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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!
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19 悪役令嬢は恋人繋ぎをする

独身寮の一つから出てきたのだろう。マシューは黒いローブの下にシャツを着崩しており、ただならぬ色気を発している。突然のことに驚き身動きできないエミリーの傍らに膝をつき、気遣うような視線を送ってくる。

「はい、大丈夫です。ご心配をおかけしました」

マシューの手がエミリーの銀髪を撫でた。生徒に対して馴れ馴れしすぎると思う。

「……そうか。ならいい」

憮然としてキースを見た。木の傍に倒れたままだ。

「あいつにはもう一撃くれてやるか」

――私が襲われていると思ったのかしら?

「やめてください。彼は友達なんです」

「友達?お前を押し倒すような奴がか。……二人の時は俺に敬語を使うな。このへんが痒くなる」

――痒くなるって……。もう少し言い方があるでしょうに。

「キースは転移魔法が下手なの。私の上に転移したのも、もう三度目。怒るのも面倒」

「三度目……」

マシューの目が眇められ、左手に闇色の魔法球がゆらゆらと浮かび上がった。

「やめて。本当に」

「……分かった。ところで、お前はどうしてここに」

「あなたを探しに来たのよ。魔法実技の授業なのに帰ったから」

気怠そうに息を吐き、マシューは呟いた。

「あの女に会いたくなくてな」

「誰のこと?」

少なくとも自分ではないようだ。こうやって普通に話しているのだから。

「分かっているだろう?ピンクの髪の奴だ。学院内で俺を見かける度に、魅了の魔法を使ってくる」

「魅了の魔法!?」

「相手の深層意識に働きかける危険な光魔法だ。何度もかけられると精神が崩壊する」

――マシューの精神が崩壊したら、魔王エンドまっしぐらじゃない!

「崩壊したらダメ……」

危険なのは分かるが、どうやって防げるのだろう。

「俺は問題ない。毎回無効化しているからな。他の生徒はどうか分からない」

「生徒にもかけている?」

アイリーンはマシューだけではなく、他の攻略対象者にも魅了の魔法をかけているのだろうか。セドリックとレイモンドは魔法がそれなりに使えるし、発動を感知して対策も取れるだろう。だが、アレックスは魔法が使えない。格好の餌食ではないか。

「校内でも何人か、あいつの魔法の気配を漂わせている男子生徒を見たぞ。目がヘンな奴には近づくな。いいな」

「怖い。何が目的?」

「さあな。俺は関係ない」

「受け持ちの生徒なのに?」

マシューが「げ」と言って固まった。

「光属性とあと二つかそこいらしか持っていないのに、何で俺が担当に……」

「彼女の暴走を止めたから」

「そこか……」

がくり。

「何が悲しくて、危険人物に一対一で魔法を教えなければならないのか……」

その場に頽れたマシューの前に膝を揃えてしゃがみこみ、顔を覗き込む。

「私も」

はっ、と顔を上げる。

「私の担当も、よ。五属性の私に教えるために呼ばれたんでしょ」

「あ、ああ、そうだったな!」

死人のようだったマシューの顔色が元に戻った。少し赤みが差している。

「改めて、よろしくお願いします。……と、昨日はありがとうございました」

人形のように整った顔に微かに笑みを浮かべ、エミリーは倒れているキースの方へと駆け出した。


   ◆◆◆


「次は移動教室だね。一緒に行こうか、ジュリアちゃん」

後ろからレナードに声をかけられる。

「練習場だっけ。……おーい、アレックス」

窓際の一番前の席に座っていたアレックスがこちらを振り返る。席を立ってジュリア達の方へ歩いてきた。

「練習場まで一緒に行こうよ」

「ああ。……で?そいつも一緒か?」

レナードを一瞥して、アレックスの視線が厳しくなった。

「そいつって……俺の扱いひどくない?」

侍女のエレノアからレナードの兄達の様子を聞き、アレックスは彼らの弟に対する目が変わってしまった。レナードも軽薄な自己中心的な男だと決めつけている。人物評価があながち間違ってもいないところがミソである。

「いいじゃん、皆で行こうよ」

ジュリアが立ち上がり、教室のドアへと歩き出した時だった。

「おー、侯爵家のお嬢さんが男二人を侍らしてるぜ」

――何?

キッ、と声の主を見る。

「一人じゃ満足できねえんだろう?二人がかりじゃねえと悦ばねえのか」

ジェレミーがにやにやしながら三人を交互に見ていた。

「何言ってるの?」

――嫌な言い方!首をしめてやろうか?

初めての練習試合の後も、ジェレミーは相変わらずジュリア達に突っかかってくる。唯一の女子であるジュリアも、騎士団長の息子のアレックスも、ジェレミーにとっては気に入らないらしい。レナードに至っては彼の眼中にないらしく、冷やかしはおろか声もかけない。

「二度と口がきけないようにしてやってもいいわよ?」

殴りかかろうとする腕を両脇に立つ二人に押さえられる。

「……やめろ、ジュリア。あんな奴相手にするな」

「手を出したら負けだ、ジュリアちゃん」

「だって……悔しいっ」

「次の練習試合でぶちのめしてやればいいさ。行こう、遅くなるぞ」

アレックスにおとなしく手を引かれ、ジュリアは渋々教室を後にした。


廊下を少し進んだところで、ジュリアは見覚えのある生徒とすれ違った。

――何で、剣技科の校舎にいるの?

ピンク色の髪をふわふわ揺らしたアイリーンが、ジュリア達の一年剣技科の教室に入っていく。

「今の子、魔法科だね」

アレックスに女たらし認定されたレナードが早速チェックする。ちょっぴり可愛い女子とみればいつもこうなのだ。

――うちのクラスに何するつもり?追いかけなきゃ!

追いかけようとするも、アレックスが指を絡めて手を繋いでいて戻れない。がくんと腕を引かれてしまう。

――って、このつなぎ方、何?

ジェレミーに対する怒りで気にしていなかったが、これって……。

「ちょっと、アレックス」

「ん?」

「手……恋人繋ぎになってんだけど」

「えっ!?」

アレックスの顔色が変わった。

「こ、こいび……」

――あ、恋人繋ぎって知らないんだ。

「恋人繋ぎっていうのはね、こうして指と指が絡まってさ」

繋いだ手を二人の前に持ってきて説明する。アレックスの骨っぽい指が見える。

「がっちり繋いでるのを言うんだよ。分かった?」

「あ、ああ、うん」

挙動不審のアレックスは、ジュリアの顔を見ることができず、おろおろと視線を彷徨わせている。

「あ、あの、さ……」

「何?」

「ジュリアは、その……嫌じゃないのか?俺と、こっ、恋人繋ぎするのは」

「嫌じゃない」

どうしてそんなこと聞くの?と言わんばかりの即答に、アレックスはさらに挙動不審になり、練習場に着くまで三度壁にぶつかった。


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