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第29話 サンチョスの小遣い稼ぎ

 ナタリーが自分の恥ずかしい話をごまかすために、俺を一日中いびりぬいた日から数えて3日。

 俺達の探索ノルマがやっと終わった。

 これでも予定よりも2日ほど早く終わっている。


 そこから半日かけて中央に戻ってきたが、周りはまだどこも戻ってきていない様子で、キャンプ地まわりは閑散としていた。

 俺は立ち並ぶテントや荷馬車、ロバなどを見ているだけで安心感がこみ上げてきた。

 一週間近いモグラ生活は、気が狂いそうなほどだった。


 戻ってきて早々に、ナタリーは自分のテントに引っ込んで音沙汰がなくなった。

 心配になって覗いてみると無理に明るく振る舞おうとするので、仕方なくすぐに退散した。

 もう歩くのにも支えが必要なほど衰弱している。

 少しくらい休んだところで回復は望めそうにない。


 クリスティーナとニーナは食事係の女奴隷となにやら盛り上がっているし、リリーはナタリーに付きっきりだ。


 俺だけすることもなくぶらついていると、サンチョスが周りを気にしながら近寄ってきた。

 顔に浮かべた白々しい愛想笑いだけで俺をこれほど不安にさせる男はそういない。


「へへ、旦那、相変わらずお元気そうで」


 そういうサンチョスにも疲れたところは見えない。

 相当図太い体質なのだろう。


「ところでね、旦那、ちょいとばかりいい情報がありましてね。是非それでねぇ、ひとつ買っていただきたいわけなんですが、どんなもんでしょうね」


 どうやら俺達がモグラ生活をしてる間、小遣い稼ぎの算段を立てていたらしい。

 しかし、なかなか目端の利くところがあるので断る理由もなかった。


 それで、と言って話を促す。


「ええ、ちょっとばかり小耳に挟んだ情報がありましてね。なんつってもあの悪名高い第8騎士団、旦那も知ってるでしょう。あすこの奴隷が話してるのをたまたま聞いたんですがね、どうやら他んところ出し抜くような算段があるみたいな風なんですよ。なんせね、そつも頭の悪い男なんで、一向に要領を得ない話なんですが、次の階層あたりで、なにか仕掛けがあるような口ぶりでねぇ」


「ちょっとわかりにくい話だな。具体的なこところがないと、俺達だって手の打ちようがないぜ」


「ええ、それでね、あっしもそれとなく情報を拾い集めてみましてね。どうやらそれを全部ひっくるめて考えてみると、旦那らが考えてるようなのと、同じようなことをやらかそうとしてんじゃねえかって踏んだわけでさあね」


 驚いた。

 なんとも抜け目のない男だ。

 俺達がやろうとしていることまで知っているではないか。


「おいまさか、俺たちの作戦まで他に売ってるんじゃないだろうな」


「いやいやまさか! そんなことするわけ、ありゃしません。そんなことしたら自分の食い扶持だって潰しちまいまさあ。だってそうでしょう。今は旦那のとこでぬくぬくしてるってのに、またぞろ前んとこみてえな、酷えろくでなしに雇われた日にゃ、お天道様も拝めなくなっちまう。旦那も前んとこじゃあひでえ目にあってるじゃねえですか」


 うむ、言われてみれば確かにそうだ。

 ナタリーは奴隷にもいろいろ便宜を図っている。

 いくらなんでも、好き好んで殺されるかもしれないような所へ飛ばされるような危ない橋は渡らないだろう。

 奴隷だって結局は仕える騎士団に最も左右されるのだ。


「つまり、要は次の階層に手柄をあげられるような魔物が居ることを掴んでいて、それを自分たちだけで倒してしまおうと考えている、ってことだな」


「そうでさあね。あそこなら多少強引なことをしてでも手柄を横取りなんてのは朝飯前もいいとこでしょう。だって、あの第1騎士団の連中ですら、何度も煮え湯を飲まされてんだから、とても一筋縄で行くような連中じゃあねえやね。きっと、どえれえことを考えてますぜ」


 確かに、なかなかの情報だった。

 もし本当なら、何かしら手を打たなくてはならない。


 俺は何かに使うこともあるかと思って持ってきたが、使い道などあるわけがなく、チャラチャラうるさいだけだったポケットの中の小銭を全部サンチョスにくれてやった。


「うひゃ、こんなにくれるんですか。えれえこった。金貨まで入ってますぜ」


 どうやって掴んだのかは分からないが。

 第8騎士団も次の14階層に何らかの大物がいると当たりをつけているらしい。

 それならば次の階層に、まず間違いなく大物がいるのだろう。

 それで他の先を越そうとしているのなら、俺たちの作戦とも競合することになる。

 そうなってくると、作戦の成否にすら影響が出てくることになる。


 俺はそれからやきもきしながらジュリアンたちの帰りを待った。

 夕食には絞めたばかりの家畜の肉と焼きたてのパンが出たが、ろくすっぽ味わう余裕もない。


 もうそろそろ寝る時間というところで、やっとジュリアンたちの隊が戻ってきた。

 俺がサンチョスから聞いた話をすると、夕食も食べずにジュリアンはどこかへ行ってしまった。

 俺はもうそれですっかり安心してしまって、ぐっすりと睡眠を取ることが出来た。


 朝になるとレオナルドも青い顔でフラフラしながら戻ってきた。

 どうやら早く帰りたくて、寝ずに歩き通したらしい。


 俺が昨日の話をしようとすると、何も聞きたくないという態度で食べ物だけ掴んでテントに引っ込んでしまった。

 俺はすんなり諦める。

 別にレオナルドに話したところで何ができるとも思えない。


 サンチョスの話は全部ジュリアンに任せることにして、俺は召魔の種探しの散歩に出た。

 ジュリアンが帰ってきたら今までに見つけた奴も全部見てもらおう。

 ニーナはそれだけを生き甲斐にして頑張ってきたのだ。


 結局その日は夜になってもジュリアンは帰ってこなかった。

 俺は一掴みくらいの召魔の種を見つけた。


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