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第37話 買い物

「悪いけど、もうちょっとマシなのないかな」


 俺は店先で3回目になる言葉を吐いた。

 最初に訪れた店で、なんとしても売りたい店主に、かれこれ30分も粘られている。


 しかしこの店の品揃えは悪趣味としか言いようがない。

 ドジョウのようなものが口の中を這いまわって綺麗にしてくれるという召魔をいったい誰が買うというのだろうか。

 そんなものをしきりに勧められたって買う気が起きるわけがない。


 他に並べられているのも、そんな狂気しか感じないようなものばかりだ。

 しかし金を持っていると思われてしまったらしく、やたらと熱心に薦めてくる。


 そんな俺が断る口実を探していると、後ろからレオナルドに声をかけられた。


「今日の勇者殿は買い物ですかな。俺はてっきりハーレム作りにでも精を出してるのかと思ったが、違ったようだな」


 レオナルドも今日は街に遊びに来たのだろう。

 いつもよりラフな格好をしている。


 そのレオナルドの言葉に店主は活路を見出した。


「それならばこれなんてどうでしょう。ちょっと耳をお貸しください。これは体の中に活きのいい魚みたいなものを召喚するんですがね。その振動がまた、ご婦人たちには評判が良いんですよ。どうです、買って行きませんか」


 そんなものと契約するなんて冗談じゃない。

 誰が電動こけしを体の中に飼いたがるんだ。

 一度契約したら手術でもして種を取り除かない限り、一生ついてまわることになる。


「みみっちいなあ。騎士ってのはもっと気持ちのいい買い物をするもんだぜ。何を悩んでいるんだよ」


 この店の品揃えさえ知らないレオナルドは他人ごとのような言い分だった。


 俺はじゃあその2つをくださいと言って、言われたとおり銀貨2枚と銅貨50枚をその場で払った。

 するとレオナルドはまた野次を飛ばしてくる。


「騎士が銅貨なんか使えばみっともないぜ。金があるくせにケチな奴だな」


「そういうもんか。じゃあ銀貨をもう一枚払おう。それとほら、これはお前にやるよ。結構役に立ちそうだぜ」


「おっ、くれんのか。じゃあ有り難くもらっとくぜ。それより今日は娼館について来ないか。その後ろに引き連れてんのより、よっぽど女らしくていいのが揃ってるぜ」


 俺はいやいいとだけ言ってレオナルドと別れた。

 レオナルドは機嫌良く去っていった。

 本当に物を深く考えないやつだなと、俺は呆れる。


「相変わらず、あったまくるわね。何なのあの言い草」


 俺はいきり立つニーナをなだめながら次の店に向かった。

 次の店は街でも一番大きい魔法書店で、高位の魔法書もたくさん置かれていた。


 俺は字を読めないのでニーナに一つ一つ説明してもらう。


「これは物を召喚する魔法ね。位置が固定されていて、その場所をしっかりとイメージすることができるのなら呼び出すことができるわ。こっちのはそれの上位版で重さや大きさも関係なく召喚できるの。でも場所を間違うと自分が押しつぶされて死んじゃうわよ。あと、これは呼び出すものに魔法陣を書き込む必要があるわね。それも雨なんかで消えないように彫りつけるのがいいと聞いたわ」


「なるほど。両方あるだけ買っていこう。ジュリアンが言ってたオールミースの断崖ってのもこれのことなのかな」


「オールミースは実家の近くにあった景勝地よ。街でただ一つの観光名所なの」


 そんなものを気軽に呼び出すつもりだったのか。

 でも一枚岩の岩盤とかなら、そう簡単にあるもんじゃないよな。


「それじゃこっちは?」


「これは瞬間移動ね」


「マジかよ。絶対買おう」


「でも距離は3メートルから5メートルで、熟練の魔術師でも3回も使えば気絶するって話だけど」


「なんだよそれ、夢がないな。じゃあ一冊だけ買っとくか。これの上位はないのかな?」


「ここにはないみたいね。それより、この自然抵抗なんていいんじゃないの。熱や凍結から体を守ってくれるわ。14階層からは魔物も魔法を使うのよ。必要でしょ」


「作用時間は?」


「30分くらいかしらね」


「じゃあそれも買っとくか。クリスティーナは何か良さそうなの見つけたか」


「魔力移転でもあれば貴方には一番いいかと思って見てみたけど、置いて無かったわ」


 ここではこれ以外にも自然魔法をいくつか買った。

 とりあえず炎と氷結と風系はだいたい揃えることが出来た。

 なので次は装備を売っている店に向かう。


 店は魔法効果の付与されたものばかりを扱う高級店だった。

 そこで自然抵抗効果の高いクロークが売られていた。

 値段は金貨8000枚。


 上から羽織るものとしては最高級品ですよと、店員が説明してくれる。

 家が火事になっても火傷ひとつ負わずに普段通りの生活が送れるという。


 しかし高い。

 家が軽く立つような値段である。


 散々悩んだ末ではあるが、俺はこれを買ってしまった。

 最後は、これを着れば悪趣味な鎧を人から隠せるという思いが勝った。


 クリスティーナとニーナには、空中でのバランスを保持してくれる効果のあるケープを買った。

 ケープとは言っても余った部分を背中にかけるマフラーのようなものだ。

 他にも従士が増える予定なので余分に買い揃える。


 換え用のマントも数枚買っておいた。

 前に買った奴は13階層でボロボロにしてしまったので、今回はもう少しいいものを買った。


 鎧などはめぼしい物がなかったので、他の店で揃えることにした。


 俺は買ったものを仕舞おうと呼び出し箱を出した。

 しかし俺が買ったクロークはニーナがお気に入りらしく手放そうとしないので、しばらく着せておくことになった。


 次は召魔を売っている店だ。

 最初の店とは違い、品揃えの多い大型店である。


「なにかいいものはあるか?」


「氷魚と糸魔があるわ。あとこれは珍しいわね。網線っていう幻術の素が売ってるわ」


「網線ってのはどんなのだ」


「あのヨハンが使っていたやつよ」


「ああ、あの薄気味悪いマスクメロンみたいになるやつか。これ、ニーナも覚えられるかもしれないぜ。どうする?」


「えー、そんなのいらない」


 ニーナがいらないというので、これは俺が契約することにして買った。

 網線は身体の属性に近い効果を持っていて、しかも魔力の変換効率が高く防御効果もある。

 前は気持ち悪いと思ったが、よくよく考えて見れば悪くない性能だ。


 こんなものと契約できる人間がそうそう居るわけがないのに、値段は金貨6000枚だった。


 これでもう大きな店はあらかた見て回ったことになる。

 一日でこれだけ揃えられれば上出来だろう。


 俺たちはハミルトンでの買い物を終わりにして、馬車に乗り、次の街を目指して出発した。

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