時空を越えて
隠岐の島、西ノ島町の防波堤で海に時計を落とした真衣はそれから半年後。
母親と境港から隠岐の島に向かう、帰りの大型フェリーにいた。
11月の肌寒い風を受け一人、満足気な顔をしてデッキに立っていた。
月に一度の日曜日に親が隠岐の島から境港まで買い出し行くのを付いてきたのです。
真衣にとって、境港の大型ショッピングセンターに行くのが一番の楽しみであった。
広い店内に、山積みになった商品と種類豊富な商品、たくさんのお客と
軽快なBGMにお買得を知らせる店内放送で店は賑やかさに満ちており。
真衣には隠岐の島と比べ別世界のこの空間にすっかり魅力されていました。
海に落としてしまった、親からの誕生日プレゼントのデジタル表示のベビーGもここで自分で選らんだのです。
たくさんの買い物をしながら、母親が
「真衣、時計買ってあげようか?
あれだけ欲しがっていたのに残念でしょう?」
「いやいいの、あれじゃなきゃ嫌なの!」
「だってお母さんが時計の裏に名前を彫ってくれたから誰かが届けてくれそうな気がするの!」
「海の中じゃ無理だよ、戻ってこないよ!」
「いいの!」
真衣には、なにか予感めいた物を感じていたと思います。
賑やかな店内が真衣の期待感を煽っているかのようでした。
そして、おだやかな境水道から隠岐の島に向かう大型フェリーはゆっくり航行していた。
デッキに立つ真衣は左手に見える島根半島の山々を眺めていた。
約450年前にさかのぼった、その山々にある横田山城の城内に自分の時計があることを知る由もありませんでした。
なぜか、ふっと、、!
山の中に小さい女の子がいて、眼が合ったような気がしました。
「今日もたくさん買い物ができた!」
真衣の満足感を紅葉に染まった山々が、相づちを打つように揺れていました。
その山々の麓に約450年前には権現山城、横田山城、鈴垂城と尼子の水道防衛の基城が建ち並んでいたのです。
そして横田山城、永禄2年 1959年11月のことである。
横田山城は50mほどの山城である、
屋敷からは境水道が180度、見渡すことができ、海はいつも穏やかさを保ち、対岸(境港)は農地が広がるのどかな風景で、この辺り一帯も尼子の領地である。
尼子経久は中海水運、美保関を領して日本海水運を手中にして関銭により莫大な財産を得た、尼子躍進の裏には、この関銭収益と石見銀山があったと思われます。
そして日も傾き始めた夕方頃、
伊織之介はお七の時計をずっと眺めていました。
伊織之介は亀井屋敷での千秋とのことで秀綱からこっぴどく咎められていた。
また、千秋からは甚次郎と夫婦の約束をしたと打ち明けられるやらで、
すっかりしょげて、おとなしくなっていました。
お七が横田山城に来て1ヶ月以上が過ぎていた。
もうすっかり伊織之介に心を許していた、お七が大切に首から下げていた親からの形見をためらいも無く伊織之介に渡すほどであった。
伊織之介も我が娘のように接し、なによりお七は可愛かった、お七と一緒にいると傷心中の心が癒されていました。
お七が、
「伊織之介様はお七の御守りをずっと見とられますね!」
お七は御守りと思っていた。
「あぁ、この動く字の頃合いが何か心の臓みたいでな、生き物みたいで不思議なのじゃ。」
「ふーん」
伊織之介は何かの文字が動くのをジッと眺めていた、秒の文字盤であった、
そして、なにかのタイミングで文字がひとつ動くのを発見した
それは0と0が二つ並ぶタイミングであった、
いわゆる60秒周期である
分の単位が動くのを飽きずにずっと眺めていた、
そして時間の単位も動くことを発見した、ただそれだけであった。
伊織之介にとって、これは時を刻む物との概念はまったくなく、何かの間隔で繋がっているくらいしか思っていなかった、ただずっと眺めていても飽きないようでした。
その時、、、、晴れていた空に雲がかかり、、、、
何百匹の鳥たちが一斉に鳴き声をあげ飛びたって行き、辺りは急に暗くなってしまいました。
何匹もの犬がしきりに吠えています。
すると地の底が、
ごぉぉ、ごぉぉ、ごぉっと鳴った瞬間!
ずっど、ずっど、ずっど、、、
地面が小刻みに突き上がってきました。
地震です!!
「うむむ、、、、」
数秒の縦揺れの後、横揺れに変わり、それも数秒で終わりました。
地震そのものは、この地域では珍しくはなく大袈裟にはならないが、一様確認は必要であった。
屋敷の損傷はなく、
伊織之介が
「皆は大丈夫か?」
「大事ございません!」と
家来衆の返事がきた時、伊織之介は時計を見た。
丁度秒の単位が00、分の単位が0であった。
伊織之介は何か胸騒ぎを思っていた、
今まで縦に揺れたことがあっただろうか?
ずっど、ずっど、ずっどっての、
地面が小刻みに突き上がる感覚は初めてでした。
次の地震が来ないようなので、伊織之介は飽きもせず、また時計を眺めていた。
そして、分の単位が五回変わった時!
下の家来衆から大声がした。
「大波だぁー、大波だぁー」
「早く逃げろー!早く逃げろー!」
伊織之介が
「早く上に上がれ!早く!お七も早く!」
津波であった。
1メートル位の津波が日本海の方から押し寄せて来ていた。
津波の勢いは凄まじく、水道の岩礁を越え木々をなぎ倒して進んで来ていました。
往来していた小船は次々と転覆し、海の水が下の屋敷の中まで押し寄せてきた。
「皆、大丈夫かー!」
「心配ないかー!」
「家族はいるかー!」
伊織之介はずっと叫び続けていた。
横田山城は高台にあるため、家来衆、とその家族、近隣の農民、漁師、船乗りなど一斉に避難して来ていた。
地震は度々あるが、津波は滅多にはないため、皆は興奮して大騒ぎをしていた、たが人的被害は少なく、あばら屋が数軒流されただけだった。
伊織之介は安堵の表情を浮かべていた、ふと時計を見ると分の単位がさらに五回進んでいることに気付いた。
すると誰かが、
「また大波じゃー、大波じゃー」
日本海の方から先ほどと同じ位の津波が押し寄せてきた。
第二波である。
横田山城に避難している、全員がこの世とも言えない光景が繰り広げられていた、対岸(境港)の農地は真っ黒い海になり絶句し眺めるしかなかったと思われます。
そしてしばらくの時が経ち、津波がもうこないと判断し、伊織之介が
「皆の衆、心配ない! 皆で手分けして片付けを頼むぞ〜」
「わしは考え事があるので奥の間に行く」
と家臣に伝えた。
伊織之介はひらめいていた。
ずっど、ずっど、ずっど、となる縦揺れ、その時は大波が来るのではないか?
お七の御守りが00となった時に変わる文字が五回変わった時に大波が来た、また五回変わった時にも来た。
大波が三回来たとしても、この五回は変わらないのではないか?
この御守りを使って、大波が来ることを予想できるのではないか!
これは、役に立つことで使えるかもしれんぞ!
もしや人助けに使えるかも知れんぞ!
この御守りはもしや?
戦でも?
と、ひらめきはしましたが確信はもてませんでした。
だが何故だか嬉しさが込み上げてきた。
「お七!抱っこじゃあ!」
抱き上げ頬ずりをする伊織之介に
「痛い!」っと、
嫌がるお七を尚可愛くて仕方が無い様子でした。
「お七、この御守り大切にするんだぞ!きっといい事があるぞ!」
「ワッハハ!」
「ウフフ、、、」
しばらく二人は笑い続けておりました。
この後、伊織之介は未来からの贈り物で最高の武勲をあげることとなるのだが、この時は知る由もなく、
ただ心の底から嬉しさが込み上げていた。
隠岐の島、西ノ島町の真衣の家である。
買い物を広げて眺めていた真衣に母親が。
「真衣、境港で地震があったみたいよ!」
「へぇー」
「大きかったの?」
「震度2だって」
「早く帰ってよかったね!」
「ちょっと津波が発生したけど、たいしたことないみたい」
「ウフフ、、、、」
「なに、この子、笑うことじゃないでしょ!」
「ゴメン、ウフフ、、」
「不思議?なんかおかしいの、ウフフ、、」
「なに、この子、もう〜」