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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!
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33-2 悪役令嬢は近道をする(裏)

【アレックス視点】


しきりに俺に生徒会役員選挙に出ろと勧めてきていたジュリアが、生徒会役員に立候補することになった。レナードと三人で演説の原稿を考えていたが、皆いい案が浮かばなかった。痺れを切らしたレナードが、上級生の教室に話をつけると言って出て行ったがなかなか戻ってこない。大方そのまま帰ってしまったのだろう。


レナードが残していったメモを見ながら、話を組み立てていく。

「私が役員になった暁には……?ねえ、アレックス、アカツキって何?」

「暁は、うん。アカツキだよな」

「赤い月か何か?月は赤くないよね、どっちかっていうと黄色で」

「いいから続き書けよ。気になるなら入れなくてもいいんじゃないか」

「そうだね。……私が役員になったら、メイド喫茶をやります、と」

昼に話していた出し物の話か。短いスカートの侍女になって客を接待するんだっけ?

俺はジュリアのショートパンツから見える白い腿に目をやってしまう。無意識に、だ。

そんな短いスカートを穿いたら、何かの拍子に捲れてしまって……。

――けしからん!絶対に許さん!!!

「それ、やめにしないか?」

「メイド喫茶のこと?」

「ああ。俺、お前が給仕するの、見たくない」

本音を漏らすと、ジュリアはカチンときたようだった。

「私にできないと思ってるんでしょ!不器用だと思って」

「違う。俺は、単に……」

「うるさい!じゃあ、私に勝てたらやめてやるっ!練習場に行くよ!」

ジュリアはペンとノートを机に放りこみ、俺の腕を引っ張って教室を出た。


   ◆◆◆


練習場には、既に練習を始めている二年生の生徒達がいた。演説を考えていたから、俺達は練習場所争奪戦に出遅れてしまったのだ。相手が一年の誰かなら、時間を見計らって代わってくれと頼めるが、二年生には言いにくい。一頻り練習が終わるまで、俺達は周りにある椅子に座って眺めることにした。


「さっきの話だけどさ」

ジュリアの怒りを鎮めようと、俺はおそるおそる切り出した。攻撃パターンが変わらない先輩達の練習を見ているのも退屈だった。

「何?」

「お前が侍女になるのが嫌なのは……不器用だからってんじゃなくて」

アメジストに瞳がこちらを向く。長い睫毛が揺れ、何度も瞬きが繰り返される。

――こんな侍女に給仕されたら、誰だって誤解するだろ?

「他の奴にお前が給仕するのが嫌なんだ」

「さっき言ったのと変わらないじゃん」

「全然違うだろ!」

――俺専属の侍女になるなら、いくらでもやってくれ。

ジュリアは練習場の中央に目を向けた。気まずい時は決まって、遠くを見る癖がある。

「……私だって、嫌だよ」

――嫌ならやめちまえよ。

喉から声が出かかり、ジュリアが話を続けたので飲み込んだ。

「アレックスが執事になって、誰かに傅くなんて、優しくするところなんて見たくないよ」

言い終わって俺を見る。少しだけ目が潤んでいる気がする。泣きそうな顔も綺麗だ。

「ジュリア……」

言葉の意味を尋ねようとした時、二年生が練習場所を譲ると言いに来た。何だよ、いいところだったのに。


   ◆◆◆


いくらも練習しないうちに下校のチャイムが聞こえた。

「ええー?もうこんな時間?」

楽しい時間は早く過ぎる。ジュリアも楽しいと思ってくれている。ここに着いた時は喧嘩腰だったのに、剣で打ち合ったらわだかまりは解けた。

「始めたのが遅かったから、あっと言う間だったな」

剣を鞘に納める。本当はもう少し練習したいところだ。

「なんか、消化不良!身体が温まってきたところなのに。もっと練習したい!」

俺の気持ちを代弁してジュリアが駄々を捏ねる。唇を尖らせた顔も可愛い。

――ん?可愛い?

何だ、俺。おかしくなってないか?

綺麗とか美しいとか可愛いとか。ジュリアに言ったことあったっけ?

そもそも考えるのがダメだろ。親友なんだから。


   ◆◆◆


「夕方になったし、運動したし。腹減ったな」

ジュリアが言う近道とやらに案内されながら、俺は唸る腹を押さえた。

「同じくー」

「寮の夕食には間に合うよな?」

「大丈夫、すぐ着くよ」


左に行けば、通常の登下校に使用する外周道路。右に行けば中庭。

ブロック舗装路の分岐で、ジュリアは中庭に行こうと言い出した。

「どうかした?」

「……あのさ、ジュリアは中庭の話、聞いたことあるか?」

剣技科の実技の時間が終わり、更衣室で着替えている時、レナードが教えてくれた。王立学院の中庭は、生徒達がデートをする場所なのだと。レナードには兄が三人いるし、皆学院の卒業生だ。恐らく何度も足を運んだんだろう。

その中庭に行きたいという。つまり、デートってことだよな?

恥ずかしくてジュリアの顔を見られそうにない。が、俺の顔を覗き込むと言った。

「オバケ、ではなさそうだよね。アレックス、顔赤いし」

「ばっ……これは、違う!」

赤くなった顔ってどうやったら元に戻るんだ?俺は慌てて顔を拭った。

「何かあるの?一年生は入っちゃダメで、うっかり入ったら先輩にシメられるとか」

「ダメじゃない。ダメじゃ、ない、けど……あのな」

「うん」

「中庭はデートコースなんだよ」

「へえ、だから?デートでなくても通っていいんでしょ」

――デート、じゃ、ない?

俺の中で淡い期待が崩れ去り、風景がぼやけて見えた。


   ◆◆◆


中庭に行く気はなかったが、夕日も沈んだ中庭をジュリア一人で帰らせるわけにはいかない。何も考えずに彼女の後を追う。

「ねえ。何とか言ってよ」

「……」

「話、しないなら、一緒に帰ってる意味ないよ?」

そうだよな。お前にとっては、一緒に帰っているだけなんだよな。

例えここがデートスポットで、その辺に何組かそれらしい生徒達がいても、な。

「俺は、お前にとって、親友か?」

「うん。背中を預けられるのはアレックスだけだよ」

単なる親友だと思っている証拠だ。ジュリアの返事は早かった。

「……俺は、違う」

――親友じゃ、嫌だ。

「背中を預けられるのはお前だけだとは思ってる。一緒に戦いたい。だけど、お前が傷つくのは嫌だ。傷つかないように守りたいんだ!」

誘拐された時のことを思い出す。ジュリアが殺されそうになり、俺は武器を捨て死を覚悟した。迷いはなかった。

「アレックス……」

「騎士になって戦いたいお前には、迷惑なんだろ……」

誰かに守られるなんて、女騎士が身震いしそうな話だ。ジュリアは言うだろう。守られるなんてありえないと。

ジュリアを真っ直ぐに見つめた。

「お前が好きなんだ、ジュリア。……親友としてじゃなく、男として」

人生で二度目の告白だった。


「……ゴメン」

小さな呟きを耳にして、俺はその場に崩れ落ちそうになった。

かろうじて足を踏ん張って立っていたが、もうダメだ。明日は登校できそうにない。

「ああ、うん。そうだよな」

こいつはこういう奴だよ。付き合いが長いのに予想できなかった俺も馬鹿だけど。諦めて歩き出そうとすると、ジュリアが俺の腕を引いた。

「守られるだけなのは嫌。私だって、アレックスを守りたい!」

ジュリアの必死な様子に

「そうか」

としか言えない。頬が紅潮し、濡れた睫毛が煌めく。

「守りたいの……好きだからっ」

――!

ドクン。心臓が止まるかと思った。心臓は止まらず、早鐘を打っている。

一度だけ、エミリーの魔法薬でおかしくなったジュリアに告白されたことがある。その時は幸せすぎて、ここで死んでもいいとさえ思った。二度目も同じだ。

「お前の言う『好き』は、親友として、だろ?」

もう期待するのは疲れた。

「アレックスは親友だよ?これからもずっと親友でいたい」

――ほらな。

「だけど、それだけじゃ足りないの。私はアレックスの親友兼恋人になりたい!」

良く通る声でジュリアは高らかに宣言した。何組かの男女がこちらを振り返る。

聞こえてしまったと気づいたのか、急に声を小さくして

「いいよね?」

と挑戦的に見上げてきた。悪戯猫のようで可愛い。

「う……」

「じゃあ、恋人兼親友はどう?どっちか選んで」

「同じじゃねーか」

照れ隠しにぶっきらぼうに言ってしまう。ジュリアはそんな俺を見て笑った。

――今に見てろよ!

ジュリアの手を取り指と指を絡める。そのまま手を繋いで歩き出す。

「恋人繋ぎ?」

呟く声が聞こえたけれど振り返らない。赤くなった顔を見られてまたからかわれるだろうから。


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