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悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!  作者: 青杜六九
ゲーム開始前 1 出会いは突然じゃなくて必然に?
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07 悪役令嬢と隠しキャラ候補

「なっ……」

「ええっ……」

ジュリアとアリッサは、驚きのあまりつい声が出てしまった。

「これは、来たわね……」

マリナは目を眇めて状況を分析した。

父の侯爵が少年の背に手をやり、押し出すようにして家族の前に進ませた。

「紹介するよ。ハロルドだ」

「ハロルド・ハーリオンです。よろしくお願いします」

蜂蜜色の癖のない髪は後ろで簡単に束ねられ、両頬に後れ毛がかかる。青にも緑にも見える色の瞳は切れ長で怜悧な印象を与える。細い身体はしなやかで小鹿のようだ。四姉妹より頭一つ分背が高い。

「と、年上?」

「そうだな。お前達より二つ上だ」

「十一歳です」

「……睫毛、長」

「それなら私達はあなたの妹になるのね」

「そうだ。ハロルドは兄、お前達は妹だ」

侯爵はうんうんと頷いている。

「私のような、分家とは名ばかりの平民が、兄だなんて……」

ハロルドは俯いて長い睫毛をばっさばっさとして瞳に影を落とす。

「こら、ハロルド。私は君も娘達も、分け隔てなく育てるつもりだよ。何の遠慮もいらないんだ」

「お父様」

「なんだい」

「私達、ハロルドお兄様とお話ししたいです」

「お部屋でね」

マリナとジュリアがハロルドを連行し、アリッサは寝そうになっていたエミリーを起こして手を引く。

「あ、あのっ……」

ハロルドは有無を言わせぬ少女達の迫力に圧され、完全に腰が引けていた。

「うんうん。仲良くするんだよ」

ハーリオン侯爵はにこにこと子供達を見送った。


   ◆◆◆


ハロルドと一頻り話して、部屋の配置を覚えられない彼を使用人に部屋まで送らせ、四人は自室に籠った。

「ついに来たわね」

「ええ。あれは間違いないわね」

「主要人物の関係者で、歳も近いし超絶美形だし」

「隠しキャラ……」

四人は溜息をついた。

「私達の知らないエンディングを引き寄せる人物ねえ……」

「どうする?下手にいじったら破滅フラグかもよ」

ジュリアはマリナに解決策を迫った。

「ライバル令嬢の義兄!敵方の男との禁断の愛ってやつ?」

敵だの味方だのというシチュエーションはジュリアの好物である。女騎士になっても敵国の騎士と恋仲になりそうで怖い。

「私達を死なせるかもしれない人が、同じおうちの中にいるなんて、怖いよぉ……」

アリッサは熊のぬいぐるみの耳を齧る。こうすると落ち着くらしい。

「なるようにしかならない」

エミリーが冷めた目で三人を見た。

「そうね。エンディングを知らないことには策の立てようもないわ。何がフラグなのかもさっぱりだものね」

「にしても、ハロルドお兄様って超挙動不審よね」

「知らない女子四人に囲まれたら誰だってそうよ」

校舎裏に気に入らない奴を呼び出して痛めつける一昔前の不良のように、四人はハロルドを部屋に連れ込み、逃げられないように囲んで問い詰めたのだ。

「今日の会話でたくさん情報を引き出せたじゃない」

「お兄様のプロフィールをね」

アリッサが机からノートとペンを持ってきた。

「書いてまとめておくね」


≪アリッサのメモ≫

ハロルド・ハーリオン

十一歳。実家はハーリオン侯爵家の分家の一つ。瞳の色は父譲り、金髪は母譲り。両親にはハリーと呼ばれていた。

「私達もハリーでいいかしら」

「明日からそう呼んでみましょう」

趣味は作物の栽培を研究すること。花の品種改良が得意。本は時々読むけれど、あまり運動は好きじゃないみたい。魔法は習ったことがない。

「土属性メインの水と風少々といったところね」

というのがエミリーの分析である。ちなみに、彼が魔法を発動したところは見ていないので、どんな匂いで感じるかは分からない。

「練習すればできるようになるわね」

「……ふぅん」

好きな食べ物は果物。脂っこいものは苦手。

「男子なんだから、肉食おうよ肉!」

「あなたが食べすぎなのよ、ジュリア」

服装は落ち着いた色が好き。

「せっかくきれいな派手顔してるのに、もったいないなあ」

好きな女の子のタイプは結局聞けず。ヒロインみたいに、素直で明るい美少女で他の男にもモテる子はどうかと聞いたら、浮気な女性は嫌いだと言っていた。


「逆ハーレムエンドの後に攻略可能になるにしては、結構ガードが堅いかな」

「全員攻略した後で選択肢が増えて、攻略できるキャラとか」

「その割に、メインキャラ四人の話には全然出て来てないけどね」

ゲームを途中までしかクリアしていない四人は頭を悩ませた。

「好きなコの好みはわからなかったわね」

「あれはマリナちゃんの聞き方がよくないと思うの」

「だよね。私達のうち誰がいいなんて聞いちゃダメだ。だって同じ顔じゃん」

「愚問」

「うう……反省してます。あ、ねえ」

追い詰められたマリナは話題を転換することにした。

「私達の誰かと会ったことがあるみたいだったわよね」

「覚えてない」

「小さい頃のことでしょう?わからないよぉ」

「お兄様が言うには、二年くらい前みたいよ」

「誰かあっち(領地)に行った人~」

ジュリアが挙手を求めた。三人は顔を見合わせる。

「行ったことはあるけど……皆で行ったわよね」

「そうだった」

てへ、とジュリアが舌を出す。

「夏の避暑地にしてるんですもの」

「避暑地かあ……前世と大違いだね」

前世では四人はクーラーが入る居間に集まっていた。他の部屋にもクーラーはあったが、就職して間もない若者と学生だけの四人暮らしで、できるだけ節約していたのである。

「前に会った時に、変なフラグ回収してなきゃいいね」

「本当ね。後々殺したくなるほど憎まれるなんて嫌よ」

「もう地雷踏んでたり……」

エミリーがにやりと笑う。アリッサが絶叫して毛布をかぶった。

「これからどうする?ハリー兄様を無視するわけにいかないじゃん」

「関わらな過ぎても恨まれそう?」

「除け者にされたってか」

「分家の私ごときがとか言ってたし」

「……ひがみっぽい男は嫌」

眉間に皺を寄せ、マリナは腕組みして考える。大げさにぽん、と手を打って

「そうだわ!」

と叫ぶ。

「お兄様に誰か一人が構いすぎるのは危険だわ。だからといって全員で放置もできない。だから、分担しましょう」

「分担?」

三人が声を揃えた。

「そうよ。毎日交代でお兄様とベタベタするの」

「ベタベタ……」

美少女も残念なほど顔を顰めてエミリーが嫌そうに呟いた。

「マリナちゃんの言い方気持ち悪い」

鳥肌が立ったアリッサは二の腕をさすった。

「うん、わかった。で?明日は誰が行く?」

ジュリアはにこにこと愛嬌のある表情を浮かべマリナを見た。妹三人に見つめられて、マリナは渋々頷いた。

「……分かった。明日は私が当番ね」



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