第47話 魔竜
迷宮の探索は前回と同じ流れだった。
特に変わったこともない。
シンシアもメリエルも普通以上に戦えるようになっているので、俺は召魔の種ばかり探していた。
今回のニーナは召魔の種の見極め方を覚えてきたので、使えるやつがあればちょろまかす気まんまんで俺への指示は多い。
前回は大変苦労した13階層も、半分の日数もかからずに終わりを迎え、ジュリアンとレオナルドの分担まで手伝った。
そこまでほとんど何もしていなかった俺は、ここで初めて手伝いとして戦うことになる。
オーレグからただの一本すら取れなかった俺だが、今では無意識に網線や体素を使いこなせるようになっていた。
あの意味のないと思われた特訓にもちゃんと効果が出ていたのだ。
規則を無視して一人で暴れまわっていたのに、かすり傷ひとつ負わなかった。
14階層に入り、みんなが蒼い顔をし始めるころになると、俺の手助けはかなりありがたがられた。
全体の1割にも満たないが、動けなくなるものも出始めているのもある。
それでも前回でインケルスを倒したせいもあるだろうが、今回の症状は全体的に前よりも軽度で済んでいた。
ナタリーの症状も今回は15階層くらいまでなら何とか持つだろうといった感じだ。
ほとんど全ての騎士団に助けに行っていたのと目立つ格好のせいで、俺はかなりの有名人になった。
あの金ぴかは凄いとそこらじゅうで囁かれるようになった。
銀のマントをはためかせ、頭のおかしな格好をしたやつが颯爽と現れて魔物を倒してくれるのだ。
目立たないほうがおかしい。
これもジュリアンの作戦の内である。
14階層までは何も起こらなかった。
そして俺たちは問題の15階層に降りることになった。
その初日のことだった。
誰の耳にもわかる大きな咆哮が迷宮内に鳴り響いたのである。
すぐさま作戦本部に人が集められ、今後の対策を検討することになった。
ナタリーの権限で俺たちもその会議に参加することができた。
作戦会議の場には皇帝までもが参加していた。
「あれは何だ。誰か説明できるものはおらんか」
その皇帝の言葉の前に、貴族や騎士団長たちは蒼くなって震えているだけである。
貴族などは唯々びびっているだけだろうが、騎士団長にとってはもっと深刻な問題だ。
「歴史の書にある、魔竜の咆哮ではないかと思われます」
ジュリアンの言葉に、俺とジュリアン、ナタリーを除いた全員に驚愕の表情が現れる。
レオナルドまで、これ以上ないほど驚いていた。
俺はとうとうきてしまったか、という感慨のほうが大きい。
「我々も恐らく、そうでないかと考えています。これは周期から割り出したものですが、過去にもほぼ90年ごとに魔竜討伐の記録があります。そして、大体同時期にインケルスのような強力な魔獣が出現したという記録もありました。そのくらいの周期で迷宮内の魔力の高まる時期があるようです」
ジュリアンの予測を補足する形になったのは第8騎士団の女団長だ。
彼女もまた恐怖の色を隠せないでいる。
「それが本当だとすれば大変な問題だぞ。もし放置すれば地上にまで上がってくるかもしれない。最悪、迷宮が崩壊し帝国の領土が沈下するかもしれない事態になる。しかし、倒すとなればその被害は・・・・・・」
「まずは状況の確認と、何がそこにいるのかを目視で確認するのを優先しましょう。どうするか決めるのであればその後でも遅くないはずです」
焦りを見せる貴族たちの言葉をさえぎる形で、ナタリーの提案が行われた。
そしてナタリーの指示で偵察部隊が組まれてすぐに出発する。
その偵察部隊が帰ってきてから、本格的な方針を決めることで一致した。
その後はキャンプ地を、予定していた場所から移動させるための話し合いが行われた。
なるべく目立たないよう、もう少し狭い場所に移動させる事が決まる。
そして偵察部隊が帰ってくるまでの一時的な解散が告げられた。
貴族と皇帝以外の者は退出するよう命じられて、俺たちは本部テントを後にする。
「おいジュリアン、お前が変なこと言い出すから本当に起こっちまったじゃないか。なんてこった。まったくなんてこっただぜ」
「落ち着けよレオナルド。これは前回の時にもわかっていたことだろ。俺には魔力が見えるからハッキリわかるぜ。ここの魔力は前回、インケルスを倒した後とほとんど変わってない。あいつが現れたのは前回よりも前だ。それよりも、ジュリアン。さっきの話だと今回はこのまま引き上げて、準備を用意してからもう一度って話もあるような感じがしたぜ」
「それはないな。貴族どもは騎士の誓いなんて信じてない。一度上に戻れば逃げ出すやつが出てくると考えて、明日にでも突撃命令がでるだろう。準備をするような時間は絶対に与えてくれはしない。出来ればこの時までにナタリーを師団長にしておきたかったが、どうやら手遅れのようだな。こうなってしまったのなら、前もって話してある通り、あの作戦で行くしかないだろう」
「お前ら随分と落ち着いてやがるな。俺はもう、死ぬとわかってたらあれもこれもと思い残しが出てきて、このままじゃ成仏できそうにないぜ」
「おい縁起でもないこと言うなよ。そのために準備してきたんだろ。ジュリアンの作戦はこの前もうまく行ったんだから、そんなに早まった考えするなよ。もう少し落ち着いたらどうだ」
「その作戦だって、カズヤを囮にして後ろから槍を投げるとかいう馬鹿げたあれだろ。ああ、娼館に全財産置いてくりゃよかった。何で俺はあそこで帰っちまったんだ」
「思い残しってそんなことかよ。あんまりメソメソされるとこっちまで落ち込んでくる」
「もし作戦が失敗したら、あとはレオナルドの馬鹿力だけが鱗を壊す頼みの綱だ。いい加減に気持ちを切り替えろ」
「そんなこと言ったって、魔竜っていやあ、騎士にとって悪夢みたいなもんだぜ。奇跡でもなきゃたおせっこねえしろもんだ。それを、あんな槍を投げるなんて子供だましが通用する相手かよ。もう少しマシな作戦は思いつかなかったのか」
俺とジュリアンがどんなに慰めても、レオナルドは俺たちの奮い立つ気持ちを萎えさせるのに余念がない。
俺だってレオナルドをなだめてなかったら、ひざから崩れ落ちてた可能性もある。
それにジュリアンは槍を投げる作戦にそれほど積極的じゃなかったのも引っかかる。
思ってたほど爆発に指向性が持たせられなかったってのもあるけどな。
それにしたって今の俺たちには、頼みの綱であることに代わりはない。
俺たちはテントを移動させる旨だけ伝えて、また作戦本部へと引き返した。
そこでは、やはり今回の侵攻で魔竜を倒すという決定が貴族たちによってなされていた。
ナタリーも憔悴しきったような顔をしていた。
説得は無理だったということだろう。
貴族たちは出資金よりも、自分たちの住んでるところが崩れ落ちないかのほうが気にかかるらしい。
そしてそこで俺たちは、もう引き返すことのできない決断をしなきゃいけないことになっていた。
俺はもうあんまり考えたくないから、ナタリーの顔だけを見て気持ちを奮い立たせていた。
魔竜を倒して俺のものにするんだぞってな。
そうでもしてないと気持ちが折れそうなんだもの。




