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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!
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43 悪役令嬢は転移させられる

「次の試合は、アレックス・ヴィルソード、前へ。……相手は誰だ」

「ネオブリーです」

「ああ。では、レナード」

ロディアス先生に呼ばれ、ジュリアの隣からレナードが出て行った。階段を下りて練習場の真ん中に立つ。

「いい組み合わせだな。いつも二人で練習しているのか?」

「いいえ」

アレックスが短く答える。

「アレックスは俺を除け者にして、ジュリアちゃんと練習してるもんな」

にやりと笑ったレナードを、怒りに満ちた金色の目が鋭くにらんだ。


先生が「始め」の合図をする前に始まった二人の打ち合いは、三時間目が終わるチャイムが鳴るまで長時間に及んだ。剣を振るう力はアレックスが上だが、レナードの素早さについていけていない。意表をつく攻めに正攻法しかとらないアレックスは翻弄されている。

――危ない!

いつしかジュリアは心の中でアレックスを応援していた。近寄ったら殺すと脅され、彼に話しかけることもままならないのに、視線は何度か絡み合った。

「アレックス、レナード、終わりだ!」

他の生徒にも試合をさせたいと、ロディアス先生は二人を止めにかかった。やがて、練習場の中央に向かい合い、アレックスとレナードは剣を下ろした。

「うむ、いい試合だったな」

礼をした二人の頭を無骨な手ががしがしと撫でる。

「ありがとうございます」

レナードが言い、アレックスは黙って席に戻った。


「次は、ジェレミー。前に出ろ」

入れ替わりに、大柄なジェレミーが階段を上ろうとしたレナードを突き飛ばすようにしながら練習場の中央へ進み出る。

「お前の相手は?」

生徒達が皆目を逸らした。力任せで卑怯な戦い方をするジェレミーの相手をしたがる者はいない。

「ジュリア、前に出ろよ。俺に敵わねえからビビってんだろ」

団子鼻を擦り、上から目線でジュリアを見ている。隣の席に戻ってきたレナードが、挑発に気づいてジェレミーを睨んだ。明らかに今日のジュリアが本調子ではないと知って、勝てると踏んでいるのだ。

「あの野郎……」

レナードが剣を握った。ジュリアの白い手が止める。

「ジュリアちゃん?」

猫目を見開いたレナードと、頷くジュリアの視線が合う。

「……大丈夫」

「大丈夫なわけないよ。あいつの相手はさせられない!」

傍らに置いていた細身の剣を取ると、ジュリアはレナードの手を振り払い、銀髪のポニーテールを揺らして客席の階段を駆け下りて行った。


   ◆◆◆


「本物、なの?」

ベッドから身体を起こし、セドリックは何度も目を擦った。

「セドリック様……」

詩集と封筒を胸に抱いたまま、マリナはゆっくりとベッドへ近寄った。こちらを見るセドリックは顔が赤い。熱があるのか瞳が潤み、パジャマから見える首元も赤い。

「寝ていなくてはいけませんわ」

肩を押して寝かせようとすると、やんわりと手首を掴まれた。

「夢を見ているんだね。ふふっ……」

マリナの手を自分の頬に導き、柔らかさにうっとりと頬を染める。

弱々しくも幸せそうに笑うセドリックは、普段の華やかさとは異なる可愛らしさがある。イケメンは病気になってもイケメンなのだとマリナは思った。

「夢ではありません。フィービー先生が転移魔法で私をここへ……」

セドリックの青い瞳が一瞬で曇る。

「……ああ、先生に言われてきたんだね」

「セドリック様、あの……」

ベッドの左隣のテーブルの上に本と封筒を置く。視線を戻すと彼はベッドの上のどこかを見つめていた。

「用事は済んだんだろう?侍従に言って玄関まで送らせるよ」

冷たく事務的な口調で、マリナを見ようともしない。

「忙しいのに悪かったね」

セドリックの手がベッドサイドの呼び鈴へ伸びた。

「待って!」

マリナが両手で彼の腕を掴む。青い瞳が怪訝そうにこちらを見た。

「……何?」

「心配……だったんです。セドリック様がお風邪を召されたと聞いて」

「だから?」

マリナは怯んだ。

「見舞いに来たのは君の意思じゃない。先生に頼まれなければ僕に会いに来ようと思わなかった。王太子妃候補だから僕を拒めないだけで、本当は迷惑で仕方がないんだ。今朝も僕が迎えに行かなくて嬉しかったんじゃないか」

「嬉しくないです!」

「……っ、こんな、こんなことを言いたくないのにっ……」

セドリックの顔が悲しげに歪み、頭を抱えてベッドに突っ伏した。

「……君を責めるなんて最低だ」

「いいえ。私が悪いのですわ」

「マリナは悪くない。好きな男がいるのに、僕が無理強いするから……」

――!

やはりセドリックは見ていたのだ。マリナがハロルドに抱きしめられたところを。

「誤解です。あれは……」

「何でもないの?」

枕から顔を上げ、セドリックはマリナを見た。乱れた金髪が顔にかかっている。起きた勢いで引きつり、パジャマのボタンが一つ外れた。

「お兄様とは、私……」

躊躇いながら話し始めたマリナの左腕をセドリックの右手が掴んだ。熱に浮かされた青い瞳が妖艶に微笑む。

「……言わないで」

強い力で一気に腕を引かれ、ベッドの上に倒される。

「あっ……」

背中にマットレスの衝撃を感じた直後、目の前にはセドリックの美しい顔が迫り、至近距離からマリナを見下ろしていた。


   ◆◆◆


「アリッサさん、お客さんよ?」

マリナに置いて行かれて一人ぽつんと座っていたアリッサに、クラスメイトが声をかけた。

教室のドアまで出ると、マクシミリアンが本を持って立っていた。

「先輩。何か御用ですか?マリナちゃんは出かけていますけど……」

「アリッサさん、昼休みはお時間が空いていますか」

「はい」

今朝はレイモンドに昼食を一緒に取ろうと誘われなかった。必然的にマリナと食堂へ行くことになる。

「では、昼になったら生徒会室へ来てください。役員選挙は今日の昼で立候補が締め切られます。放課後にすぐに候補者の氏名を校内に貼り出すので、紙に大きく書き出す作業をしなければなりません」

「校内に……」

「掲示板があちこちにありますから、皆で手分けして」

――困ったわ。掲示板までたどり着けそうにないもの。

渋い顔で黙っていると、マクシミリアンは背を丸めてアリッサの顔を覗き込んだ。

「どうしました?」

「私、極度の方向音痴なんです。指示された通りに掲示板まで行けないと思うんです」

「何だ。そんなことですか」

背筋を伸ばしてマクシミリアンは優しく笑った。

「では、あなたには生徒会室の留守番をお願いしますかね。適材適所、です」

「申し訳ありません……」

「いいんですよ。その分、昼の名前書きは頑張ってもらいますから」

「はい!任せてください!」

アリッサが意気込むのを見て、マクシミリアンは再び笑顔になった。



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