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第35話 新しい住まい

 新しい家は10部屋以上もある豪邸だった。

 近所にあるナタリーの家よりも二回りほど大きい。

 しかも庭付き家具付きメイド付きである。


 メイドはマリとエリという少女だった。

 そんなバカなと思うかもしれないが、俺が覚えやすいように名前も変えたのだという。

 元の名前はどんなに聞いても教えてくれなかった。


 メイドさんが出来たらグフフなことをしようと想像ふくらませていたが、いかんせん二人は幼すぎた。

 俺の倫理観ではとても手を出していい年齢ではない。


「旦那も変なとこでお固いやね。膨らみさえありゃ結構使えるもんですぜ」


 引っ越しを手伝ってくれたゲスはそんなことを言っていたが、俺としては数年は待つ必要があった。


 この二人はどこで習ったのか、家事仕事は完璧だった。

 さすが皇帝からの贈り物である。

 顔だって、これほどの美少女を見つけるのは至難の業だろう。

 きっとお城で小さい頃から皇帝に仕えるために仕込まれてきたに違いない。


 旦那様のお部屋ですと紹介されたのは豪華なソファーの置かれた部屋だった。

 そして寝室は別にあった。


 照明はすべて結晶石から作られた魔法の火を灯している。


 足りないものといえば風呂くらいだろうか。

 しかしお湯を貯める足湯みたいなものはあるので、これを改造して大きくすればいけそうである。

 しかし水を頭からかぶるだけの生活に慣れてしまったので、これでも十分かもしれない。


 それにしても広い屋敷に1人というのは寂しい。


 クリスティーナはマリとエリを連れて買い出しに行っており、ニーナはちょろまかした召魔の種をジュリアンに鑑定してもらいに行っている。

 サンチョスは休暇すべてを娼館で過ごすと豪語して、引っ越しが終わるとすぐに行ってしまった。

 騎士団に金が入ったので特別の恩給をもらい、さらにはこないだの一件で俺からも金をせしめているのでサンチョスの懐は温かいのだ。


 俺も付いて行けばよかった。

 娼館というものを見てみるだけでも暇を持て余すよりマシである。


 明日から7日間の休暇で、それが始まってもいないのに俺には何もすることがなかった。


 俺は意味もなく屋敷の中を見て回った。

 マリとエリの部屋だろうと思われるベットが2つある部屋がひとつ。

 ニーナの荷物が置かれた部屋、クリスティーナの荷物が置かれた部屋、そして俺の寝室、どれも同じ作りなので見て回ってもとりたてて面白くは無い。

 厨房と食事をするための部屋もある。

 あとは俺の部屋だというリビングのような大きな部屋がひとつ、残りは空き部屋と物置だった。

 あとは玄関の脇に屋敷全体を温めるための暖炉がひとつ。

 この暖炉から離れた位置にある部屋は当然寒い。


 あらためて屋敷を見回してみて、俺も出生したものだなあとしみじみ考えた。

 最初は馬小屋みたいな家だった。

 それにしても、これだけ豪華だというのに便利さにおいて前にいた世界に何一つ及ばないというのも凄い。

 テレビもないので、暇になると人と話すこと以外に娯楽もないのだ。


 夕方になるとみんな帰ってきて賑やかになった。

 マリとエリは夕食の準備を始める。


「カズヤが見つけた召魔の中で一番大きなの選んだのに、穴を掘るのに使うやつだったわ。もうね、あたしは自分の運の無さが本当に嫌になったわよ」


「大抵は小さいもののほうが価値があるのよ」


「お兄ちゃんもそう言ってた。でもね、あたしは自分の直感を信じてこれを選んだの」


「でもそれが駄目だったんだろ。休みの間に買いに行けばいいじゃないか。金はあるんだし」


 もともと育った家が裕福だったので、二人はこの豪邸にもそれほどの驚きはない。

 もうちょっと喜んでくれるかと思ったが期待はずれだった。


 その後は5人で夕食を食べる。

 マリとエリは一緒に食べるつもりがなかったのだが、俺が一緒に食べるよう言った。


 食事が終わって、俺は風呂に入ることにした。

 風呂と言ってもお湯で体を洗うだけだ。

 風呂場にあった見慣れない器具を手に、どうやって使うものかと思案していたらマリとエリが入ってきた。

 二人とも裸である。


 あっけにとられて固まっている俺の体を二人は失礼しますと言って洗い始めた。

 二人は男の裸を見るのも、男に裸を見られるのも経験がないようで耳まで赤くして照れている。

 しかし二人に負けず劣らず俺も照れていた。


 結局、背徳的な空気の中、会話もないまま洗われてしまった。

 しかも隅々までな。


 あんな歳でも毛が生えているとは知らなかった。

 俺の感想はそれだけである。


 風呂からあがると寝室で横になった。

 しばらくすると湯上がりのクリスティーナとニーナがやってきたので一緒に寝た。


 翌日は買い物にでもう行こうと思ってたのに、それどころではなかった。

 貴族やら騎士団の団長やらがひっきりなしに俺に会いに来るのだ。


 多くは俺をスカウトしたいという要件だった。

 それでわかったことがある。

 貴族は金のことしか考えてないし、騎士団の団長は自分の保身のことしか考えていない。

 そんな奴らがひっきりなしに現れては、粘り強く交渉してくるのだからたまったものではない。

 金で釣ろうとしたり、女で釣ろうとしたり、男で釣ろうとしたり、良くまあ色々思いつくものだ。

 しかし俺はナタリーを師団長にするまでは今のところで頑張ると決めている。


 俺が必死に断り続けること半日、もう明日は居留守を決め込むかどこかに出掛けようと固く心に誓いながら最後の来訪者を迎えた。

 俺の部屋に通されてきたのは懐かしい顔だった。


「カズヤ! 会いたかったわ」


 いきなり大きな胸に押しつぶされる。

 俺は何が何やらわからずに混乱した。


 どうしてここにアンナがいるんだ!?


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