第41話 特訓
休暇が明けたので、俺はいつも通り騎士団本部に顔を出した。
変な召魔と契約させられて怒っているかと思われたレオナルドは意外にも上機嫌だ。
役に立ったとお礼まで言われてしまった。
電動こけしのようなものを体内で飼うことに違和感はないようだ。
どんなものか見せてもらったが、腕が釣り上げられた鯖のように見事に震えていた。
そんなことをしていると、すぐに朝の会議が始まった。
ご苦労様でしたというようなナタリーの挨拶だけで会議は終わった。
レオナルドが従士の訓練を始めようとしたので、俺の従士の訓練も一緒にお願いする。
俺は言われていた通り、ジュリアンに魔法の講義をしてもらう。
俺はまだ買ってきた魔法書を誰に覚えさせるのかも決めていない。
ジュリアンは一番重要とされる自然魔法は風系であると言った。
炎や凍結のようなエネルギーに干渉する魔法は、風によって押しのけられたり、効果を弱められたりしてしまう。
だから攻撃に便利だからと炎ばかり使っていては、思わぬ落とし穴にはまることになる。
風魔法を使ってくる相手には電撃や直接攻撃しかないからだ。
だから攻撃において一番重要な属性は身体ということになる。
そして守りにおいては自然魔法の風系が重要だ。
しかしそれは一戦限りの場合であって、連戦する時には時空や治癒の重要度が上がる。
「じゃあ魔法を無効にするような奴には身体を鍛えるのが一番効くんだな」
「そうだ。お前のように反応速度のいい奴は身体を使いこなす素養もある。今から風だけでも身につけておけばと思ったが、魔法は熟練が重要になるから1ヵ月ではほとんどものに出来ないだろう。だからお前は魔法を捨てて身体に絞ったほうがいい」
「また勝手に才能がないとか決め付けてないか。こう見えても俺は昔からやれば出来る子といわれてきたんだぜ。それに魔法書もせっかくそろえたしさ」
「戦術というのは、いかに戦況を把握するかだ。いい手札も、その場その場に合わせて捨てる思い切りの良さが勝負を別ける」
「まあ、それでもいいのかもな。インケルスを倒せたのもジュリアンの作戦のおかげだったし、信用するよ。それで具体的には何をすればいい」
「具体的にお前は何が出来る」
俺は今持ってるすべての召魔について説明した。
「なるほど。なら自分の従士全員とレオナルドを相手に模擬戦だな」
まだよく理解していない俺を残して、ジュリアンは訓練場で5人を集めた。
そして訓練用の木剣を6本持ってきて配る。
「それじゃ遠慮はいらない。カズヤを倒すつもりでやってくれ」
どうやら俺は5人を同時に相手するらしい。
小さいころから剣の訓練を受けてきたのを相手にして、素人の俺にいったい何が出来るというのか。
始まるまではそう思っていた。
しかし始まってすぐに飛び掛ってきたニーナの動きは体素を出しただけでよく見える。
しかも網線を使えば意識の早さに体が十分ついてくる。
俺はニーナの一撃を木剣で軽く受け流した。
結構いけるかもしれないと俺は思った。
その瞬間、後ろからレオナルドに殴り倒されて俺は気を失った。
意識を取り戻すとジュリアンの顔が目の前にある。
「いいか、一人にだけ意識を集中するな。もっと全体の動きと、その流れに意識を向けろ。それが出来なきゃお前の幻術も宝の持ち腐れだ。それとレオナルドはもう少し加減を覚えろ。いちいち気絶されたら訓練にならない」
「大体5人を相手にするなんてのが無茶なんじゃないのか。まるで最初から気絶してるみたいな反応しかなかったぜ」
「まずは三人くらいにしてみるか。ニーナとメリエルとシンシアだけを相手にやってみろ」
俺はもう嫌だったが、無理やり引っ立てられて三人の前に立たされる。
最初に動いたのはシンシアだった。
炎の玉を飛ばしてくる。
それを避けたと思ったら、逃げた先で地面から炎が吹き上がってきた。
何とかそれをかわすとニーナが左から、メリエルが右から同時になぎ払う。
重心の位置が悪かった俺は避けることも出来ず、その二本の木剣を受け止めた。
いくら網線で強化していても素手で受け止めたほうの手はめちゃくちゃ痛い。
俺は体素の濃度を限界まで上げて、三人の攻撃に集中する。
それにしても、まったく手加減なしというのがひどい。
特にシンシアの攻撃には殺意すら感じる。
まずはメリエルの愚直な振りおろしをバックステップでかわし、上から来るニーナの一撃を受け止める前に光魔で地面を吹き飛ばし、砂煙でシンシアの視界を奪った。
そのままニーナの一撃を受け止める。
シンシアが移動して砂煙から出てきたので、また地面から炎を出すよりも早く上に飛んだ。
しかし同時に風の魔法で吹き飛ばされて俺は宙を舞う。
俺はバランスを崩して地面に叩きつけられた。
「も、もうちょっと手加減をしてくれよ!」
「だめだ。手加減したら訓練にならない。それよりも魔法から避けるために気安く宙に飛ぶな。動きが変えられないから読まれやすくなる。眼でしっかりと魔法のタイミングを見極めれば、上に逃げる必要もないはずだ」
無茶なことを言う。
しかし、この特訓は俺が動けなくなるまで続いた。
途中で体力が尽きたメリエルがクリスティーナと変わり、魔力が尽きたシンシアはジュリアンと変わっている。
そうなるともう、俺は一方的にやられているだけになった。
こういう根性にものをいわせる様なやり方じゃなくて、もっと科学的な方法はないもんかなとつくづく思う。
最後は立つことも出来なくて、ニーナに背負われて家に帰ったんだぜ。
家に帰り風呂に入って飯を食ってから、シンシアとアンナを呼び出し、例の大砲かライフルを作る話をしてみた。
しかし二人の反応はあまりよろしくない。
まず筒を作り、その内部に加工をするなど出来るわけがないという意見だった。
「でも、その爆発を利用するなら、なにも打ち出さなくたって、ぶつかったら爆発するようにしておけばいいんじゃないの」
「そうですよ。槍の先に爆発するようなものを付けて投げるくらいでもいいんじゃないでしょうか」
「そんな危ないものを手で持って使うなんて考えられないわ」
「そうです。下手をしたら自分が死んでしまいます」
二人のさえない意見を聞きながら俺はいつの間にか眠りに落ちていた。
夜中に一度目を覚ましたが、二人はまだああでもないこうでもないとまだ話している。
その二人を残して俺は自分の部屋へと引き上げた。
結局は二人が言うように、危険を冒して近くから槍を投げるような方法に頼るしかないのかもしれない。
大砲で遠くから撃てば一番楽でいいんだけどな。




