表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 1 出会いは突然じゃなくて必然に?
15/616

11 悪役令嬢の密談 4

馬車の中でこぶを作って、私が男と……と譫言のように呟く侯爵が邸に着いた時、侍女達は旦那様が心の病にかかってしまわれたと騒然となり、執事のジョンが一喝して男達数名に主人を寝室まで運ばせると、すぐに侯爵夫人を呼びに行かせた。

夫が寝息を立てたのを確認し、侯爵夫人は自室にジュリアを呼び、事の顛末を聞き出そうとした。

「馬車が揺れたのね?」

「うん。道がでこぼこしてたみたいで、お父様が前に転がって」

「じゃあ、何で男がどうとか言っているのかしらね?」

「う」

「ジュリア、あなたお父様に何か言ったのね」

いつも通り、目が笑っていない侯爵夫人は、ジュリアの目を見てゆっくりと話す。

「お父様が」

「お父様が?」

「男の方と、恋人になったことがあるかって聞いた」

「はあ?」

ヒイイイイ!

侯爵夫人の目が三角に見えるほど吊り上がり、ジュリアは心の中で悲鳴を上げた。なまじクール系美人なだけに、怒ると迫力が半端ない。銀髪と紫目と白い肌が全体的に無機質な印象でも、今は全身で怒っているのが分かる。

「この私を妻にしておきながら、男に走るなんて!ありえない!」

怒りに震えた侯爵夫人が大股で夫婦の寝室へ戻る。侍女が後を追う。

「た、助かった……」


   ◆◆◆


「お母様、怖い。マジで」

ジュリアはアリッサのベッドの上で、他の三人に説明していた。

「お父様が男と付き合うなんて、無理でしょ」

「お母様に知られたら、運河に突き落とされるか、アレをちょん切られて……」

四姉妹の母は元王太子妃候補であり、夫や家族におだてられて育っただけにやたらプライドが高い。

「エミリー。はしたないわよ」

「お父様はどっちかしら」

「どっちって。うーん、≪受け≫かしら?」

「こら、アリッサ!そこ、ジュリアも笑わない!あなたが変なこと言うから、お父様が倒れたんでしょう」

「倒れたのは馬車が……」

「譫言で男、男、って呟いてる」

「今頃お母様に問い詰められていると思うわ。可哀想なお父様」


ヴィルソード侯爵邸で、アレックスとあわや全裸水浴びになりそうだった件について、ジュリアは包み隠さず姉妹に打ち明けた。

「危なかったわね、ジュリア。無理やり脱がされた挙句、女だってバレたら、騎士家系のアレックスのことだから、責任を取って婚約するとか言い出しそうだもの」

「執事さんグッジョブ!面倒くさいブラウスで助かったね、ジュリアちゃん。お母様にもっと凝ったブラウスをおねだりしようね」

「……で?どうなの。見たの?」

ニヤリ、とエミリーが唇の端を上げる。

「あー、私も気になるぅ。どうだったの、ジュリアちゃん」

見たかと言われれば見たのかもしれないが、はっきり見たわけではなく。ジュリアは返答に困った。

「分かんないっ!どうせ見たって子供なんだし!」

「そうよねー」

「うちの隣に住んでた奴も、夏になると妹と二人で庭で水浴びしてたでしょ。あれと同じ!」

ジュリアは前世の隣人を思い出した。この少年が成長してやがて、四人を死に至らしめる火災を引き起こすのだが。

「今日は未遂だったけど、成長していけば体つきも変わるし、いつかは女だってバレるよ。マリナの言うように、男としてアレックスを誑かすのは難しい。お父様なら何か知らないかと思ったんだよ」

一同は、ああーと生温い目をしてジュリアを見る。第一、質問する内容がおかしいし、質問する相手もおかしいし、猪突猛進過ぎて救いがたい。

「お父様だって普通のアラサー男なのよ。いくらイケメンで、男友達が多くても、いきなりあなた……」

「お父様は両刀ですか?って聞いたようなものね」

「エミリー!」

「分かりやすく言ったまで」

「お母様怒ってたし、夫婦喧嘩になっちゃうよぉ」

アリッサが熊のぬいぐるみを抱きしめ、目に涙を溜めている。家族の仲が険悪になることに人一倍敏感なのである。

「分かった。私、行って謝ってくる!」

「ジュリア!」

ベッドから飛び降りたジュリアが走り出すと、運動不足の三姉妹は追いつくことができなかった。


   ◆◆◆


ジュリアが両親に謝罪する時間は、相当かかると思われた。マリナ・アリッサ・エミリーはそれぞれのベッドに横たわり、部屋を消灯して寝る準備を整えていた。

バン!

勢いよくドアが開かれ、息を荒くしたジュリアが飛び込んでくる。

「あら、随分早かったわね」

「お父様寝ちゃってた?」

「ハア、ハア、ハア……」

「別に走って戻ることないのに」

「いや、あの、は、早く戻りたくてっ」

三姉妹は、日頃庭を走り回っているジュリアが、こんなに全力疾走して顔を赤くしているのを見たことがなかった。

「何かあった?」

入口近くのエミリーのベッドに座ったジュリアを囲むように、三人が座った。

「お父様とお母様の部屋に行こうとしたんだ。そうしたら、行くなって侍女が止めるから」

「強行突破したんでしょ」

「うん」

「ジュリアちゃんの足の速さには誰も勝てないものね」

「うん。で、さ」

「お母様、怒ってた?」

「怒って、はいなかった。部屋の傍まできたら、中からお母様の……声が聞こえて」

ジュリアの声が次第に小さくなる。

「声が?」

マリナが首を傾げる。

「ふうん。アレでしょ」

エミリーがにたりと笑う。

「アレってなあに?」

「喘ぎ声ね」

「なっ!」

こくん、とジュリアが真っ赤になってカクカクと頷くと、マリナが声を上げて赤面し、アリッサがぬいぐるみの首を絞めた。


翌朝。

家族でとる朝食の席に侯爵夫妻は現れず、姉妹とハロルドは子供だけで食事をした。

事情を知らない義兄は、侯爵が病に倒れたと思っていたが、執事から現状を知らされ真っ赤になって俯いていた。

「ジョンてば、絶対オブラートにくるまないから」

「お兄様意外と初心なのね」

「マリナに対しては手が早そうだけど」

「何言ってるのよ」

こそこそ話をしながら義兄に視線を向ければ、青緑の瞳がこちらを見ている。

小さく溜息をついてマリナは野菜を口に運んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ