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第31話 嫌な予感

 今日は13階層に別れを告げる日だ。

 俺たちは荷物をまとめて14階層を目指す。


 俺とレオナルドとサンチョスの3人は何百メートルもある行列の一番最後を歩いていた。

 なぜかといえば重たい荷物を背負わされているからだ。

 奴隷も従士も誰一人まともに動ける奴はなく、一番元気だった俺たち3人が担いでいる。

 最初は例のアレのおかげで元気だったクリスティーナとニーナが背負うはずだったが、俺とレオナルドが変わったのだ。

 ジュリアンはそれほど疲れているようにも見えなかったが、副団長権限でサボりを決め込んでいる。


 それにしてもナタリーの様子が深刻だったのが気がかりだ。

 なんとかしてやりたいが、方法はひとつしか思い浮かばない。


「なあ、俺とナタリーが結婚するってのは難しいのか?」


「おいおい、勘弁してくれよ。今のを貴族にでも聞かれてたら、さすがの俺でも庇いきれないぜ。下手すりゃ不敬罪で牢獄行きだぞ。いいか、貴族ってのはな、俺たちのような庶民とは違うんだ。殺されたって文句は言えないんだぜ」


「旦那も困ったお人だね。おらっちなんか聞いてるだけで寿命が縮んでいけねえや。いくらなんでも無法が過ぎるってもんですよ。たしかにいい女ですけどね。それに命までかけるってのは感心しねえやね」


「そんなに、だいそれた事なのか……」


 俺は本当に心配から気になって聞いただけだ。


「普通、貴族なんてのは戦いに出ることすらない。騎士団のスポンサーになって、その分け前をかすめ取るのが仕事みたいなもんさ。ナタリーみたいなのは本当に特別だぜ。魔法やら何やらで投資してるから、かろうじて使い捨てにはされないってのが普通だ。だから分け前が絡んでくれば多少の無茶は当たり前に要求してくるぜ。そりゃ騎士団の団長にでもなれば話は別だがな。普通は騎士くらいじゃ手の届かない存在だよ」


「そうなのか。俺は騎士ってのも、てっきり身分が保証されてるもんだと思ってた」


「そりゃあ庶民の中では特別でさあ。貴族のスポンサーとお近づきになれりゃ、そこら辺の庶民とはわけが違うってもんですぜ」


「もしお前が貴族になれるとしたら、もう国を救うぐらいの手柄がなけりゃ駄目だ」


 俺はひどくがっかりした。

 さすがに今となっては口にも出せないが、俺の隊も独り立ちするためには後2人くらいはメンバーが必要だ。

 それをともすればナタリーにでもと考えていたのだ。

 だって美人だしさ。


「じゃあ帰ったら自分でメンバーを探すしかないなあ」


 俺のうかつな一言にレオナルドが後ずさる。


「お前……まさか……ナタリーを……お前のクソハーレムに……」


「い、いやいや、そんなわけないだろ。何言ってんだ。嫌だな」


「もしそんなことを人前で言ってみろ、伝説に残るぜ……」


「だ、だから違うって言ってるだろ。そんなこと考えるわけ無いって」


「旦那はたいしたタマだね」


「だから違うんだって。勘弁してくれよ」


「それにしてもお前がナタリーと結婚したいとはな。まあ、夢としちゃ悪くない夢だな。応援してもいいぜ」


 俺は結婚したいなんて一度も言ってない。

 まあ憧れないわけじゃないが。


「あれぇ、昔そんな話を、どっかで小耳に挟んことが……」


「そうだ。騎士が貴族になった話ならある。なんでもそいつは魔竜を討伐したらしい」


「討伐って、1人で倒したのか」


「え? ああ、違うって、この国じゃ最後の一撃を入れた奴が倒したってことになるのさ。そいつとその騎士団の手柄になるんだ。だから運の良い奴がいて、そいつが貴族になったのさ」


「その魔竜ってのは光魔じゃ倒せないのか?」


「駄目だな。殆ど効かないって話だぜ。残念ながら魔竜だけはそんなに甘いもんじゃない。魔法のたぐいは全て弾かれるそうだ」


「じゃあどうやって倒すんだよ」


「犠牲覚悟で剣で斬りつけるしかない。体の鱗を剥がせば魔法も効くらしいからな。もちろんそれも罠を用意しといて何とかってレベルの相手だ。いきなり出たら全滅だぜ。そのくらいヤバイって話だ」


「じゃあ、最後の一撃は光魔でも効くじゃないか。まんざら可能性がないってわけでもないな」


「ところがどっこい、俺たちの騎士団はまず間違いなく1人も生き残れない。優秀な騎士団から突撃することになる。そうなれば半分は全滅だから、俺たちは明らかに真ん中よりも順番が早い」


 俺はクリスティーナやニーナ、ナタリー、それに他の騎士団員が死ぬことを想像して血の気が引いた。


「それじゃ、そいつが出たら打つ手はないのか」


「もし魔竜が出たら天井にぶっ放せ。生き埋めにして逃げる時間を稼ぐんだ」


「ジュリアンがさ、14階層にいる魔獣よりも大きいのが、それよりも下にいるって言ってたろ。それって魔竜のことじゃないのか」


 レオナルドは少し嫌な顔をする。


「そうだ」


 ということは、近いうちに戦う可能性は十分にあるということではないか。


 俺は強くなろうと思った。

 いざという時、後悔だけはしたくない。

 クリスティーナたちが死ぬなんて考えるのも嫌だ。


「そう落ち込むな。ジュリアンが冗談で言ってたぜ。万に一つくらいの確率なら、お前は一人の犠牲も出さずに魔竜を倒せるかもしれないってな。俺には信じられないけど、確かにお前の持つ召魔の組み合わせはほぼ最強に近い。歴史上に例がないそうだ。頼むからコロッと死んじまうような真似だけはするなよ。まさかの、まさかも、もしかしたら、あるかもしれないしな」


「だけど俺には魔竜の鱗を剥がす力がないぜ」


「そんなのは第4騎士団の団長あたりが何とかしてくれるんじゃないのか。まだお迎えが来てなきゃだけどな」


 レオナルドは大声で笑った。


「なんだよ。冗談で言ってたのかよ」


「当たり前だろ。ここ数十年は魔竜を見たなんて話は聞いたこともないぜ。ジュリアンは居てもおかしくないと言ってるが、あいつにだって見えないものはわかりっこないだろ」


 そんなはずはない。

 ジュリアンは14階層に居る魔獣についても言い当てたのだ。

 ならばその下に魔竜に近い存在が居ると言ったのだから、そっちの方も信憑性はある。


 俺は強くなろうと本気で思った。

 しかしその為に何をしたらいいのかすらわかっていない。


 14階層の魔力の量はでたらめに濃い。

 俺はその魔力の量からやばいことが起こるのを本能的に感じていたのかもしれない。

 心のなかに湧いてくる騎士になんかなるんじゃなかったという後悔のようなものを俺は必死に押し殺した。

 それにしても嫌な予感というのはよく当たるものだよな。


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