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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!
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閑話 マシューと猫(前) ≪連載2か月記念≫

ある朝、ベッドの中でエミリーは考えた。

――学校、行きたくない。面倒。

魔法実技に力を入れすぎて、魔力が回復せず全身がだるい。

遠見の魔法が使えれば、ベッドから出なくても授業が見られるのではないか。インターネット授業と同じように。

遠見の魔法を使うには、光属性と風属性の魔力が必要だ。自分には光属性の魔力がないが、光属性と闇属性は対になっており、大抵の光魔法は闇魔法で代替できる。

――きっと、あるに違いない!

今日のところは登校して方法を確認し、寮の部屋に引きこもるのは明日からにしよう。

ぐだぐだと寝ていたエミリーは、急いで支度を整え朝食へ向かった。


   ◆◆◆


「遠見魔法を身につけたい?」

昼休み。教え子エミリーのたっての希望を聞いた担当教官のマシューは首をひねった。

「光属性が使えないときついぞ?お前、光はまるでダメだろう?」

「闇魔法で遠見したいんです」

「……うーん」

それきり、マシューは考え込んでしまった。

しばらくして、はっと顔を上げて書棚に向かって手を上げた。一冊の本が彼の手元へ降りてくる。

「……ここを読んでみろ」

開いたページには動物の絵が描いてあった。

「動物使役……?」

「そうだ。動物の身体に自分の意識を乗せ、動物の目を借りて遠くのものを見る。犬や猫では近所が限界だろうが、鳥に意識を移すことができれば、かなり遠くまで行けるぞ」

――いい!学院内なら、犬や猫で十分だし。

「先生、この本、お借りできますか?」

「ああ。お前なら一読すればできるようになるだろうからな」

あまり長期間は貸したくなさそうだ。本の上部に押印がされておりコーノック家の蔵書だと分かる。

「ありがとうございます」

無表情で礼を言い、エミリーはマシューの教官室を後にした。


   ◆◆◆


寮に戻り、エミリーは軽く本に目を通した。成程、これなら難しくはなさそうだ。

「あとは、動物が必要、よね」

窓の外を見れば、トンボやコガネムシが見えた。

――虫はパスだわ。叩かれたら困るもの。

意識を乗せている動物が受けた衝撃は、術者にも伝わると本に書いてある。叩き落とされそうな虫や、気味悪がられる爬虫類系はやめておこうとエミリーは思った。


寮の外に出ると、数人の女子生徒が何かを囲んできゃあきゃあと歓声を上げている。囲まれているのは木箱のようだった。

「……何、してるの?」

真っ黒いローブを着たハーリオン侯爵令嬢に、後ろから声をかけられた令嬢達は、ビクッと肩を震わせた。

「ハ、ハーリオン様……」

「私達は決して、怪しい者では」

「いいから、何を……あ」

足元の木箱から小さな鳴き声が聞こえる。覗き込めば四対のつぶらな瞳に見つめられた。

「子猫……」

真っ白、真っ黒、銀灰色、三毛の四匹だ。見事にばらばらで親猫の毛色が想像できない。

「ええ。学院の校門の前に捨てられていたそうですわ。魔法科の先生が見つけて、ここに置いているとか」

見つけて保護したのなら、何故女子寮の前に置くのか。寮ではペットの飼育が禁止されているのに。さっぱり訳が分からないが、中にはこのように世話をしたがる生徒もいるようだ。

「あなた達、飼うの?」

「寮では飼えませんもの、ここで世話をするしかありません」

「食堂からミルクをもらって、昨日から時々あげているんです」

「そう」

先生がここに置いたのなら、近日中に引き取り手を探すのだろう。魔法の実験に付き合ってもらうには丁度良さそうだ。

――決めた。

エミリーは唇の端を上げて、ふっと笑った。


   ◆◆◆


「マシュー先生、猫はお好きですか?」

魔法科教師陣の会議の後、マシューは突然メーガン先生に声をかけられた。

「猫、ですか……」

実家では動物を飼っていなかったので、親しく触れ合ったことは数えるくらいしかないが、マシューは小動物が好きだった。兄との手紙のやり取りに小鳥を使うのもその一端である。

口ごもっていると、メーガン先生は見透かしたように話を続けた。

「いえね、独身寮なら猫が飼えるでしょう?よかったら貰っていただきたいの」

「先生のお宅の猫ですか」

「うちのじゃないのよ。昨日の朝出勤してきた時にね、校門の前で見つけたの。捨てられたんでしょうね」

――ああ、捨て猫か。

「女子寮の前に置いて、管理を頼んできたわ」

「寮では飼えない決まりでしょう?」

「そうなのよ。できれば誰か、先生方に引き取って欲しくて」

「……少し、検討させてください」

マシューの返事を肯定的に取ったメーガン先生は、

「頼んだわよ!」

と言い、嬉しそうにマシューの背中を叩いた。


   ◆◆◆


四匹の中から、銀灰色の子猫を選んだエミリーは、早速こっそり寮の部屋に連れ帰った。

椅子に座り、膝に子猫を乗せると、マシューから借りた魔法書を開く。書かれている呪文を棒読みで唱えると、一瞬意識が遠のいた。

「にゃーん」

子猫はエミリーの膝から飛び降りてしまう。途端にエミリーの意識がはっきりする。

――失敗だわ。

「ちょっと!おとなしくしてて!」

手で捕まえようとするものの、素早い動きに運動不足のエミリーはついていけない。魔法で障壁を出して行き止まりにし、何とか抱え込むことに成功した。

「はあ、はあ、はあ……」

――動物相手は、疲れるわ……。

毎日捕獲してから魔法をかける作業をするのかと思うと、登校するより面倒かもと思い始める。

――捕まえるほうがしんどいな。よし、ここは気を取り直して、再度魔法をかけよう。

子猫を膝に乗せる。魔法を詠唱して……。

ガタン。

寮の部屋のドアが開き、侍女のリリーが入ってきた。

「待って!」

物音に驚いた銀灰色の子猫は、一目散にドアへ走り、隙間から廊下へ出て行ってしまう。

黒いローブを持ち上げて追いかけるも、エミリーは廊下に出たところで見失ってしまった。



後編は今日中になります。

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