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 9. 毒 林 檎 収 穫 祭 ・ 本 番 、 パ ン ド ラ の 失 笑 

 お伽噺って、何だってこうもトラウマ物なんだろうか。

 シンデレラの王子様は、一目惚れした相手が目を離した隙に煙みたいに消えていた。引き止める手を振り払って。

 階段に靴を転がし残して。

 白雪姫は、毒林檎を口に含んで、死んだ。初めは知らなくても、生き返ってから、林檎なんて有り触れているのに。林檎の甘さと毒に苦さに、息が詰まってフラッシュバックしそう。

 母親のことを思い出して。

 人魚姫の王子様は、いなくなった人魚のことを思い出すことは無いのだろうか。一度は共に住んだ相手のことを。人魚姫の物言いたげな眼に、何も感じなかったのだろうか。

 忘れる程、シアワセだろうか。

 こんな風に、童話ってヤツは、昔話ってヤツは、本当に教訓染みていて。

 基本ハッピーエンドのはずなのに、後味は、とっても残酷。


   【 9. 毒 林 檎 収 穫 祭 ・ 本 番 、 パ ン ド ラ の 失 笑 】


 あれから、叔母さんが行ってから俺は着替え、食欲が無いながらせっかく用意してくれた夕飯を無駄にするのも勿体無かったのでいただいて、自室に戻った。戻ってシャワーを浴びる最中も、ずっと考えていた。

 梓川さんの事故から、いきなり連続でいろんな人の事情を聞かされた。鹿乃子先輩のこと、各務さんの過去、叔母さんの想い。……先輩の疑惑。

 あくまでも先輩が関わっている“かもしれない”ってだけだ。叔母さんが言っていたようにあくまで可能性。確定じゃない。

 由梨お姉ちゃんの失踪も、両親の事故も、先輩の影を感じる、と言うだけ。

「……」

 影。影と言うには存在が濃い気もするけれど。でも、梓川さんの転落事故に先輩が関わっているとは考えられないし、『白井優李』時代の先輩は普通だったように思う。少なくとも俺の知る先輩はただの良い先輩だった。

 落ち込む俺を励ましてくれて、就活惨敗の俺を慰めてホストだったけど仕事の世話をしてくれる、そんな。

「……。よし」

 就寝前、寝っ転がっていた俺は一度上半身を起こした。

 明日、先輩に会おう。訊くかはわからない。ただ、会おう。会ってから、どうするか決めよう。

 俺は決意して再び布団に潜り込み眠りに就いた。


 翌日、俺がクラスに到着すると鵜坂くんが心配そうな目をして寄って来た。……何かわんこみたいだと思い付いたのは、ないしょ。

 昨日の今日と言うことで、学校は事故のことで持ち切りだった。特に転落事故、被害者は梓川さんでしかも発見者は敦来唯子、要は俺と言うことで始めは生徒間で「まさか、前落とされた復讐?」などと囁かれたようだが、安李くんが「姫は、いっしょにいた俺が職員室に寄ろうとして偶然発見したんだよ。それまでは生徒会室にずっといたんだ。疑うんなら役員共に訊いてみろ」と一蹴してくれたので瞬く間に霧散したらしい。教えてくれたのは富山くん。あとで安李くんには何かお礼しよう。しかし生徒会が関係していれば疑っていても納得するのか……ちょっと問題じゃない? 俺は冤罪ですけど有罪も無罪になり兼ねない危うさだわ。

 俺が微妙な気持ちで席に着き鵜坂くん、富山くんと話していると、安房くんが俺の横に来て小声で「敦来さん大丈夫?」尋ねて来た。安房くんが言いたいのは、俺が目撃してしまってショックを受けているんじゃないかってことだろう。そりゃショックですよ。昨日事故のあと様々在ったけども、鮮明に脳裏に浮かべることが出来る。

 投げ出された四肢と、眉を顰め目の閉じられた横顔の、暗闇で映える青白さ。今となっては、単なる脳の印象操作の結果かもしれないけど、白と仄暗い灰から黒のコントラストは頭の中で鮮明に蘇る。

 顔見知りよりは知っている人間の変わり果てた姿だ。そりゃあ衝撃たるや威力は半端無い。だがそこを置いても、俺にはやるべきことが在る。……決めたしね。

 どんな自分でも、平気な顔で梓川さんと対面するって。だったらいちいち情けない顔してられない。俺は曖昧に微笑してHRまで過ごした。


 HRが終わって、今日は朝からの二限まで生徒祭準備だったのを平常授業にしたらしい。代わりにお昼から放課後を丸っと準備時間にした。梓川さんの事故で浮付く生徒を、宥めて落ち着かせるために変更したようだ。なまじ休校しても生徒が沈着するどころか騒ぎが大きくなるだけだからだろう。

 授業を受けながら俺は上の空だった。大半の生徒がそうだったけれど、他が注意されて俺がされなかったのは、発見者である俺への先生方の気遣いか、または俺と同じ発見者になった学年副主任の安李くんが何か言ってくれたのか、生徒会が何らかの伝達……あの生徒会なら伝令かな? したか。

 なので、俺は心行くまで考えた。シミュレーションとも言う。そう言えば俺、『私』の周りの人たちに接するまで、日記も在るし記憶障害ってことにもなってるしシミュレーションゲームの攻略ならおっけー、とか軽く捉えてたよな。

 だけども、だんだん周辺の人間を知る内に駄目だ、って感じるようになって。『私』でいることがつらくなった。けど、俺でも良いって、『白井優李(おれ)』がなった『敦来唯子(わたし)』でも良いって言ってくれたから。梓川さんや鵜坂くん富山くん安房くんはわかんないけど。

 やっぱりがんばろうって思った訳で。だから。

 俺は先輩に確かめなきゃいけないんだ。だって、がんばろうにも刺さったままだもの。喉に刺さる魚の小骨みたいに、胸に引っ掛かるから。

 異物感をスルーして平然と出来る程、俺は強くないから。

「……どうしたの? 鵜坂くん」

 お昼になって、俺は席を立った。午後は丸ごと準備時間で、お昼の時間も含まれるのだ。俺は先輩のところに行くにせよ、一回英語史の教室に出てからと決めていた。ご飯は食べない。食事してからだと医務室に行く理由を訊かれそうだから。食べなきゃ、勝手に解釈してくれるし。

 頭で何度もシミュレートした成果を実現するとき! だと言うのに、立ち上がった俺の二の腕を鵜坂くんが掴む。何か言いたそうな眼差しを俺に向ける。……ったってねぇ。話してくれなきゃわかんないよ。俺は行かなきゃならないのに。黙って俺を注視する鵜坂くん。俺は焦れて「鵜坂くん、放して?」言ったけど鵜坂くんはふるふる横に首を振るだけだ。「鵜坂くん、」俺が放すよう言葉を重ねようとしたとき。

「鵜坂、放しぃや」

 富山くんが間に入った。それでも、鵜坂くんはふるふる横に首を振り拒否する。富山くんが「鵜坂」今度は厳しめに呼ぶと、鵜坂くんはゆっくり腕を放した。俺はちょっとだけ距離を取る。ほんの少しなのに鵜坂くんが悲しそうに目元を歪ませた。いや、だって、また掴まれるのは真っ平だし。ここで絆される訳に行かないので素早く「ありがとう、富山くん」と礼をして「じゃあ私、行くね」と退席した。

 俺が去る後ろで「あ、……」って声がしたけど振り切って教室をあとにする。

 富山くんが、俺が教室を出るとき。

「……もしもし、」

 どこかへ電話しているらしかったのが最後、耳に届いた。


 今、俺は医務室の前にいる。さっき鹿乃子先輩や、証言者コンビ先輩たちと挨拶して別れた。昼食も取らず、医務室に行くと言う俺に先輩たちは心配をしてくれて、凄い心苦しかった。が、何とかして医務室まで来れた。

 鹿乃子先輩辺りは何か察知してる臭いんだよね……あの譜由彦の仲間で対等にやれる、里見くんの姉だけ在ってと言うべきか。鵜坂くん的な動物めいた勘かも……ほら、鵜坂くんは大型犬、鹿乃子先輩はこう、小動物みたいな……。

“唯子ちゃん”

 ……あぁ、そっか。鹿乃子先輩は、似てるんだ。由梨お姉ちゃんに。造作じゃなくて、雰囲気が。鹿乃子先輩に無条件に懐くのも、意識しない内にお姉ちゃんの面影を追っているのかもしれない。

 俺は深呼吸をして、扉へ手を掛けた。

「失礼します、椰家先生、いらっしゃいますか?」

「ああ、────どうした? 敦来さん」

 変わらない、やわらかい笑顔。俺は最初先輩を怖いと思っていたんだ。その偏見を打ち砕いたのはこの笑顔だった。やさしげに、きれいに、笑うから。俺は無意味な警戒心を解いた。解いて判明した先輩の人柄。陰が在るって思っていたけど、それはお母様を亡くされたからだ。せつない幼少期を送っていたから。ひょっとしたら先輩も由梨お姉ちゃんの失踪が尾を引いていたのかもしれない。十年なんかあっと言う間だもの。

「どうしたの? 具合悪い?」

 あまりに長く考え込んでいたみたいだ。先輩が真剣な面持ちで俺の前に立っていた。俺は「あ、いえ……」と入室して手早く扉を閉める。普通の扉より力を入れず開く引き戸なのは、体調が優れない人のために開け易くしているのだろうか。扉自体は開いたあと放って置いても自動で閉まるし。自分で閉めるときは少々滑り止めって言うのか抵抗が在るけど。扉を閉めて身を翻すと、超至近距離に先輩の顔が在った。

「っ……」

 目の前、目と鼻の先なんて表現は正しいのか悩む近さだ。一歩間違うとキスしそうな間隔。つか、コレ下手したらミリ以下前に動かしただけで、アウト。当然、俺は後方に引いた。勢い付け過ぎたのか背中が扉にぶち当たる。肩部分痛い……。

「大丈夫?」

「……」

 どんな美形でもゆるせないんで首傾げんな。俺はじと目で先輩を睨む。覗き込むにも不必要な接近は避けてください。ウチには過保護が合計三人はいるので。俺が扉に貼り付いたまま睨んでいると先輩は「ごめん、ごめん。敦来さん急に振り返るからさー。俺もびっくりして固まっちゃった」軽快に笑った。あー、まぁ。考えずそばに寄って間合いが案外近くなること、在りますけどね。在るから何さ。

 ぶーたれつつ気を取り直すことにする。先輩に攻撃的なのは『私』に寄って来ているからか、俺が緊張しているからか。……するでしょ、緊張。

 これから俺が行うのは確認なんだ。先輩が、犯人じゃないって、確証が欲しい。俺は先輩を慕っているから。由梨お姉ちゃんの失踪も、お父さんたちの事故死も、────梓川さんの転落事故も。先輩が裏で糸を引いていたんじゃないって。在る訳無いって。

 勿論莫迦正直に問い質す気は無い。直球でぶつけて良いのは証拠が在るときだけだ。やるとすれば秘密の暴露を誘うしかない。巧く誘導しないと、いや! 炙り出すことが目的なんじゃなくて! 信じたいから、まったく何も無いことを期待しているんであって! ううぅ。『私』の性格なのかなぁ。白黒きっちり付けなきゃ嫌とか、疑わしきは追究在るのみ、針の先程も見逃さず虱潰しだ! みたいなの。『俺』、は意外となぁなぁだもん。

 俺の場合は多分、先輩を疑いたくないって言うだけだけど。さて、まずどう切り出そう……ん? 切り口を探る俺の視界にある物が入った。それは林檎マークで有名な、機械メーカーのシールが貼られたアルミ製のタブレットケースだった。アレって。

「林檎、の、シール」

「ああ、それ? 俺がさ、買った音楽プレーヤーに付いてたシールを、ゆり……例の後輩が貼っちゃったのね。面白がってさー。御蔭で見る人見る人みんな“パチモン?” て、訊くの。ほら、あそこの本家本元のメーカー製品もメタリックイメージなのかアルミ製の感じじゃない? 余計言われるんだよねぇ。後輩も、だからそれにシール貼ったんだけど」

 そう。アルミ製で丁度良いじゃないですかって大学時代貼ったんだ。先輩もシールの処遇に困っていたみたいだし、苦笑しても止めなかった。正規品みたいでしょって得意満面に言ったら「訴訟になったら困るから絶対海外に持っていかない」って。まだ持っていたんだ。先輩はケースを取って手の上で振ってから「要る?」と手のひらを差し出す。手のひらに在ったのはタブレットと呼ぶには半透明の、カプセルみたいだ。

「コレは……」

「栄養剤だよ。胡麻のエキスを閉じ込めて在るヤツや、ビタミンエキスを閉じ込めているのが一般でも売っているだろう? 主に美容用品で。サプリメントって言ったほうが馴染み深いかな」

 ああ、と俺は得心した。確かに、テレビでCMしているものでよく似たものを見たことが在る。成程「ビタミンとかだからね。ちょっと色がエキセントリックだけど悪いものじゃないよ」半透明のカプセルは黄色、ピンク、紫と鮮やかだ。一つだけ、無色だけど何だろう。せっかくだから一ついただこうかと手を伸ばした。ビタミンだろうと思しき黄色を。被って二つ在ったので。先輩は、透明のものだけケースに戻し残りを口に入れるとケースを白衣のポケットに仕舞った。俺は医者じゃないし医療知識も無いけど、一遍に複数のサプリを摂取して大丈夫なのだろうか。と、言うか、無色だか白色だかのものは戻していたけど何だったのかな。カルシウム?

 にしても、医者の不養生じゃないのか。先輩ご飯ちゃんと食べているのかな。俺も黄色のカプセルを飲もうとしたとき「もうすぐ生徒祭だね」先輩が話し掛けて来た。俺はカプセルを口に入れる間も無く「え、あ、はい」と答えた。先輩は珈琲を淹れてくれようとしているらしい。俺はそれに気付いて「あ、お構い無く」と断ると「俺が飲むついでだよ。っても、敦来さんは珈琲やお茶だとカフェインは強いからココアにしようね。俺は珈琲だけど」先輩は微笑む。ま、その調子なら平気そうだけどね。付け足しながら。

「すみません」

「良いよ。言ったでしょう? ついでだよ、ついで。そこ座って。で、ねぇ、生徒祭、敦来さんお姫様でもやるの?」

 俺は勧められた椅子に礼を言って座り、再度カプセルを飲もうとして、先輩の発言に噴き出し止まる。な、なぜ先輩が……。俺が問うと「有名だよ。“敦来さんがドレス着て校内を徘徊していた”って」……おぉう……。二校舎間だけとは言え、あれだけうろうろしていれば誰かの目には留まるだろうしなぁ。移動も裾やら袖やら注意していたからゆるゆるとしていたし。ああ、考えてみれば梓川さん発見時の俺ドレスだわ、詰んだ。

「徘徊……って言うと良いイメージ無いですね」

「そう? 歩き回ることを徘徊って言うじゃない? 深夜徘徊とか。見たかったなぁ、敦来さんのドレス姿。英語史のカフェだっけ?」

 深夜徘徊も、良いイメージ在りませんが。先輩がカップを渡そうとしたので、カプセルは一旦そっとハンカチに挟んで制服のポケットに仕舞った。カップを受け取りつつ、そうです、て返事しようとして、あれ、俺はいつ先輩に自分が参加する教科のこと言ったっけ、と。又聞きかな? ドレス姿の伝聞が一日で流布されているのならまぁ、在る、よね?

 俺は心持ちを切り換える。些細なことで先輩を疑ってしまっていた。一つ躓くと全面怪しく思えてしまうものだ。これじゃ、いけない。

「生徒祭、みんな盛り上がってくれて、うれしいよ」

 先輩のふんわりとした笑顔は、嘘偽り無くよろこんだ、本物に見える。自身の始めたことがここまで浸透して続いて、次世代が楽しんでいるのを心からうれしそうにしているのに、先輩。こんな人が由梨お姉ちゃんに、お父さんたちに、……梓川さんに非道いこと、出来るかな……?

「……、そうですね……」

 やっぱさ、無関係じゃないのかな。俺は先輩の気分に水を注さないで如何に話を変えるか幾つも脳内でロールプレイングしながら、よし、と口を開く。取り敢えず。

「先、生が、生徒祭始められたんですよね」

 掴みから行こう。主導権を常に持って置かないと、脱線し兼ねない。先輩は「あれ、言ってなかったっけ」と言って「じゃあ、他の子には言ってたんだけど、敦来さんには言ってなかったんだね」と来た。先輩がここの卒業生ってことは知らぬ間に公然の事実となっているようだ。

「そうそう。俺が発案者。ほら、ここの文化祭って、学校の特色か文化芸能の祭典だろう? 塾で他校のヤツから聞く文化祭をやってみたくなってね。学祭くらい、この学校にも在って良いと思ったんだ」

 ああ、そっか。他校の文化祭はお祭りだもんな。先輩は小学校からここなのかな。だったらやってみたくなるのも頷けるかも。かく言う俺も莫迦騒ぎした口だ。クラス関係ないのに、サクラ紛いにダチんとこの出店の呼び込みやったり、頼まれて野外ステージの司会したり。女の子受け良いだろってことで……やや、うんざりしてた、みたいだなぁ俺。いや、和気藹々は大好きだからね。するならきちっとするし。

 うーっすらの思い出でもアレは楽しいよね、と。俺も何だかんだ言いながら楽しかったもん。文化芸能は大事だけど、児童生徒の内にアレを体験出来ないのは、ちょい損失かもね。先輩が同じことを考えたか判然としないけど。

「“やってみたくなった”、んですか」

「そう、楽しそうだったから」

 照れ臭そうに笑う先輩。笑い方のせいか年より幼く見えて、純粋な少年のようだ。何か「……」更に運びづらくなっているような。や、ここから徐々に路線変更して行けば良いよ、うん。えーと。

「先生は、何かされたんですか? あ、生徒会役員じゃ運営で忙しいですよねぇ」

 そうだ、先輩は実行者として生徒会長として多忙だったに違いない。一般の生徒みたいに遊んではいられなかっただろう。俺だってちびっと司会させられただけだったけれど、時間取られて大変だった。マイクテスに言い回しの練習に、舞台に立つバンドやミスコンミセスコンとの打ち合わせとか。ミセスコンは先生や購買のおばさんとかにご協力いただいた企画でした。そこそこ盛り上がったよ。はい。ノリの良い学校だったから、俺の高校。……コレは憶えてるんだな。先輩に触発されてるのかな。

 先輩は「そうなんだよー。俺はてんやわんやだったんだけどね」先輩は残念そうに笑んで肩を竦めた。けれど「ああ、でも」すぐに思い出したように声を上げた。

「科学部に頼まれて、ゲストとして助っ人と言うか助手と言うかアシスタントをやったんだ。そのときさー、俺開会閉会の挨拶するから正装だった訳。だからネクタイしてたんだけど薬品で焦げちゃって」

 先輩曰く、科学部は実験用具を使った手品だったらしい。化学変化を応用したものだったんだろうけど、本番で薬品の量を間違えて火力が強くなり怪我人は出なかったものの、先輩のネクタイが焦げたらしい。科学部って、鵜坂くんの部だよね。結構歴史在るんだね、あの部。てか。

「廃部にならなかったんですね。下手したら大惨事じゃないですか」

「許可したの俺だしねぇ。練習は問題無かったんだから。たった一度の本番で失敗したんだよ。生徒会がゲストって触れ込みで、観客も多かったのがプレッシャーになったんじゃないかな。一瞬だけ、ぼっとなっただけだしさすがに廃部は無いかな。このあとの公演は中止になったけど」

 だろうなー。怪我人は無くても先輩のネクタイは焦げたってことは一歩誤れば誰か、先輩が、怪我したかもしれないんだ。……ん?

“由梨の生徒会が初めて行う学祭の準備で、毎晩遅くまで仕事をしていたそうです”

 お姉ちゃんは、いつ、いなくなったんだろう……? 各務さんの口振りだと生徒祭の準備中である期間から当日の間、だよね? 先輩が楽しそうに語っているのは、自らが発起人である生徒祭を楽しんでほしいから、と、俺が……『私』が、由梨お姉ちゃんの血縁者だと知らないからだ。赤の他人と思う手前無用なことは言うはずが無い。おかしくは無いよね?

「失礼します」

 俺が思考を捏ねくり回していたとき、響いたのは、譜由彦の声だった。声と共にがらっと音がする。俺はそちらへ顔を向けた。

「……いらっしゃい、敦来くん」

「……。こちらに、唯子がお邪魔していると聞きまして」

 譜由彦の言に俺は誰に? と思った。鹿乃子先輩かな。里見くんに連絡したのかも。それなら譜由彦に伝わってもおかしくない。俺は内心結論付けた。腑に落ちないって考えは棄て置いた。

「唯子、お前は帰りなさい。調子が悪いなら迎えを寄越すから」

 俺が棄て置いたのと、中に入って扉を閉めた譜由彦が俺に宣ったのは殆ど同時だった。いやいやいや、俺、このまま帰れないからねっ? 俺、未だに聞けてないんだから! 思うが早いか言うが早いか俺は「嫌です、何でですか?」と、実際の精神状態より平静を装えた。譜由彦の眉がぴくん、と跳ねたが顔面の筋肉の固定に成功したらしく微動だにしなかった。何を言ってるかわからないかもしれないが、俺にもわからない! ガチで!

 本当は恐怖でいっぱいでございます。そらそうよ。譜由彦怖いもん。魔王様に逆らったわ見捨てられたらどうしようだわ、心の中は恐怖が満員御礼状況。ただ、『私』の気性がこうだから、だからね? 無駄に培われた反骨精神が負けず嫌い発症させてるだけだから。

 逃げ出したいと言う感情を抑えて対峙していた俺に、譜由彦が溜め息を長く盛大に吐いた。俺は体が引き攣りそうなのをどうにかやり過ごし譜由彦を見返す。そんな俺を見て殊更深い溜め息を付く。始末に困るものを見ているように目を覆っている。何となく、非道いと思った。何となく。瞬きの間だけ膠着していたけれどしばらくして解いたのは譜由彦だった。俺の背後側まで来て仁王立ちし俺を見下ろす。

「何で意固地になっているのか、とは言わないよ。昨日母さんから何を聴いたんだい?」

「……」

「だんまり? ……母さんも余計なことを喋る」

 先輩の前じゃなかったら、絶対舌打ちしていたに違いない。容易に察せる程、譜由彦は苛立っていた。俺は、自分がひどく悪いことをしている気になって顔を伏せる。いや、譜由彦からすれば悪いことをしているのだ。

 でも、俺は引けなかった。譜由彦と摩擦は避けたいけれど、先輩とだって晴れやかな気持ちで接したい。何か裏に抱えるような交流は嫌なんだ。現況まさにそうなんだけども、俺が叱られた子供同然に身を縮込ませていると、やがて「……わかったよ」譜由彦が折れた。罪悪感が物凄いけど仕方ない。俺が決めたことだから。先輩を失いたくないって、俺の我が儘なんだ。俺はもう後輩じゃないけど。ないからこそ、今も在る繋がりを無くしたくない。

 だけど譜由彦を失って良いとは思ってない。譜由彦とのことは『俺』も『私』もたいせつに思うから。意を決して俺は譜由彦を見上げた。決意してばっかだな、昨日の夜から。仕方ないよな。俺はチキンなのでいちいち必要なのです。はい。

 目線を上げた俺を譜由彦は怒ってなかった。や、怒っては、いるんだが……。

「────良いだろう」

 表情は。

「そこまで知りたいと言うならいれば良い。気を遣ったつもりだったけど、要らぬ気遣いだったみたいだね」

 笑顔だった。きれいな、畏怖を抱えても尚魅入られるような。

“凄艶”。

 この単語が当て嵌まると感じさせる笑顔だった。俺は唾を飲み込み「……ごめんなさい」と可能な限りの謝罪を試みた……が。

「良いんだよ? 唯子は、い、つ、だ、っ、て、我が強かったんだから。最近おとなしかったから忘れていたね」

 ああああ……っ。いつだって、のとこ密かに区切って強調してるぅぅううう。完全に機嫌損ねたよ……。だ、だって、俺もこれは引く訳に行かなくてっ……。言い逃れるように文言を並べ立てるけど、現実にはしない。したら最後「じゃあ、帰りなさい」と言われてしまう。気がする。そうなるのは困る上譜由彦を怒らせた意味が無い。ひしひし感じる威圧感は、俺が座っていて、上より見下ろされているから、じゃないきっと。俺が体を震わせていると先輩が仲裁に入った。

「何で来たのか、何の話をしているのかわからないけどさ、もう良いんじゃない? ここまでにしてあげなよ」

 いや、あなたのことなんです。原因は。って、途轍も無く思わざる得ない感は何だろう。

「……。そうですね。限りが有りませんから」

 素直に同意した譜由彦だけれど、今の間、言外に“いやいやお前のことで揉めてっから?”と見えた、俺には。共有者独特の感性で。譜由彦は改めるように咳払いをして「先生に幾つかお聞きしたい点がございまして、参りました」と言った。先輩は「何? 生徒祭の先駆者として聞きたいことでも出来た?」……まぁ、それが通常の対応だし発想だよね。このタイミング、俺を追い出そうとしたこと、俺に言った内容から俺は違うと悟っているけど。

「いえ。梓川のことです」

 だがしかし、俺が考えたものと異なる切り口で譜由彦は話に切り込んだ。いきなり梓川さん? 由梨お姉ちゃんやお父さんたちのことでなく? お姉ちゃんやお父さんたちより、関係している可能性が低そうな梓川さんのことを何で先に? 俺が当惑すると、先輩も同様に困惑していた。

「梓川さん? って、つい昨日事故に遭った子だよね? 何で、俺に聞きたいことが? 俺、昨日のそのときは別の子が持病の発作を起こして診ていたから、彼女は診てないよ?」

 先輩の科白にああ、それで梓川さんは外部に搬送されたのかと。俺が一人納得していると「そのことでも二、三お聞きしたいのですが」と譜由彦。何で? と疑問符を俺は浮かべた。笑みを深くする譜由彦に嫌な予感しかしない。え、まさかそんな子はいなくて、その事実は存在しないとかじゃないよね? 不安を募らせる俺に先輩は困ったように「え? 事故のとき対処出来なかったからって、職務怠慢はしていないよ? 発作を起こした子はきちんと処置したし、付き添いの子にも迎えに来た保護者にも報告して、診断書と処置法をプリントアウトして主治医に渡すよう言ったよ?」と説明する先輩。黙って聞く俺もおかしなところは無いように思えるけど────?

「ええ、処置は完璧だったそうですよ。保護者からお礼の電話をいただきました」

「なら、」

「けれど付き添いだった生徒から事情を聴いたところ、少々気になりましてね? 椰家先生、あなた始め医務室にいなかったそうですね」

 お礼の電話なんて、さすが先輩! と思った。なのに。

「ちょっとお手洗いだよ。ここは備え付けじゃないし。それくらい在るだろ?」

「十分も? 付き添いの生徒は間違いないと言っていましたよ? 苛々して時計を見ていたからよく覚えていると」

 十分……確かにトイレに行っていたなら長過ぎるけど……けど、それが梓川さんと何の関係が……。

「生徒たちが来てから十分。そこより前に医務室を空けていたなら、可能ですよね? 隣の棟に行って帰るくらい」

「っ!」

“椰家が来た途端このような事故が起きている。アイツは、唯子様を気に入っていると聞き及んでおります”

 譜由彦が言いたいことがようやくわかった。

「……どう言う意味かな?」

 先輩の目の色が変わる。先輩も何となく感付いている。譜由彦の言いたいことを。譜由彦の笑みが消えた。冷たい眼光だけが残る。美しい容貌の中光る双眸は、芸術的な装飾を施されたナイフみたいに先輩に突き付けられた。

「はっきり言わないとわかりませんか。梓川真苗を突き落としたのは、あなたでしょう?

 椰家先生」

 譜由彦の代わりに、次は先輩が笑う番だった。それは俺が常に見る、『白井優李』の時代から馴染んだものと違って初めて見る嘲笑────いや、違うな。見たことは、在る。無い、と思ったけど根底に微かだけど残っていた。

 こんな笑いを、ホスト時代、俺の手の甲に煙草の灰を落としたお客様へ先輩が向けたことが在った。

“何思い違いしてんのか知らないけどさぁ? やって良いことと悪いことって在るよね? 水程度だったら、ゆるしてあげたのに”

 あのときは店内が凍り付いたものだ。龍さんが取り成してくれなかったらもう極寒の……龍さんてどんな顔だったっけ。造形出て来ないや。先輩に並ぶすっごい美形、てことしか。あれ。可愛がってもらってた気がするんだけど勘違いかな? 何か……掴めそうで掴めない。……この感じ。

「……」

 昨日も在ったような。考え込む俺を余所に「何を根拠に?」先輩が不敵な笑いで譜由彦へぶつける。って、俺置いてかれてるぅぅうう。置いて置こう! これこそ置いて置こう! 今は! ……どうしてシリアス続かないのかなぁ……。俺。『白井優李』は平和過ぎたのかな。『敦来唯子』になりつつ在ると言うのにか。

「ねぇ、根拠は? 無くて言わないよね、きみは」

 俺を置いて二人でシリアスしてますた。してますた。間違ったんでも噛んだんでも無いです、わざとです。はい。俺が我に返る合間に二人は話を進めていた。二人が放出して垂れ流しの空気は、部屋の重力を変えたんじゃないかって感じるくらい重い。

「……───」

 シリアスが続かないんじゃない。耐え切れないんだ。この空気。

「梓川が、見たそうですよ」

「何を」

「落ちたあと。彼女はすぐに気を失ったそうですが、己を落とした人間を見た、と」

「それが俺だって? 莫迦莫迦しいね。どれだけ衝撃を和らげて落ちていたとしても、落下したばかりの人間がはっきり物を見られたかな」

「ええ。ただ背中に感じた力は一点だったと。片手であるならそうなるでしょうし、片手で女生徒とは言え人一人落とせるなら男性だったでしょうね」

「だからって、」

「そうなんですよ。ですから科学鑑定に回しました」

 先輩の動きが止まった。俺も目を見開いた。譜由彦だけが淡々と「事件性が在ると判断すれば、学校側だって放置して置く訳に行かないでしょう?」様子に変化が無い。先輩は「……何を?」尋ねた。ああ、そうだ。何を鑑定に回したんだろう。でも、俺も先輩も聞くまでも無く大よそわかっていた。譜由彦が、再び笑んだ。

「梓川の制服ですよ。数人、梓川以外の指紋が見付かりましたよ。先生は、いつ梓川のシャツの背に触れたんでしょうね? 衣替えの前なのに」

 指紋。「先生の指紋は、前回訪問いただいたときお出しした珈琲カップからちょうだい致しました。ああ、念のためにDNA鑑定もさせていただきましたので」用意周到な譜由彦が、あやふやな証言だけで物を言う訳が無い。衣替え前のこの時期、暑くなっては来たけれどまだジャケットを脱いでいることは稀だ。梓川さんは性分か常日頃きちっと制服を着ている。あの日も、梓川さんは準備の時間になるまでジャケットを着ていた気がする。荷物を持ち運ぶのに、邪魔だから脱いだんだろう。

 先輩が、どの機会で触れたのか。先輩に視線をやると俯いて指を擦っていた。握った手の、人差し指と親指を擦り合わせているのだ。擦る指を下に向ければ葬式でお焼香をする形になるような。先輩が物思いに耽るときの癖だった……気がする。定かじゃない記憶だと最早予測の域だ。何とかしようと打開策を練っているときの……。

“打開策”。俺は思い付いた語彙に先輩への疑いが、自分の中で確定していることに気が付いて呆然とした。違う、先輩は追い込まれているんだ、なんて思い直そうにも、じゃ、何で追い込まれているんだ? と反論は反証になってしまう。

 何で? どうして梓川さんが、先輩が、俺が思うのと然程差は無く譜由彦が「まあ、本題ではないのですが」と話を切り上げた。俺の肩に手が触れる。譜由彦だ。そっと、支えようとするみたいな。

 俺が微妙に凹んでいるのがバレているのだろうか。そりゃ、凹むさ。慕っている人が人を傷付けたかもしれない、て、思えば。

「……。本題って何?」

 俺がべこんべこんに凹む間も話は進行して行く。先輩は地に視点を合わせたまま譜由彦へ訊いた。譜由彦からすれば梓川さんの件は先輩への前菜へ過ぎないようだ。退路を塞いで追い詰めるってことか。譜由彦らしい。

「縞木由梨の遺体はどこですか?」

 ひゅっと、息を飲む音がした。音の元は俺だったか先輩だったか。由梨お姉ちゃん。遺体。わかっていたことだけど、キツいな。生きてるなんて有り得ないのに。

「俺が、知っていると思うの?」

「ええ。いっしょに消えた男子生徒の遺体は処分したのかもしれませんが、縞木由梨はきちんと埋葬していると思いました」

「どうして死んでいるって思うの? 生きているかもしれないじゃない」

 この先輩に譜由彦が再度表情を消した。先と違うのは、やや怒りが露わになっているところだろうか。

「そう言うことを、唯子の前で言うんですか」

「は、」

「唯子は、縞木由梨の姪だと言うのにっ」

 先輩が、弾かれたように俺を見た。語尾が掠れたのは、譜由彦がこれ以上無く怒っているのが表れているんだろう。譜由彦はずっと怒っていた。先輩に対して。多分。冷静に装う下で抑えていただけ。悪足掻きするみたいな先輩に噴き出したんだ。

 けど、直後クールダウンした。口調は平坦に戻った。

「……あなた、トラック運転手も娘の手術を条件に事故を起こさせてますよね。運転手の娘は難しい病気じゃなかったが、手術部位の難しさからなかなか手術出来なかった。あなたの父親が、事故後憐れんで娘の治療を引き受けた、と表向きはなっていますが最初からあなたの差し金でしょう?」

「トラック運転手? 何の話だか……」

「言わなきゃわかりませんか? 由梨の姉夫婦である縞木夫妻の事故ですよ。あなたのお家の病院で医師だった畑上氏が言っていましたよ」

「……オーナーが?」

 畑上……医師? 先輩の同業者だ。先輩の病院で働いていたと言う。けれど、先輩は“オーナー”って……畑上? 昨日来た人だ。

 先輩がオーナーと呼び、医師だった。こんな人、一人しか思い当たらない。

「ええ。畑上氏はすべてご存知では無かったようですが、あのトラック運転手の娘の担当医だったそうで。あの患者を担当したとき奇妙に思った点は幾つも在ったと」

 あの人が、畑上さんで、ホストクラブのオーナーだった。『白井優李(おれ)』と、先輩が働いていたホストクラブの。あの人が、例の運転手の娘さんの担当医だったのか……あれ、大学の教授選が嫌で辞めたんじゃ……? 俺の疑問は、譜由彦が霧散させてくれた。

「畑上氏の話です。“大学病院が嫌になって辞めた自分の、面倒を見てくれた恩義も、先達としての尊敬も在ったけど、言い知れない雰囲気に何かに加担させられた気がしてとても靄々して仕方なかった。自分は医師に向いてないと辞めてバーでも開こうかと思っていた矢先、監視を言い渡された”と……勿論、言ったのは父親で、監視対象はあなたです。いったい、なぜあなたを監視せねばならなかったのでしょうね?」

「知らないよ。知る訳無いだろう。父の思惑なんて」

 吐き捨てた先輩は酷く憔悴した顔をしていた。せっかくの端正な顔立ちが陰っている。てか、バーでも開こうと思って何だってホストクラブだったんだろう……監視するにも紛れたほうが良い的な? “木の葉を隠すなら森に隠せ”で敢えて若い男を多く雇えるホストクラブにしたとか? 推測してみたけど当然正解は出ない。

「俺はわかりますよ。目を離すと何し出かすかわからない跳ねっ返りがいるんで」

 譜由彦はじろりと俺を見下している……気がする。“見下ろして”じゃなくて“見下して”になっているのは気の持ちようのせいだけじゃないと思う。ぐっと肩に置かれた手も力が加わったし。

「まぁ、畑上氏の証言とあなたの態度からして、縞木夫妻の事故はもしかするとお父上の差し金かもしれませんね」

 譜由彦だけはさっきの昂りを最後に声調は単調だ。俺は押し黙っていた。先輩は静止して指だけが忙しなく動いた。切り抜けるための模索をしているのだろうか。だがふと思い至ったように面を上げ、ぽつりと「敦来さんは由梨の姪なの……?」と呟いた。譜由彦は眉を動かして呆れたように返した。

「ですから、事故で亡くなった縞木夫妻が唯子の両親です。敦来の、俺の母の兄、つまりは伯父ですが、彼が縞木由梨の姉と婚姻を結び縞木の籍に入ったので縞木姓になりました。なので、夫妻も縞木だった訳です。唯子も以前は縞木姓でしたよ。事故さえ起きなければ、縞木のままだったでしょうね」

 嫌味を織り交ぜて譜由彦が『私』のことを解説すれば「そう」先輩が相槌を打って俺に目を向けた。目が合う。瞬間、俺は背筋にぞわっとした感触が走った。身の毛がよだつ、とはこのことか。先輩の、目が、眼が……。俺が喉を鳴らす。肩を引かれる。振り仰げば、譜由彦が俺を見ていた。前に顔を戻すと、手が肩から頭に移動し撫でてまた肩に落ち着いた。励まそうとするように。慰めかもしれない。

「事故の差し金はあなたの父親かもしれない。だけれど、縞木由梨の失踪はあなたでしょう。白井優李みたいに孤立させて、手中に収めたかったんでしょうが、失敗しましたか」

 え、と俺はもう一度譜由彦を仰ぎ見た。“しらいゆうり”? 『白井優李(おれ)』? 孤立させて……って。

「何で、ゆり、」

「白井優李が就職活動で受けた会社、全部本社子会社提携合わせて、影響在る重役があなたの家の病院に通院しているものばかりですよね」

「えっ……」

 今度は思ったことが音声で出た。先輩の病院の患者さんが、俺が受けていた会社の人? どう言うこと? え、と混乱する俺にふっと、ある記憶が浮上して脳裏を過った。更にえ、となりつつその記憶を呼び起こす。

“これやりたいってのは有るんですけど、どこを受けようかなーって”

“ここなんかどう? 迷っているなら良いと思うよ”

 悩む俺の相談に乗ってくれた先輩。勧められながらも未だ渋る俺に、先輩はどの点が良いかどの辺りが勧めどころか教えてくれた。あれ。コレ。

“うー……。良い感じだったんだけどなぁ。どうしてだろう……”

“うーん。タイミングかもねぇ。面接官が良いと思っても人事で駄目とか在るよ。今いる人員でどうとか、さ。ゆりが問題じゃないと思うよ”

“そうですかねー……?”

“そうそ。次はここなんかは? ゆりに合ってると思うけど”

“ここ、ですかぁ?”

“うん。ここはねぇ────……”

 最初に落ちたときの会話だ。このときは最終面接まで漕ぎ着けて、落ちてしまった。確かその次も似たような状況で、先輩お勧めたところはもしかすると俺は駄目なのかもと、次は自力で見付けた別のところを受けた。小さい会社だったけど、そこは二次にも行けなくて。やっぱり先輩は、俺のことよくわかってるんだなぁー他人だからかなー第三者視点大事だなぁー、なんて。

「白井優李が自身で見付けて受けたところすら、親会社の人間使って落としましたよね」

 先輩が操作していた? ……嘘でしょ? だって。

“ゆりが悪いんじゃないよ。大丈夫”

「よくやると思いますよ。それどころか、白井優李の友人関係も壊していますよね? 仲の良い友人たちを然り気無く遠ざけたり、あと白井さんの高校時代からの彼女、奪って棄てましたよね。驚きましたよ」

「───」

“ごめんね、優李。好きな人が出来たの”

 顔も声も曖昧模糊。でも言われた文句は憶えている。別々の大学に進学して、お互いに個々の人間関係を築いているんだから仕方ない。俺は気にしていなかった。彼女の言う“好きな人”も特に気に掛けなかった。自動的に“同じ大学の先輩か同期でも好きになったんだろう”程度で。

「合コンに紛れ込んで彼女に近付き落としたんですってね」

 よもや同じ大学の、ましてや先輩だなんて誰が思うの。俺は口元を押さえた。込み上げて来るものが、吐き気なのか嗚咽なのか物理的なのか精神的なものなのか、一切把握出来ていないけれど、押さえなければ溢れてしまいそうで、力いっぱい手のひらを押し付けた。

「で、二人が別れた当日にあなたは彼女を即行棄てた。彼女は散々でしたね。まさかあなたの狙いが自分じゃなくて彼氏だったなんて。彼氏と別れさせるために付き合ったなんて。思いもしなかったでしょう」

 俺だって想定外だ。どうしよう。胸焼けに似ている。泣きそうだ。どうしたら良い。

「……あっ……」

 譜由彦の言葉にシンクロして蘇る記憶の断片。頭が痛む。溢れそうなのは、最早何で、どこからなのか。ただ俺は動けず強く手で唇を潰すまでだった。

「俺がやった、なんて証拠は在るの?」

「そうですねぇ。白井優李の件に関しては証拠は在りませんが、証言は山と在りますよ?」

「つまり?」

「“あなたに協力した”って、人が山程」

「そう」

 先輩は首肯するだけだった。俺は、譜由彦がいなかったら、譜由彦が肩に手を置いてくれていなければ倒れていたかもしれない。

 俺は、梓川さんのとき何で先輩が、とただただショックだった。由梨お姉ちゃんのことも、まだ何処かは『俺』だから、外野の体で沈着にしていられたんだ。いや、『敦来唯子(わたし)』としても、由梨お姉ちゃんのこと、両親のことは関知しないところで起きた不詳の出来事で、なぜこうなったかは知りたかったけど現実感は無くて。

 そもそも、本来『私』にとって先輩は“学校に復帰後多少懐いただけの校医”だ。真実を知って先輩が真犯人だろうとも、無関心ではいられなくても「信じられない、どうして?」と言って済んでしまえるくらいのものじゃないだろうか。

 こんな『私』が短い期間を度外視して信頼していたのは、懐いていたのは偏に『白井優李(おれ)』だったからだ。

『俺』は先輩を信頼していた。心の底から。だって先輩はやさしかった。だって先輩の言うことはいつだって当たっていた。先輩はいつも俺にやわらかに笑い掛けてくれた。

 けれどもこうして、俺は、『俺』は震えている。怖いんだ。先輩が怖いんだ。そうしてから思い出した。昔、先輩に会ったときの第一印象は“なぜか怖い”だった。先輩の垣間見える影。先輩に取られた元カノが、好きそうな。俺も付き合った当初は“影を感じたのに付き合ってみたら莫迦っぽかった”って言われたっけ。付き合ってみたら違ったとか知らないしって。成程。簡単に落とせただろうな。

 先輩に差す影は、先輩が寂しさと厳しさの中で過ごす内生まれたものだと考えていたのに。推察は違った訳だ。けどさ、当たる訳無いよ。

 由梨お姉ちゃんや両親のことは予備知識を持っていた。梓川さんも各務さんが示唆していたし予想していた。だのに、お姉ちゃん両親梓川さんはおろか、知らぬ間にこの件には、無関係な己も直接被害を受けていたとなればダメージの桁が違う。疑心と打撃の割合もまったく異なる。『敦来唯子』と『白井優李』は別の存在だが。

 ずっと『敦来唯子』が当事者で『白井優李』が傍観者だと思っていたけれど、実のところ『敦来唯子』が傍観者で、『白井優李』が当事者だった。

 何か、もう、どう反応して良いのやら……。俺は廃人になりそうです。

 唯一救いと言えば、状況証拠だけで先輩が依然自供していないこと。俺としては嘘であってほしい。人を害していた、なんて。俺の周りでそんなことをしていたなんて。俺は切実だった。

 そして先輩は「だとして、」足掻くのだ。明らかに悪足掻きだとしても俺は縋りたい気持ちだった。

「ゆり、後輩に関してはともかく、由梨のことに対して言えば俺の関与は証言すら無い訳だ。後輩に関してだって、確たる証拠は無いね? 後輩が就活中受けていた会社の関係者がウチの病院の患者だったって、たまたまかもしれないだろう?」

 偶然は数奇なものだから────滔々と締めた先輩。だけど譜由彦がゆるすはずも無く、華麗に粉砕するのだ。さすがお兄様。

「まだ仰有られますか? まぁそう来るかな、とは思っていましたが。じゃあ仕方ないですねぇ……昨夜梓川の一件に隠れてしまいましたが、ある事態が起きていました。ここ、段差凄いでしょう? 山の斜面を幾らか切り崩して立てているから」

「……」

「中には隙間の在る土台も在るんです。鉄筋とコンクリートで棚みたいな構造でね。だいたいは切り取って地面に角を埋め込むようにしているんですが、地盤の関係で極僅かにそれが叶わなかった箇所があるんです。本当に僅かですがね。

 横たわった人、一人分くらい」

「……!」

 始めは何を言い出したんだろうと思っていた。

“横たわった人、一人分くらい”

 俺が察したのと先輩が得意げに「そこに由梨の遺体でも在ったって言うの?」と質問したのは同時だったか。しかし譜由彦は「いいえ」否と応答する。「言ったでしょう? あなたは、縞木由梨は埋葬するだろうって。けど、」譜由彦が俺の肩に置いた手とは逆の手をポケットに突っ込んだ。

「縞木由梨が消えたあの日は生徒祭当日だった。主催者のあなたは多忙を極めたはずだ。すぐに遺体処理に動けるはずが無い。とすれば、隠す必要が在る。────あの隙間は、まさに打って付けだったでしょうね」

「あくまで、俺が由梨を殺した殺人犯なんだ」

「えぇ。こんなものも見付けてしまいましたしね」

 ジャケットのポケットから取り出したものを譜由彦は自己の目の高さまで上げる。掲げたのは透明なジッパー付きのビニール袋だ。中に入っているのは、布切れ……違う、ネクタイだ。何やら焦げている。コレって。

「あなたが生徒祭の当日していたネクタイが、なぜ校舎の段差の隙間から出て来たのでしょうね?」

“科学部に頼まれて、ゲストとして助っ人と言うか助手と言うかアシスタントをやったんだ。─────だからネクタイしてたんだけど薬品で焦げちゃって”

 先輩の、ネクタイ……「無くしたんだよ。どうしてそんなところから出て来たのかなんか、皆目見当も付かないよ」先輩は言った。譜由彦は、はっ、と笑った。先輩を嘲るように。

「そうですねぇ。野犬が銜えて持ち込んだとか在るかもしれませんねぇ。じゃあ、この血は、野犬のですか?」

 譜由彦が袋を引っ繰り返す。赤茶けた血が付いていた。

「コレ、隙間の奥に落ちていたんです。鹿見竜也、憶えていますよね?」

「……そりゃあね。つい今年の四月まではいっしょの店にいたしね。腐れ縁だから」

「そうそう。彼もホストでしたね。『龍』って源氏名でしたっけ。どこぞの老舗の御曹司がホストとは。ああ、医師であるあなたも同然か」

『龍』……龍さん! 竜也って、この前オーナーと生徒会室に来ていた人だ。あの若い人が……。見たこと有るはずだよ。店では、先輩以外に可愛がってくれた人だ。顔も声も照合させるには俺の中には残っていないけど、間違いないと思う。

「彼、鹿見彰の、隈倉の事件で被疑者であるホストの彰吾の兄なんですね。ご存知でしたか?」

 龍さんが、彰吾と兄弟っ? ……って、あれ。彰吾ってどんなのだったっけ? いけ好かないヤツだったのは薄ーく在るんだけど。あー、消失速度速まってるのかな。あやふやな部分が多々在った。散り散りになって、紐付けされていない記憶が散見していたり。昨日安李くんに会って少し見付けられたけれど、家族の記憶なんかとうに微量なものだ。先輩との思い出が未だそれだと認められるのは、先輩と接して先輩を『先輩』だと認識しているからだろう。吐露するなら、今一番忘れ去りたいけれども。

「へぇ、そう。で、それが何」

「彼が言っていましたよ。あなたは科学部の実験で焦がしたネクタイを、取り敢えず回収して上着のポケットに入れ、騒然とした場を収めていたと。科学部の実験ショーと言えば、生徒会の一部の役員がゲストで参加したそうですね。当時は廃部寸前だった科学部に頼まれて断れず、スケジュールの合間を縫って参加したのはあなたと鹿見竜也」

「……」

「鹿見竜也はあとの出番だったのであなたのことを、正確にはあなたが出番のショーを見ていたと。場を収めたあとも、閉会式のときどうするのかと思って訊いたから憶えていると。あなたは休憩時間に予備を出すからと答えたそうですよ……ところで」

 譜由彦は次に胸ポケットから一枚の紙切れを出した。写真だった。

「コレ、閉会式のときの写真ですよ。十年前ですけど学校の行事写真ですから容易く手に入りました。さて、どうして、シャツ、スタンドカラーシャツなんでしょうか」

 写真には壇上で笑顔の先輩がいる。高校生だった先輩は今より当たり前だけど幼さが残る。シャツは、譜由彦の言う通り式典なんかで着るウィングカラーシャツじゃなくスタンドカラーシャツだった。

「俺もよくやるんですけどね。念のために予備の制服を置くの。シャツはスタンドカラーとウィングカラーの両方を生徒会室に置きますよね。あなたも同じことをしていたんですよね。で、この日あなたはクリーニングに出していますよね。何、で、シャツやジャケットまで汚したんでしょう?」

「……」

「前日、準備の際にシャツを汚した生徒がいて、あなた予備のシャツ貸してあげたそうですね。ジャケットの予備までは用意出来ても、同形のシャツは二枚以上お持ちじゃなかったんですね」

 ネクタイの予備は在ってもシャツが無いんじゃ巻けませんものね。譜由彦は微笑んだ。ここに来て一番の笑顔だ。俺は茫然自失も良いところなので成り行きを見守るしかない。

「……。そうであっても、俺が由梨を殺したことにはならない」

「どうでしょうね。コレも科学鑑定に回しますので、何かしら結果は出るでしょう。現代の科学鑑定は凄いですから。事と次第では警察も、隈倉の事件にまで捜査しますかねぇ」

「警察も動かしているの? いつから?」

「計画はあなたの宣戦布告を聞いてから。一先ず、身辺を調べました。芋蔓式に、出て来ましたよ。白井優李関連は隠蔽の仕方が杜撰で特別多かったな。あなたが海外にいたせいですかね。警察がここを捜索し始めたのは生徒祭の準備期間からですけど」

 業者も関係者も出入りが激しくなる期間、目立たず捜査員が闊歩出来るのもこの期間だと譜由彦は考えていた。大きなビニールシートを使っていても誤魔化せるだろうと。

「敦来って警察も動かせるんだねぇ」

「未成年の、高校も卒業前の子供の言うことを、敦来ってだけで聞く訳無いでしょう。方々、俺が尽くせる手を尽くした結果です。あなたが持てるものを使っていたように。あと誤解の無いように申し上げますが、あなたが警察に捕まろうと俺はどうでも良いんです」

 俺は譜由彦を見上げた。譜由彦は余裕綽々だったのが一転、複雑な顔をしていた。俺の肩に乗せていた手も、力が抜けたかの如く遠慮がちに触れるだけになった。

「正直な話、縞木由梨の所在も白井優李がされたことも隈倉の事件も、どうでも良いんですよ。俺にとっては、唯子から遠ざけられる手段の一つでしかないから。あなたを唯子から引き離せるなら良いんです」

「へぇ」

「だって、これが一番の意趣返しですしね。あなた、すでに俺が指摘することなんかとうに気にも留めていないでしょう。縞木由梨の行方も、白井優李の包囲も。聞いているスタンスは見せているけど、別のことに頭を働かせていましたよね。唯子が、縞木由梨の血縁だったことを考えていたんじゃないですか? 接点とか類似点とか、縞木由梨本人に聞いていた情報、縞木由梨を調べた当時の詳細。で、あなたの中で合致しましたか?」

 吃驚して先輩に目線をやれば先輩は嬌笑を浮かべていた。艶っぽいが、余りに毒々しくて、まるでアルコール度数の高い酒を呷ったあとの酩酊を彷彿させた。てっきり先輩は打開策を練っているものだと思っていた。言い訳を模索しているとか。譜由彦の言い方じゃ、全然追い詰められるどころか頭にも無かった、と言うことになりはしないか……? 俺は愕然とした。先輩に差す暗がりの正体が、影なんてやさしいものじゃないと悟った。

「ああ、わかってたんだ」

“底無し沼を覗いているとき、沼もまた自分を見ている”

 ぞっとした。血の気が引いた。寒気がした。悪寒だろうか。とっさに座った体勢で後退した。勿論、上体だけだ。譜由彦の体が背に当たる。先輩は譜由彦に「狙いは、こう言うこと、だよね」問うた。俺の上を飛び越えて「ええ」二人は。

「あなたを追い出すだけなら、梓川の件だけでだって傷害の疑いで警察に突き出せます。けど、それだけじゃ唯子はあなたに警戒しない。唯子からあなたに近寄るんじゃ意味無いですから。唯子があなたを忌避するほうに仕向けなくてはね。そのためには、すべてを曝すのが必至でした」

 意図を説く譜由彦に、先輩は大して弱った風でもなく「困ったな」と零した。表情は変わらず濃度の高い毒を含有した笑みだ。先輩は閉口して、俺は随分喋っておらず、譜由彦も様子を窺って口を噤んだもので静寂が差し込まれた。が。

「ところで、」

 しばし置いて先輩が話し出した。

「敦来さん、体に変化は無い?」

 唐突な質疑に間が抜けたが続く「何のカプセル飲んだの?」の問い掛けであからさまに血相を変えたのは譜由彦だった。俺の前に回って「何飲んだんだ、唯子! 早く吐き出せ!」肩を掴み揺さ振る。俺も刹那パニクったけれどすぐ様飲んでいないことを思い出す。譜由彦に「飲んでない、飲んでないお兄様っ」って訴える。

「え……?」

「こ、ココアは飲んだけど、カプセルは飲んでません! こ、この中に入っていますっ」

 俺はすかさずポケットに入れていたハンカチを開いて見せた。黄色いカプセルはころんと鎮座していた。ぽかんと二人、顔を見合わせていたけれども。

「……、あれ、先輩は……?」

 先輩はいなくなっていた。手品のトリックみたいに、気を逸らした数瞬でどこかへ消えていた。医務室には勝手口と言うか搬送用の出入り口が在った。普段鍵が掛かっている扉は案の定開いていた。


 数時間後、先輩は校舎からやや離れた木々の茂る中、倒れていたのを発見された。毒を呷ったらしいが遅効性だったようで、手当てが間に合い助かった。

 ケースを調べたところ無色のカプセルが無くなっていたそうだ。



 

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