宅配物は巨大ロボ
ロボものの短編です。
早朝、地響きとヘリの音で俺は目覚めた。時刻を確認する。まだ6時半、俺は二度寝する事にした。だが、母親が二階の俺の部屋に駆け上がってくる音が聞こえ、気分が鬱々としてくる。随分慌てているようだった。
日曜の朝なのに勘弁してくれよ。そう思い俺は布団に潜って隠れようとした。だが、母親はノックもせずに部屋に入ると、俺から布団を剥ぎとり怒鳴った。
「あ、あんた!!また変なの買ったでしょ!?あんた宛の物が家の前に届いてるから早く何とかしなさい!!御近所様の迷惑になるでしょ!!」
「はぁ?何も買ってねぇよ!!」
嘘ではなかった。今日届く筈の物は何もない。俺はアニメのBDにしても、エロゲにしても親がいる時に届けてもらうようなヘマはしない。
母親に悪態をつき、寝巻きのまま居間に出ると、父と妹までもが怪訝そうな目で俺を見ている。朝っぱなから何なんだよ畜生。
あまりに機嫌が悪くなってきた俺は、もうエロゲがバレてもいいと開き直る事にした。
「で?俺宛のもんはどこ?」
母親が顎でドアの方を指し示す。
「どこ?どこにもないんだけど?」
「外よ。早く何とかしなさい!」
家の中に入れといてくれたっていいじゃねぇか。ブツブツと文句をいいながら、軽く上着を羽織り、家の外に出る。
あれ?暗い?
日の光が出ていた筈なのに、外が暗い。自分の家が陰に隠れてしまってるのだ。
その原因は、そこに鎮座していた。
「な、なんだよ……コレ……」
十メートルはある巨大な建造物。いや、よく見るとそれは段ボールで出来ていた。
巨大な直方体の箱。表面にはAmazonの文字さえある。理解し難かったが、どうやらコレが俺宛の宅配物らしい。
「だ……誰だよ!俺にこんな悪戯したやつは!?」
俺はそれに近づくと、丁度いい高さに貼ってあった送り主の名前を見た。
『地球防衛軍』
眩暈がするようだ。そして一体誰がこんな巫山戯た悪戯をし、俺を見て笑っているのだろうと思うと怒りが込み上げてくる。
俺は友達に片っ端から連絡をとり、無理を言って家の前まで来てもらった。もちろん彼らにも疑いはあったが、様子をみるにどうも違うらしい。
「な、なぁ……コレ何が入ってるんだ?まさか爆弾とかじゃないよな?」
友達の一人が言った。その言葉に緊張が走る。
「まさか……そんなバカな事……」
しかし、得体のしれないソレを見ると、違うとは言い切れない。
「おい!これ見てみろよ!!」
別の友人が大声をあげた。手に何か持っている。それは伝票だった。
そこに書かれた言葉を見て、目を丸くする。
『巨大ロボ在中』
「は、はぁ!?巨大ロボって……あの巨大ロボか!?
何がなんだかサッパリわからない。そんな物を注文した覚えはないし、そんな物を買える金もありはしない。やっぱり悪戯だと、警察に連絡しようとした時、友達は言った。
「あ、開けるだけ開けてみねぇ?本物があったらさ、そりゃまぁ……ネタにはなるだろ?それにほら!お前そういうの好きじゃん!」
『そういうの』とは搭乗型の人型ロボが戦う話が好きという事だ。
確かに好きだが、だがこれはどう考えても悪戯だろう。何だよAmazonって。
しかし、友人達は他人事だと思って既に梱包を解きにかかっている。そして、まさかそんな馬鹿げた事がある筈ないと思いつつ、自分も一緒になって開けている事に気づく。
仮にだ。もしも仮にコレが本当に『地球防衛軍』からの配達物で、中に巨大ロボが入っていたら?硬質なボディに最新の技術が投入され、さらにミサイルやビームサーベルまでもが搭載されていて、俺は人類の希望となって戦うのだ。馬鹿らしい事だか、妄想するには良いネタじゃないか。とうとう自分に地球を救う順番が回って来たのだと。
そうだ、もう学校と家とを行き来するだけの生活にはウンザリだ。変われるなら、変わりたい。もしコレがそのきっかけなら?
俺の熱くたぎる血が叫んでいる。
「てめぇの道はてめぇで切り拓けってな!」
恥ずかしい妄想のせいで、少しばかり力が入ってしまったのか、バコンっと大きな音をたて段ボールの側面が一つベリベリと剥がれ始めた。他の側面もそれに伴って剥がれる。
十メートルの段ボールは周囲を大きく巻き込んで開封された。
そしてそれは姿を現した。
「…………嘘……だろ?」
騒ぎを聞きつけた人々によって、その周りは人混みにまみれていた。
いつの間にか友人達がそそくさとその場から消えている。俺だって消えたいくらいだ。
「お兄ちゃん……これ何?」
家から出てきた妹が聞いた。それは明らかに異様ななりをしていた。いや、むしろ普通過ぎて異様と言えば良いのだろうか。
俺はセーラー服を着たそれを見上げると、この国に向かって叫んだ。
「また美少女かよ!!」
こんな萌える物で、一体何を救えるというのだ。
<おい……聞コえテ………るか?>
母艦からの通信が聞こえる。朦朧とする意識の中、俺は目覚めた。どうやら夢を見ていたらしい。馬鹿げた夢だが、懐かしい夢だ。
「あ、あぁ……聞こえてるよ」
右半身が言う事を聞かない。どうやら先の攻撃を防いだ際、自分達も巻き込まれたらしい。大量の血が流れている。ここでこうしてるのは、おそらく爆風に飛ばされたからだろう。
<ヨカッタ……ハヤ……カン…ヨ…>
音声が鮮明じゃないため、正確には聞き取れないが、おそらく帰還しろって言われているのだろう。
「それは……出来ない」
もう帰還するだけの力は俺達のどこにも残っていなかった。セーラの損害状況を確認する。両腕と左脚、それからブーストが片方やられている。もっているのが不思議なくらいだ。
俺は強引に通信を切った。これは俺の我儘だ。
「なぁ……俺達、もう十分頑張ったよな?」
俺は物言わぬセーラに尋ねた。
あの日からもう随分経つ。今までよく1人で、いや2人で戦い抜いたものだ。
「何だか随分なとこまで来ちまったな……」
宇宙の中でこうして浮遊したまま、セーラと2人きりで静かに死んでいくのも悪くない。
もうすぐ最新鋭の機体を持った三人がやってくる。彼らがいれば地球は救われるだろう。俺とセーラが手も足も出なかった。凄い奴らだ。
俺が人類の希望だったのは、もう過去の事。これからは彼らが新しい希望となるのだろう。自分が希望となった日が懐かしい。
「まさかお前が……いや、今はもうそんな事どうでもいいか」
長い年月の中で、妹には子どもが出来た。俺の事を心配してくれる優しい妹。幸せになってくれ、とだけ言って俺はここに来た。
何となく、俺はここで死ぬ気がしたから。
こういう死に方が与えられただけでも感謝するべきかもしれない。
化け物に喰われて死ぬのは御免だ。
俺はゆっくりと瞳を閉じた。
「おやすみ……セーラ」
<……オ……キテ……マダ……>
「………………ん?」
セーラが何かを言っているような気がした。感覚の無い右半身を引きずって、無理矢理体を起こす。
モニターに何か奇妙な物が映っていた。
「これ……あいつらか?」
最新鋭機をもった三人がそこにいた。
巨大ではあるが、苦戦するような相手ではない筈。ましてや三人がかり。それなのに何故いつまでも道を塞がれているのだ?
「そう……か、あいつら始めての実戦で……かたくなってやがる」
支援射撃は出来ない。ミサイルの残弾はもう無かった。何をやっているのだと、もどかしくなる。彼らがこんなところで燻っていてはならない。彼らこそが人類の、俺の妹の、妹の子どもの、そして俺の希望なのだから。
<…………ア…………ル………>
再び、セーラの声が聞こえた気がした。
なぜかブーストが微かに動こうとしている。
「………そうか……まだ一発だけ……残ってたな……」
俺は嬉しくて笑い出しそうだった。
先程まで死のうとしていた奴が、今はもう別の事を考えている。
「セーラ……最後の我儘だ。聞いてくれ……」
人類の希望になった奴の、最後の仕事だ。
俺はセーラのブーストをフルバーストさせた。俺達の熱くたぎる血が叫んでいる。
「道を拓いてやるのはコレが最初で最後だッ!てめぇらの道はてめぇらで切り拓けええええええッッッッ!!!!」
西暦2053年。彼女と出会ってからまだ四年しか経っていない。初めは散々だったな。周りに何度バカにされた事かわからない。
走馬灯が見える中、どうしても俺は最後に伝えたかった。
「俺の家に届いたのが……お前で良かった」
そして……俺は……………
読んでいただき本当にありがとうございました。
美少女ロボなんて昔からいるんですけどね。