エピローグ的なもの
「いやそれがね、迷宮の入り口に行ったら冒険者協同組合の許可がないと降りられないの一点張りだったんだよ。えっ? 何のためにって、この国を救ってやろうと思ってだよ。いやいや頭は大丈夫だから。むしろ普通より教養はあるよ。えっ、外国人は駄目? じゃあこの国の人間になるにはどうしたらいいの。なれない? ちょっとまてよ。せっかく、この国を救ってやろうと思って来てるのに、なんて言い草だよ。じゃあどうしたらいいのさ。パーティーリーダーがこの国の人間ならいいの。なら楽勝だよ。いやいや狂ってないから」
「どうだったの?」
「どうもこの国の奴をリーダーとして登録しないと駄目みたいだわ」
「だから言ったでしょ。この国は迷宮の管理をギルドに一任しているの」
「はいはい、シンシアは物知りだね。ま、俺がいっちょそこら辺の奴を丸め込んで何とかするから心配すんな。大丈夫だって、そんなに心配されたら傷つくよ。ちょっとそこら辺に座って待っててくれ。大船に乗ったつもりでさ」
冒険者協同組合の中を見回してみるが、どいつも既存のパーティーを持っているらしく、なかなかカモになりそうな奴がいない。
しばらく待っていると、暗い顔をした大きな猫みたいな奴がウロウロしているのを見つけた。
本当にゲームみたいな国だ。
冒険者ギルドがあって、人間以外の奴がそこら辺を歩いていたりする。
「あっ、すいませーん。ちょっといいですか」
「にゃにか用かにゃ」
「俺は駆け出しの冒険者なんですけどね、この通り右も左もわからなくって、見たところ先輩は一人みたいじゃないですか。だから俺たちのパーティーリーダーになってくれたりしないかなーなんて思っているんわけなんですよ」
「リーダーってもしかしてお前の後ろにいるあの派手な5人も一緒にゃの?」
「ええ、そうです。あいつらも一緒に、先輩に面倒見てもらおうかと思って」
「お前馬鹿にゃんじゃないの。あんにゃ派手にゃの連れてると、妬まれて大変にゃことににゃるよ。それに、あの5人はお前のにゃんにゃわけ?」
「まー、家来みたいなもんですかね」
「ハッ、まさか私を6人目にするつもりにゃんじゃ・・・・・・」
「い、いやだなー。先輩ちょっと自意識過剰なんじゃないですか。あの5人を前にしてそれが言えるって凄いですよ。純粋に右も左もわからないので色々教えてもらいたいだけですって」
「そうにゃの? にゃんか腹立たしいけど、まあいいかにゃ」
「じゃあ早速、登録のほうだけでも・・・・・・」
「馬鹿だにゃあ。声をかけたのが私だったからいいようにゃものの、そんな田舎もの丸出しの態度じゃ、にゃめられて騙されるところだよ」
「ば、馬鹿馬鹿言うのやめてくださいよ。馬鹿なわけないでしょう。俺の元の世界とここじゃ、教育の水準からしてまるで違うんですよ。平均よりは教養がありますよ。わりと最後の砦みたいなところあるんで、それ無神経に蹴飛ばすのやめてくれませんかね!」
「にゃんだか良くわからないけど、まあいいか。それじゃ登録する?」
「ええ、是非お願いします」
「じゃあ、あの5人も連れてきて」
「うまく丸め込んだぜ。登録があるから来てくれだって」
こうして俺たちはうまいこと登録することができた。
「ところで先輩、名前はなんていうんですか」
「たま」
「タマ! タマっていうんですか!」
「にゃんで笑うのをこらえてるのかにゃ・・・・・・」
「い、いや、それよりもタマ先輩って発音がちょっと他の人と違いますよね。特に『な』のあたりが」
「発音できにゃいからね」
「それに体の造りとかどうなってるんですか。人間ぽいけど、かなり毛むくじゃらですよね。おっぱいとかいくつあるんです?」
「にゃんだか失礼な奴だにゃー。そ、そんなことおんにゃのこに聞くことじゃにゃいよね。胸は二つしかにゃいよ」
「本当に人間みたいですよね」
「はあ、いにゃか者ってことで大目に見てあげるけど、普通そんにゃ失礼な事言ったら喧嘩ににゃってもおかしくにゃいんだよ。本当に私に声かけて正解だったね。見たところ身にゃりはいいようだけど、どこの田舎から出てきたの?」
「ほかの国です。一応、その国だと貴族ってやつだったんですよ」
「へー、凄いじゃにゃいの。それでお金持ってるんだね」
「それじゃ、早速、迷宮へ冒険に行きましょうか」
「ダメダメ、そんなに焦ってたら、命がいくつあっても足りにゃいよ。まずは装備からだけど、お前とお前の家来は装備がそろってるのね。そこでものは相談にゃんだけど、私の装備がこないだから調子悪くって、代わりのを買うお金を貸してくれにゃいかにゃ」
「ああ、そんなことならプレゼントしますよ。店にある一番いい装備を買いましょう」
「えっ、一番いい奴を買ってくれるの? もっと普通の奴でいいんだけど」
「いやいや、お世話になる身ですから、変なの買えないっすよ。それよりちゃっちゃと済ませましょう」
「……本当にそれでいいんです? 頭に、変なシャチホコみたいの乗ってますけど・・・・・・」
「本当にものを知らにゃいにゃあ。世界に伝わる伝説の装備のレプリカにゃんだよ。お前の鎧だって、その伝説の装備のレプリカにゃんだからね。本当なら兜もあって上に彫刻が乗ってるはずにゃんだから」
「ああ・・・・・・その兜なら持ってますよ。頭の上にニワトリが付いてるんで、人前ではちょっと外してるだけです。それにしても先輩の趣味はすごいっすね。俺より目立ってますよ」
「にゃんだか照れるね。そんなに褒めにゃいでよ」
「いや・・・・・・別に、褒めてるとかないっすけど・・・・・・」
「次は酒場で昼ごはんを食べてから、食料を買い込むよ」
「ああ、それは重要ですね」
「昼ごはんは先輩として奢ってあげるからね」
「い、いやあ、見事に魚料理ばっかりっすね」
「遠慮せず食べてね」
「ええ頂きます。お前たちも先輩のおごりなんだから、残したりして失礼のないようにな」
「ところで、お前が引き連れてる5人はどんな関係なのかにゃ」
「うーん。まあ、家来っすかね」
「家来になったつもりなんてないしー」
「5人とも左手の薬指に指輪を付けてるけど、にゃんのおまじにゃい?」
「まあ、結婚してるというか・・・・・・」
「5人と!?」
「・・・・・・ええ、実はもう一人いますけど」
「それでお前は6つも指輪はめてて辛くにゃいの?」
「辛いですよ。血行とか悪くなりますし」
「やっぱりお前って馬鹿にゃんじゃ・・・・・・」
「馬鹿とかやめてくださいよ! いくら先輩でも言っていいことと悪いことがありますよ!」
「そんにゃに怒らにゃいでよ。悪かったってば。それで6人目は? 見あたらにゃいよ?」
「仕事がたくさん入っちゃってお留守番です。それより食事が終わったら迷宮に入るんですよね?」
「その前に決めておかにゃかにゃきゃにゃらにゃいことがある。分け前は出た結晶石の半分は私のものってことでどうかにゃ。先輩にゃんだし、ほとんど私が戦うことににゃるとおもうし、最初はそのくらいが相場にゃんだけど」
「んー、いや、結晶石はいらないですよ。召魔の種とか触媒とか出たら、俺たちが欲しいので、そのかわり結晶石は先輩の取り分ってことでどうですか」
「お前……やっぱり……」
「なんです? 馬鹿とかやめてくださいよ」
「本当にそんにゃわけまえでいいの? 召魔の種なんて、そんな簡単に見つかるもんじゃにゃいよ?」
「俺はけっこう見つけるのが得意なんすよ。それに召魔の種は当たれば凄いのがありますからねー」
「そういうギャンブル思考は破滅を招くからやめたほうがいいのににゃー」
「はあ、やっぱ迷宮内って落ち着くなあ」
「そんなことよりさ、にゃんかお前の嫁さんたちって強すぎにゃい? 普通にSランク冒険者か、それ以上の実力があるように見えるんだけど」
「気のせいですって。そんなこと言って、タマ先輩だって、けっこう凄いんじゃないですか。俺の眼は誤魔化せないですよ。冒険者協同組合で見た中でも魔力素質は結構なものがあるように見えましたけど」
「わかるの? お前もけっこう凄いんだね。こう見えて伊達に一人で迷宮に入ってにゃいよ」
「それだけの実力がありながら、何でひとりで入ってるんです?」
「そ、それは、はにゃせばにゃがくなる理由があるというか。初めてこの町にやってきたときはパーティーを組んでたんだけど、その、……悪い奴に騙されちゃって、迷宮で出た儲けを全部取られちゃったんだよ。それで、そんにゃリーダーについて来る冒険者はいにゃいでしょ。そのうわさが広まっちゃったから一人ににゃっちゃったの」
「へー、結構、重めの理由があるんすね。俺はそんなの気にしないっすよ。先輩はお人よしが過ぎるんじゃないですか」
「気にしにゃいのは有難いけど、お人よしにゃのは変えられにゃいなー。お前も違った意味で騙されやすそうだから気をつけたほうがいいよ」
「何いってんすか。俺は騙されたりしないっすよ。どちらかと言えば騙すほうですからね。先輩は本当に騙されやすいから気をつけた方がいいっすね。それにしても、一人で迷宮に入るのって結構危険なんじゃないですかね?」
「一緒に組んでくれる人がいにゃくにゃったからって、それで終わるわけじゃにゃいからね。生活のためもあるし、にゃにより今まで、にゃがれ者だったから家を買いたいって目標があるの。それだけはどうしても譲れにゃいからね。それにしてもお前の嫁は結晶石を拾わにゃいよね。にゃんか捨ててるみたいでびっくりするよ」
「ああ、それじゃ俺も拾いますよ。集めた奴はシンシアにでも持たせておいて下さい。呼び出し箱がありますから」
「えー、めんどくさい。そんなの捨てちゃえばいいじゃん」
「いいから箱を出してくれよ。先輩に持たせておくわけにもいかないだろ」
「もう家が建つくらいのお金でも渡して、さよならすればいいじゃん。見張りの兵隊くらい、帰りは倒しちゃおうよ。まさか、あの人にも下心があるわけじゃないわよね」
「そんな見境もなくヤキモチばっか焼くなよ。ジュリアンに言われただろ。国際問題になるようなことだけはしてくれるなよって。先輩の協力が必要なんだよ」
「何をコソコソ話してるのかにゃ?」
「いや、ちょっと家来に反抗されただけですよ。ほら、呼び出し箱」
「はいはい」
「すいませんね。どうもこいつ、先輩にヤキモチ焼いてるみたいで」
「ふーん、モテる男は大変にゃんだね」
「やっぱナタリーに作ってもらうご飯はおいしいな。それじゃ今日はここに泊まるか」
「そうね。悪くにゃいんじゃにゃいの」
「じゃあ、あたしタマ先輩と寝る」
「あー、暖かそうだしいいんじゃないの。じゃあ火は消すぞ」
「ちょっとまって! にゃんだかこの子の手の動きに、私の貞操が心配ににゃってくるんだけど、一緒に寝て大丈夫にゃのかにゃ!」
「どうですかね。それよりも早く寝ちゃいましょう」
「お前は私のことを動物かにゃんかだと思って軽く見てにゃい!?」
「そんなことないですって」
「ねえ、にゃんだかどんどん奥に入っていくけど、普通、駆け出しの冒険者はこんにゃとこまで入ってこにゃいよ」
「そうっすかねえ。まだ俺の出番もないし、余裕なんじゃないですか」
「いや、こんな中層階に入ったらにゃにがいてもおかしくにゃい。それに何でお前は来た道を氷漬けにしながら歩いてるのかにゃ」
「先輩が魔力に晒されて疲弊しないためのおまじないみたいなもんですよ」
「そんにゃおまじにゃい聞いたことにゃいし、お前の魔力は一体どうにゃってるの。それにやっぱり引き返したほうがいいよ。こんにゃとこまで来たら私でもいざって時に助けられるかどうか……って、イ、インケルス!!! あれっ、前が見えにゃい!」
「だーれだ。って両手ふさがっちゃった。クリスティーナちょっと代わって。それにしてもこういう自分から魔力を発してる魔獣とか最高にカモだよな。よっと」
「後ろから抑えてるのはだれ!? 逃げにゃきゃ駄目だよ。みんな死んじゃうよ」
「どうしたんですか、いきなり発狂しだしてビックリしますよ」
「あれ!? インケルスは????」
「そんなの最初からいないですって、見間違えたんじゃないですか。それよりもでっかい結晶石が落ちてましたよ」
「うわー、すごい! これだけでも家が建つんじゃにゃいのかな。そろそろ引き返す?」
「いやいや、そんなんじゃ土地代にも足りないですって。先輩にはもっと大きな家を建てて欲しいなあ」
「いやいや、そろそろ本当にインケルスくらい出てもおかしくにゃいからね。最近は魔物の量が多くてやばいんだから。って、インケルスが2匹!!!!!!」
「あれ、タマ先輩、気絶しちゃった」
「しょうがないな。ニーナが背負ってやってくれ」
「うん」
「それにしても、この迷宮はインケルスが多いな。さっさと本命を倒そうぜ。よっと、あれ、やっぱインケルスって光魔をよけるんだよな。そういう時は上を狙って、落盤に気を取られている隙に撃つと、ほら倒せた」
「あれも拾ってくの?」
「当たり前だろ、それよりも、こっちの方の魔力が濃いから、たぶん本命がこの先にいるぜ」
「いたな。今回は二匹もいるよ。それじゃちょっくら倒してくるから、ここで待っててくれよ。俺がやばくなっても絶対に出てくるなよ」
「ぜはぁ、ぜはぁ、ぜはっ、はぁ、はぁ、はぁ、ヤッバイ、はぁ、はぁ、マジギリギリ、調子に乗って二体いっぺんにとかマジ無理だわ。マジやばかった」
「こんな狭い空間で戦うからだよ。もっと広いところでないと魔力が足りないでしょ」
「そういうことはもっと早く言ってくれよ」
「今気付いたしー」
「お前、最近、薬が切れてきたのか冷たい時あるよな」
「そんなことないってば、ダーリン」
「やめろって、体がだるいんだから。ちょっとクリスティーナ、メリエル、肩貸してくれないか」
「うぅ・・・・・・」
「あれ、タマ先輩、気がついたよ」
「あれ、もう帰るところにゃのかにゃ」
「ええ、ちょっと俺の体力がつきましてね」
「おんにゃのこに引きずられて帰るにゃんて情けにゃいにゃあ」
「じゃあ、先輩が背負ってくださいよ」
「私もおんにゃのこにゃんだけどね」
「でも何もしてないから一番体力があまってるじゃないですか」
「しょうがないにゃあ」
「今、なを発音しませんでしたか?」
「気のせいじゃにゃいの。それよりどこ触ってるの!」
「いや、ホントすみません。興味本位でどうなってるのか気になっちゃって」
「気のせいとか言って、せにゃかに硬いものが当たってる!」
「いや、意外と女の子の感触だったもので・・・・・・」
「にゃんかね。冒険者カードに入っちゃいけないところに入った形跡があるから、冒険者資格取り消しにゃんだって。そんにゃところに入ったの?」
「いやー、入ったかも知れないっすね。だって先輩が教えてくれなかったし。それで家が建つくらいの金は出来たんですか?」
「にゃんか組合にあるお金じゃ足りにゃいから、支払いには2ヶ月くらいかかるって」
「資格取り消しでも結晶石が引き取ってもらえたならいいじゃないっすか。その金で引退して魚でも食いながら慎ましやかに暮らしたらいいんですよ」
「そうだね。最近の駆け出し冒険者の実力を目の当たりにして、自分の力のにゃさを思い知ったよ。でも、本当に分け前はいらにゃいの? 今ある分のお金だけはもらってきたよ?」
「いらないっすよ。そんなの荷物になるだけなんで」
「お前……やっぱり……」
「馬鹿とかじゃないっすよ!?」
「そうにゃの。不思議にゃ人だね。それで、もう行くの?」
「ええ」
「はああああぁ、また馬車での移動かあああああ。俺、この時間が一番嫌いなんだよな」
「なんで私が御者をやってるのかしら」
「なんでって、そこに座ってるからだろ」
「あなたの隣に座ろうと思ったの!」
「もうそんなに騒ぐなって。なんかうるさいのばっかで疲れるよなあ。もう俺、ナタリーとメリエルが一番好き。超癒される。膝枕して、ナタリー」
「いいですよ。どうぞ」
「超ムカつくんですけどー」
「じゃあ、あたしも一緒に寝る。メリエル、膝枕して」
「ええ、どうぞ」
「じゃあ私はカズヤの腕枕ね」
「クリスティーナは細いなあ。ちゃんと飯食ってるのか。栄養失調一歩手前だぜ」
「うるさいわね。この中で、あんたが一番うるさいわよ」
この国に世界一悪趣味な豪邸が建ったと風の噂で聞いたのは3ヶ月後のことだった。
そして俺がすべての迷宮で仕事を終えたのは、この時から1年後のことである。




