ男のくせに、マシューに勝手に敵対心を持っているドウェイン先生が、ライバルを蹴落とすために愛弟子であるエミリーの失態を利用するのは明らかだったもの。マシューが放った魔法が無効化の闇魔法だと気づいていても、光魔法を使えないエミリーを問い詰めたんでしょうね。
ああ、あの能面女が泣きべそでもかいたのかと思うと、胸がすっとするわ。
「マシュー先生がエミリーさんを特別扱いするんですぅ」
って泣きついておいて正解だったわね。
◆◆◆
演説の翌朝、エミリーは何事もなかったかのように、キースを侍らせて教室に現れた。
――あら?
微かにエミリーから異質な魔力の波動を感じる。
「つらくありませんか、エミリーさん」
キース・エンウィが何かと世話を焼きたがっている。
「問題ない」
言ってる傍から顔色が真っ青よ。……具合が悪いなら帰って寝てろっての!
「こんな様子では、一時間目の魔法実技は乗り切れないかもしれませんね」
「……実技が、一時間目?」
エミリーが瞠目して固まった。
そうか、先生に呼ばれて教室にいなかったから、知らなかったのね。
昨日の帰りに時間割の変更が告げられていたのに。
他の教科の教科書も忘れてきたんでしょうね。いい気味だわ。
景色を見るふりをして観察していると、エミリーは細かく震えているようだった。
実技の時間以外は寝ているくせに、実技も嫌になったんなら、退学したほうがあんたのためよ?
「ねえ、キース。私、具合が悪いから、教室に残る……」
「分かりました。先生には僕から言っておきます」
「ありがとう」
ふーん。
いいこと聞いちゃった。
今日は邪魔者がいないってことよね?
思う存分マシューを独占して、私の虜にしてやるんだから。
何と言ったって、私が「永遠に枯れない薔薇を君に」、通称「とわばら」の主人公なんだもの。
魅了の魔法が使えない相手だって、絶対攻略できるはずよ。




