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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!
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48 悪役令嬢は屍の回収を依頼する

「魔法で帰りたい……」

最後尾を歩いていたエミリーがボソリと呟いた。

「ダメよ。校内でむやみやたらと魔法を使ってはいけません!」

歩く速さを遅らせて、マリナはエミリーの腕を掴んだ。

「マリナちゃんて、先生が見ていないところでも真面目よね」

「王妃は国民の模範となるんだから、ちょうどいいんじゃない?」

「ジュリア!」

「今日も殿下のお見舞いに行ったんでしょ。婚約者ってだけじゃ男子寮に入れてもらえないのにさ」

「ジュリアちゃんも昨日、アレックス君を迎えに行って応接間で……むむ」

アリッサの口をエミリーが押さえた。

「……その名前は、禁句」

はた、とジュリアが立ち止まった。

「アレックス……」

アメジストの瞳が濡れる。

「……遅かったか」

「う、ううう、うわぁーん!」

「ジュリア、道端で泣かないでよ」

「ええっ、ジュリアちゃん、どうしたの?」

エミリーがアリッサに耳打ちをする。

「まさか!」

「……本当の話。ジュリアには相当こたえたみたい」


   ◆◆◆


夕食のため、四人で寮の食堂から帰る時もジュリアの顔色は冴えない。表情は暗く、会話もろくにできなかった。

「ジュリアちゃん……大丈夫?」

「恋の病かな?やつれたらどうしよう……」

「あれだけ食べていたらやつれない。心配ない」

ジュリアは出された食事をぺろりと食べた。食が進まないことはないらしい。

「ほら、いつまでも泣いていると置いていくわよ」

「マリナちゃん、お母様みたいね」

「う、ひっく……アレックスっ……」


入浴を済ませた後の作戦会議は、予定を変更して今晩は『ジュリアを慰める会』を開催することになった。

「今日の議題は、アレックスの魔法をといて、ジュリアを助けるには……」

「魔法の効果はいつまでなの?」

「分からない。術者の技量と魔力の強さ次第」

「アレックスの様子はどうだったの、ジュリア?解決の糸口が見つかるかもしれないわ」

「……うん。今朝のこと、詳しく話すよ」


涙ながらのジュリアの説明は、付き合いが長い三人だから何とか分かるくらいに支離滅裂だった。

「……どう?エミリー」

「そうね。少し、効果が薄い気がする。ジュリアといたレナードに、無意識に嫉妬してる」

「えっ?嫉妬?」

マリナのハンカチで鼻を拭き、ジュリアがエミリーに詰め寄った。

「鼻水つけるな」

「ごめん」

「ジュリアちゃん、ちょっと、落ち着いて」

アリッサに後ろから抱きつかれてジュリアはエミリーを開放した。

「……表面はアイリーンに魅了されている。だけど、心の奥底までは魅了されていない、と思う」

「アレックスの心の奥の気持ちが表に出れば……」

「本当はジュリアちゃんのことが好きなんだもの。アイリーンの魔法なんてすぐにとけるよね?」

「どうすればいい?ねえ!」

うーん、とエミリーが唸った。魔法ではなく、アレックスの心に訴えかける方法とは何か。

「……殺されそうになっても、アレックスから逃げるな」

人差し指がジュリアの鼻先に突き付けられる。

「そうね。向き合わないことには始まらないわ」

「逃げちゃダメだね、ジュリアちゃん!医務室の前にいたのだって、アレックス君がジュリアちゃんと話したかったのかも」

「……アイリーンの魔法が完璧なら、アレックスはジュリアを無視する」

「うん。アレックスときちんと話をしてみる!」


   ◆◆◆


翌日。

熱が下がったセドリックが、レイモンドとキースと共に女子寮の前に現れた。

マリナ達が玄関先に立つと、例によって野次馬が左右に割れてリアルモーセ状態になっていく。

「お待たせして申し訳ございません。おはようございます、セドリック様」

「おはよう、マリナ」

「お加減はいかがですの?熱は?」

「ああ。昨日の夜にはすっかり下がったよ。心配をかけたね」

優雅に笑ったセドリックの瞳には、一昨日の朝には見られなかった影が宿っている。

「……セドリック様、私……」

「行こうか。今朝は生徒会室に寄ってもいいかな」

何か言いかけたマリナを遮るようにして、セドリックは婚約者の手を取った。


「キース、酷い顔色ね」

「誰のせいで寝不足だと思っているんですか!」

キースが絶叫した。別な意味にも取れる発言に、野次馬が一斉にこちらを見た。

「夜更かししたのは自己責任でしょう?」

「昨日魅了の魔法をかけた普通科の生徒に、一晩中魔法について訊かれたんですよ!」

「へえ。お疲れ」

普通科の生徒でも魔法に詳しい者がいるのは知っている。魔力がないか少ないために魔法科には入れないが、魔法の理論は誰よりも詳しいと自負しているような。スポーツができないのに薀蓄を語りたがる人と同じである。

「普通科は魔法科より安全だってエミリーさんが言うから。しかも、昨日は僕を置いて帰りましたよね?置き去りにするのは酷いですよ!」

「姉の非常事態で」

「ジュリアさんがおかしいのは気づきましたが……」

「アレックスが魅了の魔法をかけられてる」

「それは……もしかしてシェリンズさん?」

エミリーはアイリーンが魅了の魔法を使って選挙に勝とうとしていると、乙女ゲーム云々の話は出さずにキースに説明していた。

「当たり。解く方法しらない?本持ってるんでしょ」

「後で調べてみます。僕でお力になれるのでしたら」

「ありがとう」

エミリーが薄く笑うと、キースは火がついたように顔を火照らせた。


「ジュリアちゃん、しっかりして!」

アレックスが二日続けて来なかったことにショックを受けたジュリアが、ふらふらとアリッサにぶつかった。

「おい。アリッサにぶつかるな。しっかり前を見て歩け」

レイモンドが眼鏡を上げながらジュリアに冷たい声で言い放つ。

「……!」

急に何かを思い出したように、ジュリアが中庭へ走り出した。

「エミリー!一時間目が終わったら剣技科に来て。私が教室にいなかったら、中庭を探してくれると助かる!」

「えっ?ジュリア?」

「アレックスに会ってくる!刺されて死んでたら拾って帰って!」



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