第23話 作戦会議
ジュリアンが一晩考えて建てた作戦はこうだ。
まず大物の魔獣が14階層か13階層にいるだろうと考えられる。
そしてそれを、もしどこかの騎士団が見つければ、そこから引き返し本部に連絡を入れる。
もちろん危険なので魔獣の近くからは、人が遠ざけられる。
そしたら作戦本部がなにか手を打つ前に、俺たちですみやかに倒してしまうというものだった。
作戦本部から各騎士団の団長に集合命令がかけられる前に倒さなくてはならない。
そうでなければそんな場所に近寄ったことを咎められてしまうからだ。
そうなる前に、手際よく倒す必要がある。
各騎士団の団長に連絡が入る前であれば、襲われたから仕方なく戦い倒したという言い訳も立ちやすい。
「第4騎士団には知り合いであるカズヤのところに話をしに来たところ、魔獣に襲われていたので協力して倒したということにしてもらう。しかし第4騎士団であっても団長以外は大きな魔獣と戦った経験があるとは思えない。だから彼らには主に周りの小物を相手にしてもらうことにする」
「ちょっとまってくれよ。第4騎士団だって、そんな簡単にそんな危なげな話を承諾するとは思えないぜ」
「そのことなら心配ない。俺が夜のうちに話をつけておいた。よって魔獣と戦うのは俺とカズヤとレオナルド、それにオーレグの4人でとなる」
「ニーナやクリスティーナは?」
「連れて行っても役には立たないだろう。二人共、魔力の総量はあるが、それを活かすための武器がない。お前が持ってるような召魔でもなければ、その魔力も宝の持ち腐れだ。だから今回はこの構成以外に頼れる者はいない」
「ずいぶんとやけっぱちな作戦だな。大物魔獣を4人で倒したなんて話、俺は聞いたことがないぜ。そっちの方の手はずはどうするんだ」
レオナルドもまだ本当に4人で倒せるような作戦があるとは信じていない口ぶりだった。
「それも昨日オーレグと話したが、俺達にできることは限られてる。まずオーレグが敵の気を引きつける。それを俺が糸魔で拘束し動きを止める。そこまでいったらカズヤはまず魔眼で敵の弱点を確認し、そのあと言葉通りの全力で光魔を撃ってくれ。レオナルドはカズヤが集中できるように周りの小物の相手をする」
「もし外したら?」
「俺がオールミースの断崖を呼び出して塞ぐから、逃げて仕切りなおしだ。オールミースの断崖は一枚しかない。一度目の作戦を失敗すれば次の作戦は離脱の手段もなくやらなければならなくなる。だから何としてでも一回目で成功させるんだ」
「全力で撃っちまったら、俺に逃げるような気力は残らないぜ」
「それなら俺が担いで走ってやる。お前ぐらい担いだところで何も変わらん」
「それで糸魔ってのはどんなものなんだ。本当にそんなもので動きを止められるのか」
「糸魔の粘糸が切れることはまずないだろう。魔力に反応してその粘着力もより強くなる。魔獣の大きさなら俺の魔力が足りなくて糸が足らないということも考えにくい。魔獣に切られたという話はまだ聞いたことがないから問題ないはずだ。だがもって10秒といったところだな。それよりも問題は、糸魔では完全に動きを止めることは出来ないということだ。糸が伸びるから相手にも多少の動く余地がある」
実演してみせようと言って、ジュリアンが指先から糸を放った。
スパイダーマンよろしく飛び出した糸は空中で広がり岩にひっついた。
スピードも十分早いので、これなら大丈夫だろうと思わせる。
「じゃあそっちはいいとしてオーレグの方は? ほんとうに引きつけておくなんて芸当が可能なのか」
「まあ、あの人に無理ならこの国に出来る奴なんて存在しないだろうぜ。なにせ剣の腕と身のこなしにおいては国一番だ。任せてみるしかない。だがそっちも俺は心配していない。あの隊長は昔、同じような魔物の相手をした経験がある。一番心配なのはお前だ。やれる自信はあるか」
俺は少し考えた。
体素もあるし、多少動いたところで狙いを外すというのは考えにくい。
小物に魔力を使わなくていいというのなら体素を全力で走らせたとしても、学園の中庭を消し飛ばしたくらいの威力は出せる。
問題はそれで洞窟が崩れ出したりしないかということ位だ。
「大丈夫だ。やれるぜ」
「なら、この作戦で行こう。そうなるとこれからは顔を売るよりもお前の魔力を温存しておくほうが重要だ。なるべく満タンの状態を保て。いざ作戦中に威力が足りなかったりすると困ったことになる」
「ちょっと待てよジュリアン、大物魔獣発見の報告をどうやって手に入れるのか忘れてないか」
「それはナタリーにやってもらう。彼女には本部の中に知り合いも多い。その中で召魔を使って情報を飛ばせるやつをこちらに抱き込んでもらう。もしその情報が入ったら、すべての作戦に優先して魔獣の居る洞窟の前に集合だ」
「でも13階層じゃ俺達がナタリーの近くいる保証はないぜ」
「そうだな。その時はニーナとクリスティーナにでも走ってもらうことにしよう。そういうこともあると伝えておいてくれ。その場でいちいち説明すると手間取ることもあるだろう」
「13階層ってのはなにか特別なのか」
「ああ、13階層は網目状に張り巡らされた通路の入り組む、まさに迷宮だ。一つ一つの通路が細い分、大物魔獣が居る可能性もそう高くはないと考えている。多分、出るとしたら14階層が一番確率が高いだろう。それよりも今日は移動だぜ。さすがにそろそろ俺たちも荷物を畳む準備を手伝った方がいい」
その言葉で俺達は解散した。
ナタリーは朝からいなかったので、たぶん中央本部でジュリアンに頼まれた仕事をしているのだろう。
俺はすぐにクリスティーナとニーナを手伝ってテントを畳んだ。
今日は13階層への移動しかないので戦う必要はない。
それも移動は最後尾で時間に余裕があったから話していたのだ。
「ろくでなしの亭主みたいね。いったいどこで油を売ってたのよ」
「ちょっと作戦会議をな」
「井戸端会議じゃないのかしら」
片付けを手伝わなかった俺にニーナとクリスティーナは酷い言いようだ。
そういえばこの作戦が始まってから二人の裸を見た記憶が無い。
テントが薄く、光を灯せばテントの中で何をやってるか丸見えになるので、ずっと我慢していたのだ。
俺も相当たまっている。
その辺も次の階層で何とかならないものだろうか。
手を繋いで寝るというのも悪くはないんだけどさあ。
俺も若いし、ねぇ?
ついでに言っておくと騎士団の他の連中は周りなど一向にお構いなしだ。
毎晩、盛りがついた犬みたいに盛り上がっている。
料理係をしているただ一人の女奴隷などは、そこいらじゅうで引っ張りだこだ。
ここ数日、自分のテントで寝られたことなどないだろう。
レオナルドやジュリアンのテントを行ったり来たりしているのをよく見る。
しかし彼女もまんざらではなさそうなので、相当の好きものに違いない。




