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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!
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32 悪役令嬢は苦言を呈される

「アリッサ、ほら、ここ」

数字を書いていたアリッサの手を、レイモンドの長い指が握る。

「待って……うん。合っているな」

「ありがとうございます」

「君は本当に計算が速いな」

緑色の目を細めてアリッサの銀髪を撫でる。さらさらとした手触りを確かめ、唇を寄せる。

「……!」

アリッサの顔がかあっと赤くなり、彼女の右側に座っているレイモンドは、左手を腰に回して満足そうに頷いた。

「あ、あの……レイ様……」

小さな唇が震えている。レイモンドをちらりと見て、視線を書類に戻す。

「どうした?集中力が足りないぞ」

耳元に艶のある低い声で囁かれ、アリッサの身体がぞくりと痺れた。

「す、すみませんっ……」

生徒会室の中でこんな風にいちゃいちゃしていては、他の役員に迷惑だろう。目の前で黙々と仕事をしている二年生、マクシミリアン・べイルズは時折二人の様子を窺っている。彼に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「他の男を気にして……お仕置き、されたいのか?」

――うわあああああ!

何なの、お仕置きって!!!耳が、耳が溶ける!

アリッサの脳内回路がショートしそうだった。


「レイモンド副会長、仕事してください」

生徒会書記のマクシミリアンが、とうとう副会長に苦言を呈した。

「何だマックス。俺はアリッサを監督しているんだぞ」

「監督ではなく、邪魔の間違いではありませんか」

優しい声で淡々と述べるマクシミリアンは、相手が三年生でも怯まない。セドリック王太子は別格として、最高身分である筆頭公爵家のレイモンドに意見するなど、普通の生徒なら臆してしまうところだ。婚約者のアリッサでさえ、彼に意見を言う時には考えてしまう。尤も、現在の状況はアリッサにとって拒めるものではなかった。

「検算をしている。アリッサはまだ仕事に慣れていないからな」

「彼女は会計です。副会長には別の仕事があると思いますが」

「アスタシフォンから文書が来ていたな」

「はい。留学生受け入れに向けて、確認したいことがあるようです。王宮で開かれる歓迎の晩餐会には、会長と副会長に出席していただきます。王立学院・王立博物館・王立図書館の三者による懇談もこの先予定されていますし、王宮に詳しいレイモンド副会長が適任だと先生には言っておきました」

「おい。勝手に俺の仕事を増やすな」

「マリナさんは副会長になったばかりですし、殿下はマリナさんが入学してからというもの基本的に役に立ちません」

「セドリックが使い物にならないのは承知している」

「私は父が準男爵でも一代限り。身分は平民です。王宮に入ったことなどありません。限られた人員の中で、レイモンド副会長以外に仕事を全うできる方はいませんよ」

「……そうだな」

レイモンドは諦めてアリッサの腰から手を離し、立ち上がって部屋のドアに向かう。

「職員室へ行ってくる。セドリックが来たら、アスタシフォンからの文書を見せておいてくれ」

「分かりました」

バタン。

重厚な音がし、生徒会室の中にはアリッサとマクシミリアンの二人だけになった。


   ◆◆◆


二年一組の教室では、床に転がっているセドリックを、数名の生徒達が遠巻きにして見ていた。

「殿下、大丈夫かしら……」

「お身体の調子が悪いのではないか?」

「身体というか、頭?」

「しっ、聞こえたら大変よ。ちょっとあなた、どうしたのか聞いてきなさいよ」

「俺かよ!」

「こういうのは男同士よ。ほら、さっさとする!」

「へいへい」

女子生徒に言われてセドリックに声をかけた男子生徒は、床からこちらを見上げたセドリックに愁いを帯びた色気を感じ、一瞬息を飲んだ。

「うっ……あの、セドリック殿下。床にころが……いえ、床に寝て、お休みになっ……」

「僕がどうして床に寝ているのか、気になるの?」

「は、はい」

「僕もよく分からないよ。椅子に座っていると考えがまとまらなくて、横になりたいと思ったけれどここには長椅子がないからね」

「差し出がましいようですが、寮のお部屋に戻られては?」

王族専用の部屋には豪華な家具が据え付けられている。勿論、立派な長椅子もある。

「ありがとう」

とりあえず礼を言い、セドリックは再び取り留めのない考えをめぐらせた。


ハロルド・ハーリオン。マリナ達の義兄で三年生。レイモンドと仲が良いらしいが、自分が入学してからは接点はなかった。それなのに、今、マリナと自分の邪魔をしようとしている。

食堂から連れ出されたマリナは、嫌がっているようには見えなかった。ハロルドを信頼しているのか。自分と食事をするのが嫌だったのだろうか。マリナに嫌われているとは思わなかった。いや、マリナは自分が嫌いなのではない。アレックスやジュリアが言っていたように、マリナの心には誰かが住んでいるのだ。

――確かめなければ。

マリナに訊ねても、いつもうまいこと躱されてばかりだ。それなら、彼に聞くしかない。

ガバッと起き上がると、遠くから見ていたクラスメイトがビクッと寄り集まった。

「皆、心配をかけてすまなかったね」

優しく笑いかけ、セドリックは廊下に出て行った。



今晩もう1話アップできたらいいなと思っています。(時刻未定)

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