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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
学院編 1 魔力測定で危機一髪
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13 悪役令嬢の悪夢 2

流血シーンありです。苦手な方は飛ばしてください。

薄暗い部屋。遠くに見える窓から白い光が差し込む。

ジュリアは眩しさに薄く目を開けた。

「もう、朝かあ……」

濃い色のカーテンが目に入る。四人で決めた寮の部屋のカーテンの色は確か、自分とマリナが押し切って明るい色だったはずだ。あんな重苦しい色ではなく。

起き上がろうとして、ガシャン!と音がした。

天蓋付きベッドの柱に、金属製の手錠で右手首が繋がれている。鎖の長さが短く、柱に近寄らないと起き上がることさえできない。

――何、これ……。

手錠で擦れた手首が赤紫色に変色し、毎日稽古で鍛えた腕も治りかけの傷や新しい傷が無数にあった。こんな傷ができるような、危険なことをした覚えはない。

傷は腕だけではない。寝具を剥がして全身を見れば、着ていたはずのパジャマはなく、一糸纏わぬ姿で傷だらけだ。姉妹がいた部屋から知らない部屋に連れてこられたのだろうか。

――痛っ。

どこが痛いのか分からない。全身があちこち痛んで、動く度につらい。


ギイ……。

部屋のドアが開く音がした。誰かが入ってくる気配がする。

光が乏しくて顔が見えないが、背の高さから男性のようだった。

――服着てないのに、どうしよう。

男は天蓋の幕を纏めていた紐を解き、僅かな光さえ届かなくなった。

「目を覚ましたか」

――誰?

幕で覆われた暗闇でいくら目を凝らしても、ジュリアには彼の顔が見えなかった。

「口も利きたくない、か」

ふっと笑った気がした。指先が寝具に伸び、剥がされそうになる。

「やめて」

「何だ、話せるじゃないか。昨晩はつい、殺してしまったかと思ったが」

――こ、殺すって、ヒイイイイ。

「流石、女騎士は頑丈だな。多少無茶をしても死なないとは」

――騎士?私まだ、学生なのに?

「死にたくなければ、ここから逃げ出そうとしないことだな。……まあ、すぐに捕まえてたっぷりとお仕置きしてやる」

話からすると、前日に自分はこの部屋から逃げて、捕まってしまったらしい。昨日は学院に行ったのだから、おかしい。

――夢?

悪夢にしてはリアルすぎる。薄い寝具の上から自分の身体をなぞる男の手の感触がやけに生々しい。騎士の白い手袋が暗闇に浮かび上がる。

――こいつ、騎士か?

「侯爵令嬢を妻にすれば、少しは楽な暮らしができると思ったが……。結局は騎士の手駒が欲しかったということか。娘の身体と引き換えに、王の首を取れとは、侯爵も無茶な注文をするものだ」

――お父様が、何を?

国王殺害を依頼し、報酬として自分をこの男に与えたというのか。

あの優しい父が、そんな酷いことを?信じられない!

――声、が、出ない!?

お父様はそんなことをしない、と言おうとして、ジュリアは息ができなくなった。声が出ない、音にならない。

「王に刃を向ければ命はない。俺は命が惜しいが、お前の父に刃向っても殺されるだろうな」

カタリと音がし、男がベッドサイドのテーブルから何かを持ってきた。幕が揺れて一瞬差し込んだ光で、それがレイピアだと判る。美しい装飾がされた短剣が鞘から引き抜かれた。

「見えるか?ほら、少し変色しているだろう?」

クッと笑い、男は刀身をジュリアの鎖骨のあたりに当てた。

――殺される?

何なの、夢見が悪すぎる!!!

「美しい剣が、お前の血で染まった証だ。あの赤く輝く様をもう一度見たい」

「やっ……」

左手で払おうとすると、力強い手が手首を掴んだ。頭の上に押し付けられる。

「怖がらなくていい。少し、斬るだけだ……」

――少しでも何でも嫌だ!

どうにかしてこの狂った男の手から逃げなくては。

身体を捩ると、切っ先が僅かに肌を掠めた。

――痛いっ!

レイピアがシーツの上に投げ出される。男の顔がジュリアの胸に近づき、傷口に生温かくざらりとした感触がした。ピチャピチャと音がする。

――舐められてるの?

「やだ、やめ、て!」

ジュリアは思い切って脚を振り上げた。


   ◆◆◆


ダン!

突然隣から大きな物音がし、マリナは跳ね起きた。アリッサも目を擦りながらゆっくりと身体を起こした。

「……ジュリア?」

ジュリアが寝具諸共床に転がっていた。

「ん……」

全身を打った痛みをこらえ、ジュリアが目を開ける。

そこには自分を心配して覗き込む姉の顔があった。

「マリナ……よかった、ここ、寮だ」

マリナは不思議そうに妹を見た。

「寝ている間に移動するわけないでしょう?」

「だよね」

「どうしたの?酷い顔色よ。汗もかいて……」

首のあたりにかかった銀髪を払い、ジュリアはパジャマの襟元から身体を確認した。

――傷は、ない。

当たり前だ、単なる悪夢なのだから。

「嫌な、夢見ちゃってさ」

「まあ」

「多分、アレックスルートのバッドエンドなんだろうね。騎士の男に監禁されてた」

「怖いっ……」

起きて近寄ってきたアリッサが震えてマリナに寄り添った。

「やけにリアルで、超怖かった。あんなおかしい奴が騎士にいるなんて」

「騎士が変態なの?」

「私をレイピアで傷つけて、血を舐めた」

「ひいいい」

アリッサはマリナの袖を引き、ガタガタ震えている。

「夢の中では、お父様が国王陛下のお命を狙い、その騎士に暗殺を命じたらしい。私はその報酬、前払いってわけ。あり得ないから途中で夢だって分かったんだよね」

「夢ならいいけれど……私も、バッドエンドの夢を見たことがあるから、気になるわ」

「マリナちゃんも?」

「ええ。王太子妃になっていたわ。悪阻で公務を途中で抜けた私を、セドリック殿下が責めたわ。私と騎士の不倫を疑って……」

「酷い……」

「ゲームでは悪役令嬢の末路が詳しく描かれていないでしょう?誰かから伝聞の形で、ヒロインが知るだけで。それなのに、夢がリアルで」

「そうそう、やけにリアルなんだよね!」

ジュリアが大きく頷いた。アリッサの不安が一層募る。

「リアルな悪夢なんて……私、見たくないよお」

と半べそをかきはじめた。

「大丈夫だって。アリッサはレイモンドにあんだけ愛されてるんだからさ。不安なら明日、目いっぱい抱きしめてもらいな?」

悪夢を見ていたことを忘れたかのように、ジュリアは歯を見せて笑い、妹の頬をつついたのだった。


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