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第39話 新しい従士

 買い物の旅から戻ってきて、明けて翌日。

 まだヒリヒリするケツをさすりながら、俺は部屋のソファーに腰掛けた。


 今日は家に居るようにジュリアンから連絡が入っている。

 なんでも既に従士の面接を済ませて、今日連れてきてくれるのだそうだ。

 面接は俺がするつもりだったのに、既に二人選んでしまったという。


 なので今日はジュリアンが勝手に決めた従士との初顔合わせである。

 だから大変緊張しているわけだ。

 風俗に入ってなけなしの金を払い、指名した女の子を待ってるときこんな気持ちになるんだろう。

 いや俺は元の世界では風俗にいくような年齢ではなかったがな。


 ジュリアンが現れたのは、それから一時間ほどしてからだった。

 エリに案内されて入ってきたジュリアンを見たとき、俺の緊張はピークだった。


 すぐにジュリアンの後ろにいた女の子を盗み見る。

 かなり可愛らしい顔でひとまず安心した。


「この二人が俺の見立てではお前の従士に一番適している」


 呑気にそんなことを言い出したジュリアンに俺は耳打ちした。


「いや適してる適してないじゃなくて、俺は自分で選びたかったんだぞ」


「そうは言っても、お前が選ぶと顔や体型で決めるだろ。こういうのは誰かに任せたほうがいいんだ」


 正論だが俺には納得できない。


「それじゃそこに座って楽にしてくれ。俺から紹介しよう。カズヤもそっちに座れ」


 人の家なのに、なんで主よりもそれっぽいのだろうか。

 俺は仕方なくソファーに座った。


「まずはこちらのお嬢さんが城の剣術指南役の娘のメリエルだ。剣の腕は面接した中で一番だった。体力も申し分ないだろう」


「メリエルです。よろしくお願いします」


 そう言って、彼女は頭を軽く下げた。

 背は普通、肩までの黒髪に、真面目そうで穏やかな目をしている。

 なんといっても胸が大きいのがすばらしい。

 俺は何も文句がない。


「カズヤだ。よろしく」


 俺は立ち上がって握手した。


「そして奥のお嬢さんはシンシアだ。この歳で魔法大学を卒業している。魔法や迷宮に関する知識はとても深いものがある。応用魔法を研究していたそうだ。二人とも魔力は低いが、お前が儀式をしてやれば問題ない。どちらもお前の活躍を聞いて志願してくれたんだ」


「シンシアよ。よろしくね」


 彼女は立ちもしないで座ったままである。

 メリエルと違ってあまりやる気がないように感じられる。

 俺はその雰囲気に飲まれて何も言えなかった。

 身長が俺よりちょっと低いくらいある。

 長く腰まである黒髪が少し取っ付きにくい印象だ。


「それじゃ二人は今日からここで暮らしてくれ。部屋はさっきのメイドに案内してもらうといい」


 そう言って、ジュリアンは二人を部屋から出してしまった。

 俺はまだ納得したともなんとも言わないうちに全部決まったことになるらしい。


「どうだ、なかなか素質のいいのがそろっただろ」


「何も勝手に決めちまわなくてもいいだろ。俺にだって心の準備が必要なんだぞ」


「別にハーレムを作ってるわけじゃないんだ。変なのを選べば命にかかわるんだぞ。この際、お前の女の趣味は引っ込めとけ。それと買い物に行っていたと聞いたが、何かいい物は買えたか」


「たいした物はなかったけど、瞬間移動は使えるようになったぜ」


 俺は港町で買った合成召魔と移動魔法の話をした。


「あまり役に立ちそうにないな。それよりも魔竜の鱗に穴を開けるほうが俺たちにとっては重要な課題だぞ。俺もいろいろ調べてみたが、召魔や魔法ではなく物理的な力で穴を開ける必要があるようだ。魔力をエネルギーに変換したものでは、そのエネルギー自体が分解されてしまってダメージが通らない」


 魔法が駄目というのなら、何かをぶつけるしかないということだろうか。

 俺は元いた世界にあったボウガンや大砲の話を、それとわからないように話してみた。

 それを聞くとジュリアンは思案を始めた。


 できればライフルのようなものがあれば一発なんだけどな。

 大砲のようなものに円錐型の弾を使い、砲身の内部にライフリングを刻むようなことができればそれでもいいのかもしれない。

 それが無理でも、炸裂弾や手榴弾のようなものの方が、刀で切りつけるよりは物理的な破壊力は大きいはずだ。


 火薬を作ることが出来ればどれも可能のような気がする。

 特に回転した弾を撃ち出せるものなら、その貫通力は計り知れないものがある。


 もし火薬がないにしても、マーリンが俺をこの世界に呼び出したように、向こうの世界のものを召喚できればすべてが解決するのだが。


「今の話をシンシアにもしてみてくれ。彼女は魔法具の研究もしていたそうだから、俺よりもいい案が出せるかもしれない。俺は魔法戦術ばかりやってたから詳しくはないんだ。もしかしたら本当に俺たちだけで魔竜を倒すことが出来るかもしれない。お前の言う火薬というものがあればの話だがな。俺も知り合いの詳しそうなやつに当たってみよう」


「次の大規模侵攻はいつになるんだ?」


「もうじき雪が降る。その雪が解けたらすぐだ」


「この地方はどのくらい雪が降ってるんだよ」


「大体、1月半といったところかな。色々と凝った準備をするには少し足りない。もし倒す算段がつかなくても、その時には魔竜と戦わなけりゃならなくなる。あまり色々な事に手を出せば、何も身にならずにその時を迎えることになる。よく考えてから行動するんだな」


 それだけ言い残してジュリアンは帰っていった。

 確かに、あれもこれもとやっていては時間を無駄にするだけだろう。


 いずれにしろ網線と身体の属性だけはもう少し使えるようにしたほうがいい。

 俺はぼんやりと今日の午後は何して過ごそうかなあと考えた。

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