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第4話 学園生活

 翌日からは普通の授業が始まった。

 教室は大学の講義室みたいなところだ。俺は大学に行ったことはないがね。


 いちばん手に負えなかったのが歴史の授業だった。

 なんたら3世となんたら4世がうんぬんかんぬん帝国のために立ち上がり世界を股にかけ活躍したとかそんな話だ。俺はさして重要とも思えずに覚える気にもならなかった。


 他にも礼節などの授業がある。

 ヨハンなどは教師も舌を巻くほどそつなくこなす。

 俺もあの物腰を身につけてみたいので必死に授業に参加する。


 他にも授業は魔道機の構造や生産関連などもある。

 それ以外のほとんどが魔法に関するものだった。

 この学園はどうやら魔法使いの職業訓練校のようである。


 そして今日も、最後の講義である算術の時間を俺は半分寝て過ごしていた。

 算術の授業はクリスティーナがもっとも苦手としている。


「値段の同じ魔法書5冊、と銀貨34枚のランプを一緒に買いました。支払いは銀貨284枚でした。でしょ。5冊が同じ値段ってことは……。あーー、さっぱりわからないわ」


 クリスティーナだけでなく、ヨハンやアンナも頭を悩ませている。

 信じられないことにこの問題を一時間かけて考えるというのである。

 もちろん彼らはきわめて真剣である。

 この世界にはアラビア数字のように便利なものはない。

 だから5X+34=284という式の概念はないのだ。


 高等数学をかじっている俺にはオママゴトにしか思えなかった。

 あまりにもくだらないので、昼寝を決め込んでいた。

 その不真面目な態度を教師に見咎められた。


「それでは、そこで寝ている君。答えはわかったのかな」


 それを見て、同じ部屋の4人が、やらかしたねという顔をしている。


「どうだね。寝るくらい余裕があったのなら、もう答えはわかったのだろうね」


 俺はしかたなく「銀貨50枚くらい……」と自信なさげにこたえた。


 教師が正解だと言うと教室中がどよめいた。

 すごい、天才だという声が聞こえてくる。


 さすがに恥ずかしさのあまり俺は赤面した。

 何で恥ずかしがる必要があるのかわからないが、ひたすら恥ずかしい。

 しかも考えを説明しろと言われて、前に出て講義の真似事までやらされた。


 そして授業が終わると、興味を持った生徒が俺に詰めかけてくる。

 恥ずかしかったので俺は「こんなことで騒がないでくれと」とその場から逃げようとした。

 その自分の口から出た、キザっぽい台詞にさらに恥ずかしくなる。


 部屋に帰っても三人から根掘り葉掘り聞かれることになった。

 共同生活にプライベートなどない。

 俺はよっぽどめんどくさかったので、異世界から来たんだと言いたかった。

 しかし異世界からの召喚は禁呪だというから、そんなことを言えばマーリン達に口封じのため殺されかねない。

 だから俺は三人からの質問を頑張ってかわし続けた。


「そんなに算術が得意なら私たちに教えなさいよ」


「いいけど、そのかわりに何かそっちも教えてくれよ。乗馬とか剣術とか何でもいいからさ」


「あきれた。あんた乗馬も剣術もできないのね。いいわ。じゃあこれからは毎晩寝る前に私が剣術を教えてあげる」


「じゃあ僕は朝に馬を教えるよ。専用の馬を連れてきているからね」


「それでは私は、カズヤさんの剣を作らせていただきましょう」


 それからは毎日が忙しくなった。

 寝る以外の時間は常に何かをしている。

 もちろん早く力をつけなくてはならない俺にはありがたい状況だ。


 剣術の修行は魔力を気に変換する儀式から始まった。

 いきなりクリスティーナに手を握られる。


「いい、それじゃ今から私が魔力を身体の属性に変えたものを送り込むわね。それを自分の中で上手く維持するのよ。ちょ、ちょっと、手を握り返さないでよ。気持ち悪い」


 そう言って、クリスティーナは手を引こうとする。

 俺は慌てて手から力を抜いた。


 そして気の受け渡しが始まった。

 俺は手の先に意識を集中させる。

 うめき声とともにクリスティーナの手が離れた。

 その瞬間、手の中に召魔が生まれたときのような感覚が現れた。

 その力を必死でたぐり寄せる。


 クリスティーナは地面に倒れ込んだ。

 俺は慌ててクリスティーナに手をさしのべる。


「あ、ありがとう。魔力の受け渡しはとっても効率が悪いの。だから、つい力を使いすぎてしまったわ。それで、身体の中に新しい感覚は生まれたの」


「ああ、今まで気がつかなかった力に、さっき気がついたような感覚だよ。もう自在に自分の中で力を生み出したり消したりできるようになってる」


「生み出せるだけじゃ意味ないの。それを使いこなすことが重要なのよ。まずはその力を消費しながら素振りをする練習ね。力を使い果たすまで振り続けなさい、私は疲れたから、もう部屋に戻るわ。いい、力尽きるまでちゃんと振り続けるのよ」


 俺は言われた通り振り続けた。

 その力は本当に気のようなもので、身体の表面からあふれ出す。

 そうすると、その間だけ身体的な能力が向上するのだ。


 俺は魔眼の力を発現し、自分の周りに溢れる気をなるべく一定になるように調整する。

 気の力を発散させていると、身体の中心に力のようなものが溜まりだした。

 集中して気の力を溜めると、爆発的な力を発揮できそうな気がした


 俺は力が極限まで溜まったところで、練習用の木剣を地面めがけて振り下ろす。

 ゴスッと手応えを感じた瞬間木剣は折れ、俺は勢い余って空中でくるくる回りながら地面にたたき付けられた。


 その瞬間、自分の中に感じていた力の塊は消えてしまっていた。

 急激にけだるさが全身を覆ってくる。

 俺は魔眼を引っ込めて、部屋に戻ることにした。


 部屋の前まで戻ってくると、ヨハンが壁にもたれかかり手持ち無沙汰にしていた。


「どうしたんだこんなところで」


「女性陣が入浴中でね」


「なるほど」


 てっきり入浴も人前でやってるくれるのかと、ちょっと期待していたが、どうやらそうではないらしい。


「カズヤはこの学園の地下にある迷宮の存在を知ってるかな。ここには小さいながら地下迷宮があるんだ。で、もうすぐ授業で地下迷宮の探索が始まるんだけど。同じ部屋のメンツを一つのパーティーとして地下迷宮に潜ることになるんだ」


「楽しそうだな。俺も魔物との戦いってやつをやってみたかったんだ」


「それは頼もしいね。だけどミスをすれば命を失うこともあるんだよ。地下迷宮は本当に危険なところだからね。ちゃんとした道がある訳じゃないから、足を滑らせただけでそれまで、なんてことも往々にしてあるしね。頼むから他のパーティーメンバーを危険にさらすような行動は慎んでよね」


「俺よりも、あの血に飢えた狂犬の方が敵味方の見境なしに突っ込んでいきそうじゃないか? まるで切れたナイフだぜ」


 そこで部屋の中から「聞こえてるわよ」とクリスティーナの声が聞こえた。

 俺の冗談に笑っていたヨハンは姿勢を正した。


「でもね、その前にカズヤは装備を買わなきゃならないね。そのためには前衛か中衛か後衛かを決めないと」


「俺はどちらかというと万能型を目指してるんだ」


 ヨハンはふふっと息を漏らした。


「前衛とか後衛というのは役割のことだよ。道を進む時に現れた敵を倒す役目の人が前衛。そしてたまに現れる上位の魔物に対し戦闘に加わるのが中衛。前衛は持続力のある器用な人が担当し、中衛は一撃が大きくてリーチのある人が担当するんだ。カズヤは別にどっちでも大丈夫だろうけど、一応決めておかないといざという時に困るからね。それと後衛には戦闘からの離脱ができるメンバーを一人は必ず入れておく必要があるね。たまに絶対にかなわないような魔物が出ることもあるから、そういう時に逃げ道を作る必要があるんだ」


「なんだよ。じゃあメインで戦うのは一人か二人なのか。俺はもうちょっと協力して倒すもんだと思ってたよ」


「そういうわけじゃないよ。もちろん後衛だって戦闘に加わることはあるし、攻撃をすることもある。だけどいざって時のために魔力をセーブしておく人は必要なんだ。それに戦闘からの離脱を任されたメンバーは優先的に守る必要があるしね。あと前衛とスイッチするための補充要員なんかも後衛に入るかな。そして後衛を守る護衛という役回りもあるね」


「なるほどな。だけど俺は戦闘以外の小難しい役回りは無理だなぁ」


「私が前衛をやるわ」


 部屋の扉が開いて寝間着姿のクリスティーナが現れた。

 その姿があまりにかわいくて俺はドキッとした。


「じゃ、じゃあ俺が中衛か?」


「そうだね。それじゃ僕は護衛をやろう。そしてルイスは離脱」


「かしこまりました」


「それでは私がスイッチ要員ですね」


「そうかあ、楽しみだなあ」


 俺は心臓が高鳴るのを隠そうと、部屋に入り大げさな仕草でベットの中に潜り込んだ。


「ちょっと、寝るならちゃんと着替えなさいよ」


 俺は「う~ん」と返事ともあくびともとれるうめき声を上げる。


 それまで何の前触れもなかった。

 それなのに、なぜかクリスティーナの薄着にドキドキさせられ、俺は酷く戸惑っていた。

 顔も見られないほど気持ちが高ぶっていた。


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