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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!
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31 悪役令嬢は堂々と授業に遅れる

「マリナちゃん、生徒会室行くでしょ?」

六時間目が終わり、いつもならば生徒会の仕事をするために、アリッサと生徒会室へ行くところだ。しかし、マリナには確かめたいことがあった。

「アリッサ。三年一組までつきあってくれる?」

「レイ様のクラスね!」

アリッサの声のトーンが1ランク上がった。余程嬉しいらしい。

「……幸せそうね、アリッサ」

毎日婚約者と楽しい放課後を過ごしている妹、片や自分は……。

昼休みの食堂で、自分を妃に(勝手に)決定している王太子と、重い愛で執着してくる義兄に挟まれ、飲み物も喉を通らなかった。

「マリナちゃん……」

眉尻を下げて悲しげに微笑むマリナに、アリッサは何も言えなかった。


「誘いに来たのか」

三年の教室へ行くと、ドアの付近でおろおろしているアリッサを見つけてレイモンドが出てきた。授業は終わっており、生徒は数名しか残っていない。彼らも教室を出ようとしているところであり、レイモンドは生徒会室へ行くところだったようだ。

「レイ様、ご一緒してもよろしいですか?」

「勿論だ。……マリナも行くだろう?」

「いえ、私は……用事がございますので、少し遅れますわ」

「そうか。セドリックには伝えておく」

用事が何なのか、マリナはアリッサに言っていない。教えれば心配して仕事が手につかなくなると思ったのだ。

「先に行くね」

「また後でね」

アリッサ達に手を振り、マリナは一つ深呼吸した。


教室の中を見渡し、窓辺に凭れて外を眺めている人物に目を留める。午後の光に照らされた癖のない金髪が煌めき、整った横顔は憂いを帯びている。

――いた。

帰りがけだった生徒達も皆出て行ってしまい、レイモンドもいない今、中に入っても咎める人はいない。残っている生徒は、ハロルドただ一人だ。

「お兄様」

中ほどまで進んで声をかける。

外の風景から視線を外し、ハロルドはゆっくりとマリナに向き直った。

「マリナ……」

また数歩近づき、囁き声でも届く範囲に立つ。

「お話があって、参りました」

凛としたマリナの声音に驚き、ハロルドは数回瞬きをした。


   ◆◆◆


六時間目が終わり、教師が退出した瞬間に、エミリーは転移魔法を発動させた。

寮の自室へ戻り、すぐにもベッドに蹲りたかった。

ぼふん。

自分のベッドに転移して枕に顎を乗せた。

――どうしてあんなことに!

アイリーンに喧嘩を売られ、話が長くなりそうでハイハイと返事をしていただけなのに、どうやら彼女はエミリーがマシューを好きだと勘違いしてしまった。それだけならまだしも、二人の会話をマシューがしっかり聞いてしまった。


「……アイリーンの奴が、甲高い声でキャンキャン叫んでいたから外に出て見れば」

マシューは一つ咳払いをした。

「ん、その、……何だ。お前は俺のことが好きなのか」

――単刀直入すぎ!これだから引きこもり魔導士は!

エミリーは顎が外れるかと思った。無表情で、思っただけである。

「アイリーンの話に適当に相槌打っていただけで」

「薄々感じてはいたんだが……」

――ひとっつも聞いてねーし!

口元に手を当て、視線を逸らしたマシューは、ほんのり頬を染めている。

――どこが!?薄くも表現したことなんかないっての。何照れてるのよ!

「あれは……好きか嫌いかで言えば、好きだと言ったまでで」

これで逃げるしかない。

「ああ、うん……」

「王宮の魔法事故の時だって、嫌いなら放置して帰ってるし」

「そ、そうだな……」

「あ、遠見魔法で覗くのは別。はっきり言って変態だと思う」

「それは……」

「でも、誘拐されたジュリア達を助けてくれたし、この間だって私を助けてくれて」

「……まあな」

「見た目は……前髪が鬱陶しいなとは思うけど、カッコいいし」

はっ、とマシューの瞳が見開かれた。赤い左目に魔力の光が灯る。

「だから、マシュー先生のことは、割と好き……だと思う」

挙動不審なマシューを下から見上げる。

「っ!」

息を呑んで半歩後ずさり、マシューは目を伏せた。辺りにシトラスミントの香りが漂う。マシューの魔力が漏れているのだ。

「……魔力が漏れてる」

「お前が動揺させるようなことを言うからだろう!」

真っ赤になって反論する様子は、同級生の男子と変わらないような気がする。

女子生徒に好きかもって匂わされていちいち動揺するようでは、思春期の子供達が通う学院の教師は務まらない。大丈夫なのか、この人は。

「教室に戻ります。……お昼休み、終わっちゃったから」

エミリーが踵を返す。

「待て」

マシューの骨ばった繊細な指が、エミリーの腕を掴んだ。


あの後、五時間目の途中まで時間をかけてゆっくりと、マシューに差し出されたパンや果物を食べて教室に戻った。戻る際もマシューが転移魔法を発動させて付き添い、今の今まで説教していたと数学の教師に説明してくれた。

――何となく、甘やかされているような気がするわ。

ぐうたら生活を夢見て魔法がある世界に転生したのに、このままでは魔王に絆されそうだ。

エミリーはうつ伏せになって枕に顔を埋めた。


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