地下水路の冒険
「た、大変だぁーーー!!村の中心に魔獣が現れたーーー!!」そう言ってこの屋敷に仕えている男が入ってきた。
「どうしたのですか、朝から騒がしい」サーラがそう返事をする。
「そうだよ、俺らは朝食中なんだぞ」
「ほんとよ」リゲルとミラも同調する。
「いやいや、相変わらずの扱いのひどさですね。それに、サーラ様はもう分かってますよね??」
「んで、どこに現われたんだ?俺はもう魔獣なんか余裕で倒せるぞ」
「私だって魔法で魔獣なんかボンッよ」
「それが、また村の中心なんですよね」余裕のコメントをするリゲルとミラにドラが答える。
「私の【直感】にも急に現れるのよね。困っちゃうわ」サーラがまったく困ったふりをする。
「よしっ、俺が倒しに行ってやる!」
「私も行くわ」
そう言ってリゲルとミラが部屋から飛び出そうとする。
「あっ、ちょっと待って。リゲルこれを渡しておくわね」そう言ってサーラがリゲルに立派な鞘の剣を渡す。
「えっ、いいの!?」リゲルが驚きを隠せないでいる。
「もちろん。そんな木刀じゃまともに戦えないでしょ」
「ありがと、サーラさん!んゃ、行ってきます!」
「母さん、行ってきます!」
そう言ってリゲルとミラが屋敷から出ていく。
「サーラさん、ずっと気になっていたんですけど。サーラさんの【直感】ってなんなんですか?本当に直感じゃないですよね?」
二人だけになった部屋でドラがサーラに気になっていたことを聞く。
「それはちょっと言えないかな~。まあ、【付与スキル】みたいなものよ」
「そんな【付与スキ】存在するんですか!?」
「まぁ、少し違うんだけどね。まぁドラさんじゃ一生手に入らないようなものよ」
サーラが微笑みながら、答える。
その目はどこか懐かしそうな目をしていたことにドラは気付いていた。
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その頃、リゲルとミラは村の中心に到着していた。
井戸のまわりにいたのは、イノホーン5匹であった。
「リゲルっ、昨日より多いけどいける?」
「それは愚問だぜミラ」
「んじゃ、行くぞっ!」
イノホーンとの戦闘は昨日の戦闘より早く終わった。
それは、リゲルの剣が木刀じゃなくなったこともあるが、リゲルとミラの対魔獣への経験が大幅に伸びたことを意味していた。
「イノホーンくらいちょろいな」
「私の魔法の前じゃ敵じゃないわね」
リゲルとミラがハイタッチをして感想ももらす。
「あ、あの~ミラ様」
そんな二人に1人の中年の男性が話しかけてきた。
「どうしました?」ミラが男性に気付いて何事か聞く。
「それが、魔獣が井戸の中から出てくるのを見てしまって。魔獣たち、井戸の中に住んでるんじゃ。そんなことがあったら、俺ら安心して夜も眠れなくて」
男性の話を聞いてミラとリゲルが驚く。
「それって、ほんとうなのか!?」
「あぁ、この目でしっかりと見た」
男性の目は嘘をついているようには見えなかった。
「情報ありがとうございます」そう言ってミラはリゲルの方を向いて言った、
「リゲル。井戸の中に調査に行くわ。付いてきてくれるわよね?」
「それも愚問だぜミラ」
リゲルの覚悟は男性から話を聞いた時から決まっていた。
例えミラが調査に行かなくても、一人で行くつもりだったのだ。
「んじゃ、行くか」
「そうね」
そう言ってふたりは、井戸の中をロープを使って降りて行った。
井戸の地下に到着した二人は顔を見合わせてうなずく。
井戸の中には普通ではない空気が漂っていた。
それは、魔獣との戦闘が浅い二人にも分かるほどだった。
「こっちの方が嫌な空気だな」
井戸の中は水路のようになっていて、二人くらいなら歩けるくらいの幅があった。
ある方向から特に嫌な空気が流れて来ていた。
二人はそっちに魔獣いると確信して歩いていった。
「ねぇ、ここは真上が井戸だから明かりがあるけど、この先は真っ暗よ。魔法で明るくするからちょっと待って」
ミラが立ち止まって一回深呼吸。
「フラッシュボール!」
ミラが詠唱すると二人のまわりが突然明るくなった。
10m先くらいまでは見える。
そのまま二人は歩き出した。
道中で何匹かイノホーンに出会ったがもう二人の敵ではなく一掃された。
地下の水路を歩き始めて30分が経った頃、二人は水路の壁に大きな穴が開いているのに気付いた。
「お、おい。これって...」
「こっちの穴から、すごく嫌な空気が来る」
リゲルとミラがパニックなるような嫌な空気。
この先に何かやばいものがいる。魔獣がいる。
まぎれもない事実がそこにあった。
しかし、二人の覚悟は揺るがない。
深呼吸をして、二人が顔を見合してうなずく。
「行くしかねぇよな。ミラ。これからは魔法、手加減しなくていいからな」
「えっ、気付いてたの!?けど、リゲルだって大人しく戦っていたの知ってるわよ」
「こんな狭い水路で暴れたら、水に落ちちまうじゃねーか。ミラも気付いていたから本気で魔法打ってなかったんだろ?けどこっから先は道がでかいからな、頼りにしてるぞ」
リゲルに素直に頼りにされたミラの顔が少し赤くなる。
「んじゃ、行くぞ」
「うん」
二人は水路の壁に突然できた大穴に入っていった。
少し歩くと魔獣が現れた。
「おっと、今度はイノホーンじゃないのか」
リゲルたちの前に現われたのは、禍々しい角を生やした巨大なネズミ。
【Dランク:ネズホーン】
「ネズホーンね。イノホーンと同じDランクでしょ。冷静に行くわよ」
「おうっ!」
ネズホーンはイノホーンより俊敏だが攻撃が軽くリゲルとミラはあっさりと倒してしまった。
「なーんだ、魔獣なんて俺らの敵じゃないな。もっと歯ごたえあるやついないのかよ」
そう言って陽気に歩くリゲル。
突然、そのリゲルの裾をミラがつかんで止める。
「ん?どうした?」
「どうしたって...しっかり前見て!!」
リゲルが前を見る。
目の前には黒く硬い鱗に包まれた体。長いしっぽ。鋭い牙。
そして、イノホーンやネズホーンとは比べ物にならない禍々しい角。
リゲルは魔獣図鑑で見覚えがある。
「ラプトルントだぁぁぁあああああーーーー!!」
次回、戦闘回です!!