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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!
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58 悪役令嬢は人形になる

「……隷属の魔法なんか知りません」

エミリーは絞り出すように言った。先ほどから目の前の魔法科教師ドウェインから漂う魔力のにおいに気が遠くなりそうだった。彼の魔力は塗りたてのペンキのようなにおいがしている。

「強情だな。それなら他に誰がやる?」

ドウェインは細い目をさらに細め、エミリーのローブに手をかけた。

「アイリーン・シェリンズが魅了の魔法をかけたのよ」

本当のことを言っても信じる気はなさそうだ。首のリボンを解かれ、手で制しようとしても動けない。

――どういうこと?

「無駄だ。お前が寝ている間に捕縛の魔法をかけてある。逃げ出されたらたまらんからな」

魔力を抑制する腕輪だけではなかった。エミリーは背筋が凍った。

「操られていた奴らはお前が隷属の魔法をかけたんだろう?隷属の魔法は闇属性だ。闇属性を持たないアイリーンがやるわけない」

――アイリーンを名前で呼ぶの?

どこか引っ掛かりを覚える。この男とアイリーンはどういう関係なのだろうか。

「隷属じゃなくて魅了の魔法です」

トサッ。

エミリーのローブが床に落ちた。一部は椅子に引っかかっている。拾い上げようにも座ったまま微動だにできない。短いスカートと脚が完全に見えてしまう。

「入学以来問題ばかり起こしているお前と、清廉潔白なアイリーンでは、教師はどちらを信じると思う?」

「問題なんて……」

「毎日魔法を好きに使っていて、魔力測定では混乱を招いただろう?」

「あれは私が起こしたものではありません!」

フン、とドウェインは鼻を鳴らした。貧相な顔が歪む。

「この制服も問題だな」

ガリガリの腕が伸ばされ、エミリーの脚を骨っぽい指が撫でていく。

「やめて!……っく」

急に言葉が出なくなった。口は動くが音が消されている。

「制服を仕立て直すのは構わないが、これはあまりに扇情的すぎる」

ニーハイソックスより上の部分を手が行き来する度に、エミリーの身体に震えが走った。身体が動かせたら、魔法ですぐに解決できるのだが、腕輪のせいで魔法が使えない。この男のことだ、ドアにも何か仕掛けているだろう。

――助けて!嫌!

アメジストの瞳が涙に濡れ、一筋零れ落ちた。

「泣いても誰もこないぞ。大人しく私がやったと認めろ」

――私は、隷属の魔法を使っていません!

首を横に振ろうにも唇を動かそうにも、どこも動かせない。

「余程退学になりたいらしいな。選挙を混乱させた挙句、責任を逃れるために生徒指導室で教師を誘惑し……」

ドウェインの手が襟元のリボンをするすると解いていく。手の甲にエミリーの涙が滴った。


   ◆◆◆


「皆、ただいま!」

勢いよく生徒会室のドアを開けたジュリアは、全員が深刻そうな顔をしているのを見て目を丸くした。

「あれ?」

「ジュリア!大丈夫だったか?」

アレックスが抱きつき、弾みで後ろの壁に頭をぶつけた。

「ちょ、痛いってば!」

「悪い。……俺、心配してたんだ。悪い方に悪い方に考えて」

「だからって、いきなり抱きつくのは……その……」

心の準備というものがある、とジュリアは言いたかった。アレックスにかけられたアイリーンの魅了の魔法をキスで解いて以来、彼のスキンシップが度を超え始めている。

「先生にご理解いただけたの?」

マリナはアレックスを横に退かしてジュリアに尋ねた。

「うん。フィービー先生が、誰がやったか心当たりはないかって言うから、アイリーンだって言ってきちゃったよ」

「ジュリアちゃん、思いきったねえ」

「だってさ、やられっぱなしは性に合わないもん。先生に聞いたら、自分は関係ない、被害者だって言い張って、落ち度がないから選挙に当選させろって言ったらしいよ。頭に来るよね!」

「無茶苦茶だわ」

マリナが憤る。アイリーンが真犯人なのに。

「シェリンズがやったと証明できないからな。言いたい放題だろう。マックスがコーノック先生を呼びに行っている。先生ならあいつの悪事を暴けると俺は思う」

「そう言えば遅いね。魔力が回復しないのかな?僕が見に行ってこようか?」

「お前は出歩くな、セドリック」

「私、エミリーちゃんの様子を……」

「アリッサは一人で行ったら迷子になるわよ。戻るのを待ちましょう」


   ◆◆◆


「期待させたか?……お前が誘惑するのは俺じゃない」

――魔法の気配がする。私に、何を……。

ドウェインは指先に闇魔法を纏わせた。同じ闇魔法でも、マシューの魔力が持つシトラスミントの清涼感はなく、強い溶剤のにおいに吐き気がしそうだ。

「お前が隷属の魔法を使ったかどうかなんて、俺にはどうでもいい。後からいくらでも証言は取れるからな。お前が魔力抑制の腕輪を外された時、身体の拘束が解けるようにしてやる。……エミリー・ハーリオン。お前は俺に隷属する」

指先がエミリーの額をトンと突いた。体内に不快な波動が広がる。

――やめて!

人形のように瞳を見開いたまま、エミリーの上半身が後ろにぐらりと揺らいだ。

「主の命令だ。次にマシュー・コーノックに会ったら誘惑しろ」

魔力抑制の腕輪のせいで、エミリーは何の防御もできなかった。

「……そして、殺せ」

薄い唇を歪めてドウェインは笑った。


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