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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!
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41 悪役令嬢は密会を問いただす

ジュリアはその場に崩れ落ちそうだった。

毎朝約束していたわけではないけれど、小さい頃から殆ど毎日のように共に過ごしてきたアレックスが、自分を避けて先に登校しただけでなく、薔薇園でアイリーンと親密な雰囲気になっている。魔導士と庭師により年中薔薇が咲き誇る園内は、恋人同士の語らいにはもってこいの場所だ。何も関係のない二人でも、ここに一緒にいただけで関係を疑われるような。

――どういうことなの!?

直接問いたださないではいられなかった。アレックスの口から説明を聞きたい。

唇を噛みしめ、ジュリアは薔薇園のアーチをくぐった。


「おはよう、アレックス。今朝は用事があったんだね」

レイモンドが言っていた用事が、アイリーンとの密会だとは思わなかった。アイリーンに弱みでも握られたのかもしれない。

「ああ……ジュリアか」

アレックスの金色の瞳がジュリアを一瞥し、さも不快なものでも見たかのように表情が歪んだ。

――え?

小さい頃から付き合ってきて、自分にこんな顔を向けた彼を見たことがなかった。

「何の用だ」

明るく親しみが持てる彼の声が思い出せないほど、冷たい声色に背筋が凍った。

「用って……えっと」

「アイリーンをいじめに来たのか?」

「へ?」

魔法科のエミリーと違って、ジュリアはアイリーンと接点がない。昨日の夜に中庭で対峙した時がほぼ初対面と言ってよかった。

「俺が見ていないと思って、女子寮では四人でいじめているそうじゃないか」

「はあ?いじめてなんかないよ!」

極力関わらないようにはしているけれど。

「他の生徒にも、アイリーンと話をするなと言って脅しているんだろう?」

アイリーンが他の生徒に距離を置かれているのは、過剰なブリッコのせいだってば!

「脅してなんかない!」

「剣技科のお前が脅したら、誰だって従うだろうさ」

「やってないよ!どうして信じてくれないの、アレックス!」

無条件で信じあえる相手で、無二の親友で、やっと最愛の恋人になった二人だったのに。

「信じる?」

アイリーンのピンク色の髪を優しく撫でた後、アレックスは目を見開いて立ち上がり、ジュリアの前に進み出た。

「何故俺が、お前を信じると思う?」

「それは……」

ジュリアは混乱した。アレックスと積み重ねた友情も、昨日の告白も、何かの力でなかったことにされている。残っているのは……。

「私が、アレックスを信じてるから!」

叫んだジュリアの目の前に、鞘から抜かれた練習用の剣が向けられた。切っ先がもう少しで顔に届きそうだ。

「……アイリーンに近寄るな。俺にもだ」

「……っ」

息が詰まる。堪えていた涙が溢れそうになり、ジュリアは必死に目を開けた。

「……近寄れば、殺す。分かったな」

ジュリアの返答を待たずにアレックスは剣を収め、アイリーンの手を引いて薔薇園を出ていく。

強い秋風が吹き、ざわざわと揺れた薔薇の花が花弁を散らした。


   ◆◆◆


「次の問題は、マリナさんね。前に出て解いてみなさい」

普通科一年二組は、一時間目は数学の授業である。出席番号順にアリッサが当てられて問題を解いた後、マリナが指名された。クラスの出席番号は家柄が上位の生徒から振られる。同じ家の子が同じクラスに在籍すれば、片方が妾腹なら本妻の子が先、同腹の双子の場合はアルファベット順である。したがって、長女のマリナより三女のアリッサの方が番号が先だった。

「マリナちゃん!」

後ろを振り返ったアリッサが、マリナの机を指でトントンと叩いた。

「あっ……」

はっとしたマリナが椅子から立ち上がる。

「どうしたの?話を聞いていなかったの?」

数学教師のフィービー先生がマリナの席へ歩いてくる。

「申し訳ありません」

マリナは項垂れた。隣の席の伯爵子息が「具合でも悪いのか?」と心配している。

「体調が悪いなら医務室へ行きなさい」

「いいえ、大丈夫ですっ」

「王太子殿下は風邪で欠席だと聞いているわ。一緒にいてあなたも風邪を引いたのね」

「……」

風邪を引かせてしまったのは自分のせいだ。マリナの心に先生の言葉が重くのしかかった。

「授業が終わったら職員室へいらっしゃい」

優等生のマリナが先生に呼び出されたことに、クラスの一同がざわめく。

「そうね、マリナさんの代わりに誰に解いてもらおうかしら」

先生が通る声で話し出すと、当てられたくない生徒達は一瞬で静かになった。


   ◆◆◆


「エミリーさん……本当に、やるんですか?」

黒いローブの袖を掴んだキースは、エミリーより頭一つは背が高いのに、まるで小動物のように怯えて彼女の陰に隠れた。

「何でもするわよね?」

「何でもって、あんまりじゃありませんか」

「私の気持ちも考えずに、魅了の魔法なんかかけて」

「うう……それを言われると……弱いです」

「……あそこ、分かる?」

魔法科の一年生は二時間目の歴史が自習になった。担当の学院長が、今朝ぎっくり腰になったらしい。皆おとなしく自習などせず、思い思いに過ごしている有様である。エミリーはキースを連れて校内を歩き、ある場所にさしかかって足を止めた。

「はい。剣技科の……三年生のようですが」

キースはブレザーとネクタイの色から判断して呟いた。

「魔法科は手強いでしょ。普通科でもいいけれど、魔力が高い子もいるわ」

「だからって剣技科ですか」

魔法科の生徒は、たいてい剣技科の生徒に恐れをなしているか馬鹿にしているかのどちらかである。キースはアレックスをバカだと思っているようだが、三年生は怖いらしい。

「うちのジュリアもそうだけど、魔力がなくて剣技科に入る貴族子弟も多いのよ」

「気づかれて、剣を振るわれたら……」

「私が何とかするわ」

ドン。

エミリーが背中を押すと、キースはよろめきながら三年生の一群に近づいて行った。


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