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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!
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38 悪役令嬢の作戦会議 5(後)

「マリナちゃんはどうしたいの?」

「そうだよ。殿下を諦めさせるなら、今がチャンスかもよ?婚約破棄に持ち込むならさ」

「婚約破棄されたら、没落死亡エンドじゃない」

「没落なんかしないよ。お父様は悪事を働いてないし、国王陛下とも仲良しのままだ。マリナが殿下と別れたって、殿下はアイリーンを選んでいない。アリッサはいずれレイモンドと結婚するんだろうし、エミリーは魔導士に、私だって騎士になる。マリナ一人くらい養っていけるよ」

「ジュリア……」

姉の肩を抱いたジュリアを見つめて、マリナは心なしか瞳を潤ませた。エミリーがマリナとアリッサの間に割り込み、

「王太子か、義兄か。マリナの気持ち次第」

と耳元で囁いた。

「……そうよね」

「マリナは、どっちが好き?」


王太子セドリックは、将来の結婚相手であり、幼い頃から交流してきた。泣き虫少年はこの数年で大人びて、多少しっかりしてきたように思える。友人としては好意を持っているが、恋愛的な意味で好意を持っているかと言うと疑問である。

義兄ハロルドとは、家族として数年を過ごしてきただけに思い出を共有している。行方不明になった時に彼はメッセージを残し、読んだ時には心が震えた。しかし、それは彼を恋い慕う気持ちからではない。家族として心配していたのだと思う。

「二人とも友人や家族にしか思えないの。私の中には、特別な恋愛感情はない、と思っているわ」

「本当に?」

「マリナちゃん、これからどうするの?侯爵家からは王太子妃になるのを断れないから、卒業したら殿下のお妃様になっちゃうよ?」

「セドリック様のことは嫌いではないわ。夫婦になったら、他の方に嫁ぐよりもうまくやれそうな気はしてる」

「見た目はザ・王子だから合格でしょ?学年一のイケメンだもんね」

「レイ様の方がかっこいいもん!」

「だから学年一って言ったでしょうが!二年の中では殿下が一番で、三年があんたのレイモンド、一年はアレックス……」

バシュッ。

ジュリアとアリッサの前に火の玉が発生して消える。

「惚気るな、迷惑」

目を眇めてエミリーが舌打ちした。

「王太子は変態だが……マリナが嫌いな軽薄男ではない。一途だ」

「ハリー兄様だって一途だよね?愛情が重すぎるってことを除けば、ちょっとした仕草が絵になるくらい綺麗だし」

「三年生の成績順では二番目だって。レイ様の次に」

「いちいちレイ様レイ様言わないでくれる?耳障りなんだけど」

「ひどい、ジュリアちゃん!」

「……二人とも黙れ」

エミリーの右手に濃い紫色の球体が現れた。


ややあって、マリナが決心して口を開いた。

「セドリック様には、明日説明するわ。私とお兄様は恋愛関係ではないって」

「理解してもらえるといいね」

こくり、とエミリーが頷き、

「不信感を持たれたまま結婚すれば、浮気を疑われて幽閉される発狂王妃エンドになる確率が高い。不安材料は早いうちに取り除くべき」

と静かに言った。

「エンディングかあ……アリッサとエミリーは、エンディングの悪夢を見ていないんだよね。私はこの間見たよ。マリナはずっと前だっけ?」

「ええ。リアルで苦しい夢だったわ」

「怖いよぉ、そんなの」

「泣かすな、後が面倒」

泣きべそをかきはじめたアリッサを抱き寄せ、エミリーが姉達に非難めいた視線を向けた。

「ヒロインは攻略対象と接触してきているわ。今日だって居合わせたアレックスと、マシューとは毎日会っているでしょう。エンディングが現実味を帯びてきている気がして」

「心配いらないよ、マリナ。アリッサは今日もレイモンドにお姫様抱っこされて……」

「そうだったわね。レイモンドがこれ見よがしに丁重に扱うから、寮の入口でフローラがきゃあきゃあ言っていたものね」

「あの子、派手に騒ぎすぎじゃない?悪い子ではないにしても、ねえ」

「私が足元を見ていなかったのが悪いの。レイ様やフローラちゃんを悪く言わないで」

「レイモンドの奴、アリッサの脚に触りすぎだったよね」

「……脚フェチ」

「否定はできないわ。明日はきっと噂の的になるわよ」


明日で立候補が締め切られる生徒会役員選挙について再度確認した後、四人はそれぞれのベッドにもぐりこんだ。

「ねえ、明日、殿下はマリナちゃんを迎えに来てくれるかなあ?」

「傷心のあまり寝込んでたりしてねー。ははは」

ぼすん、とジュリアがマットレスに転がる。

「笑い事じゃないわよ、ジュリア。はあ、どんな顔でお会いしたらいいか分からないわ」

「……表情の消し方、教える?」

「明日もマシューと仲良くね、エミリー?」

ジュリアがにやりと笑う。

「ちょ、な、やめて!」

闇魔法で天蓋の中を暗くしようとしていたエミリーが動揺し、辺りに霧が立ち込めた。寝具が濡れてじっとりと肌に密着する。

「冷たいよお、エミリーちゃん……」

「ジュリアがからかうからいけないのよ」

濡れたネグリジェを引き上げながら、マリナがジュリアに詰め寄った。エミリーのベッドから一番遠いジュリアだけがかろうじて被害を免れたのだ。


「着替え、持ってきた」

エミリーがクローゼットから三人分の夜着を取ってきてそれぞれ着替えると、濡れていないジュリアのベッドに押し寄せる。

「いくらなんでも狭いってば!」

「……うるさい。責任取れ」

「ここしかないんだもの、お願い、一緒に寝て?」

「よろしくね、ジュリアちゃん」

ハーリオン家の四つ子姉妹は、その日、十年ぶりに同じベッドで眠りについたのだった。


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