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第44話 新しい武器

 シンシアがおかしくなってから一週間が過ぎた。

 その頃になって、アンナとシンシアと俺で作っていた槍の試作品がやっと完成した。

 槍というよりは長い棒の先に、アラブの宮殿なんかの建物の頭にある先のとがったキノコみたいなアレが付いただけのものだ。

 その先端を硬いものに叩きつけると爆発するという武器だ。


 試作品を手に持ってみて最初に思ったことは、先の部分に重心が集まりすぎていて投げにくいということだった。

 あとは落とした時に怖すぎるので安全ピンのようなものも欲しい。

 とりあえず、これらの改善点は次の機会に直すことにする。


 試作品が完成した夜、俺はアンナとシンシアをつれて、その試作品の実験に出発した。

 シンシアは馬に乗れないので、俺の後ろに座らせている。

 ここぞとばかりにシンシアが俺の背中にしがみついてくるが、その後ろから全力で抱きしめられる感じは気持ちがいい。


 町外れには、すぐに着いた。

 馬をそこら辺の木の枝につなげて手ごろな岩を探す。

 すぐにアンナが大き目の岩を見つけてくれた。


「それではこの岩にしましょう。カズヤ、もうちょっと離れたら岩に向かって投げてみてください」


 俺はこんなもんかなと手ごろな距離で岩に向かった。


「えー、なんか怖いー」


 そのシンシアの言葉に俺まで怖くなる。


「怖いって、ほとんど自分で設計したじゃないか。大丈夫なんだろ?」


「でも、こういう新しい発明品って、たいてい最初は大失敗するの。想像もつかないようなことが起こり得るわけでしょ。いくら天才といわれた私にも、この未知の発想から生まれた武器は、何が起こるかわからないよ」


「じゃ、じゃあもうちょっと離れるか。──このくらい離れて投げれば安全だよな」


「うーん、そうねー」


 シンシアの態度は煮え切らない。

 しかしもう15メートル以上は離れているので、これ以上離れると岩にあたる可能性がほとんどなくなってしまう。

 仕方ないので、俺はそこから槍を投擲することにした。

 槍投げのように肩の上に持ちあげて構える。


 二人のつばを飲む音が聞こえる。

 俺の後ろに隠れているくせに、いくらなんでも緊張しすぎじゃないか?


 俺は慎重に狙いを定めて、全力で槍を投げた。

 槍はまぐれで岩に命中し、紅蓮の炎を巻き上げる。


 しかし結果からいえば、これは命中しない方がよかった。

 なまじ岩に当たってしまったせいで、爆風が全部こちら側に向かってきたのである。


 ひょえんっと、間抜けな音を発して槍の柄が俺の顔を掠めて飛んでいった。

 それと同時に俺たち三人は爆風にあおられて2メートルほど後ろに飛ばされる。

 後ろを見れば槍の柄は100メートルほど先で地面に突き刺さっていた。


 火薬の量が多すぎたらしく、槍の残骸からは残った火薬に引火してバチバチと音がしていた。


「ひぇぇ、火薬の量が多すぎだな。耳がキンキンするぜ。おい大丈夫か」


「もう、腰が抜けちゃったしー」


「そんなことを偉そうに言うな。アンナは大丈夫か?」


 見ればアンナは夜着の短パンにシミを作り、目には涙を浮かべていた。

 なにも漏らすことはないだろうに。


 俺は手を貸してアンナを立たせ、腰が抜けて動けないシンシアを抱えあげた。

 そして放心状態の二人を何とか屋敷まで連れて帰る。

 しかし二人の精神的ダメージは思ったよりも大きかった。


 これ以後、二人は実験に対して非協力的になった。

 なので実験にはジュリアンとレオナルドに協力してもらうことになる。


 レオナルドはかなり遠くからでも投げられるし、風魔法が使えるジュリアンは安全を確保するのにちょうどよかった。

 結果的には実験はスムーズに進む。


 槍の柄は柔らかい素材にしてバランス調節の重りを巻きつけたものに換え、火薬の量は半分以下に抑えた。

 そして柄の部分が飛んでこないように、柄は槍の真後ろから少しずらしたところに付けた。


 何度か実験を重ねるうちに、ある程度は使えるものになった。

 それを機にレオナルドは槍投げの練習も始めた。

 ジュリアンに言われて、シェンとケンにも同じ練習をするようになった。


 この頃には三人とも俺の特訓には参加していない。

 レオナルドは力任せに木剣を振り回すので避けてしまえば隙だらけだし、シェンやケンは俺の動きについてこれなくなっている。

 ジュリアンの魔法は俺が眼を使って観察していれば、タイミングから何から全部見切れてしまうのでほとんど意味がない。


 ただ一人、オーレグだけは未だにどうにもならない。

 動きに無駄がなさ過ぎて反応が間に合わず、体が動きについていけない。

 反撃をしようとすれば、そこをつけこまれて手痛いしっぺ返しを食らうだけだ。


 反射神経や身体能力でどうにかできる相手ではなかった。

 そのオーレグとの特訓がいまだに続いている。


 経験とは地面に積もる雪のようなもので、長い時間をかけていつの間にか積みあがっているものだ。

 それが圧倒的に足りてない俺にはどうすることもできない相手だった。

 だからいくら続けても勝てる見込みなどない。


 その化け物に毎日追い立てられてバカスカ殴られ続けるのは意味があるのだろうか。

 何度、光魔でお迎えを呼んでやろうと思ったかわからない。

 俺にとっては悪夢に出てくるような存在である。



 まあ、そんなこんなで槍はそれなりに使えるだろう。

 しかし周りに人がいるような状況では、味方に被害が出ることは間違いない。

 風の魔法でも爆風を防ぐことは出来ないとわかっている。

 だから、どうしても少人数で戦う必要がある。


 それに関してジュリアンは考えがあると言ったきり何も教えてくれない。

 しかし今回は俺にもやろうとしていることがわかる。

 たぶん俺たちの騎士団と第4騎士団のメンツだけで倒すと申し出るのだろう。


 魔竜が出たとなればほとんどの騎士団は壊滅に近い被害を受ける。

 本当にみんな死んでしまう可能性だって十分にある。

 投資してきた手駒を失うくらいなら、皆その案に乗ってくるのは間違いない。

 魔竜に限り、手柄がどうこうと言い出される可能性は考えられない。


 しかしシェンやケンは剣の腕なら一流だが、力が足りなくてレオナルドのように遠くから槍を投げることはできない。

 ジュリアンの風魔法の助けを借りてやっと爆風が及ばない範囲から投げられるという程度だ。


 そうなると、そんな作戦に俺はクリスティーナたちを参加させる気がないので、本当に俺一人だけ魔竜と対峙するということになるような気がする。

 まさかとは思うが、ジュリアンはそんな作戦を考えてるわけじゃないよな?

 嫌な予感を覚えながら、俺はそのことについてなるべく考えないようにすることにした。


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