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第21話 助っ人

 昼食後、俺はレオナルドと共にジュリアンに呼び出された。


「午後は他の作戦チームの手伝いに行ってもらう。カズヤ、お前は第4騎士団から直々のご指名だ」


 詳しい話は分からないが、オーレグが俺に支援を要請しているらしい。

 オーレグのところなら顔見知りばかりで気が楽だ。


 俺はジュリアンに詳しい場所を聞いてすぐに向かった。

 無性に暴れたい気分だったのでクリスティーナたちは連れて行かないことにする。

 それに、あのオーレグが助けを求めるくらいなんだから危険に違いない。


 ジュリアンに教えられた場所に向かうと、腕に包帯を巻いたケンを見つけた。

 それにしてもおかしい。

 この階層にこいつらが苦戦するような相手なんていただろうか。


「やあ、カズヤ。助っ人に来てくれたんだね。隊長たちはこの先にいるよ」


 俺はケンの案内で、俺達が受け持ったものより大きい洞窟に入った。

 先ではオレーグたちが車座に座ってなにか話しているところだった。


「おお、来てくれたか。ちょっと手伝ってほしいことがあってな」


「はあ、でも四番隊が手こずる相手ってのはどんなです。俺に倒せますかね」


「なあに、若いのが持ってる魔法なら簡単じゃろ。ついてきてくれるか」


 俺はオーレグとシェンと共に更に先へと進んだ。


「ほら、見えるか。でかい火の玉みたいなのがたくさん浮いているだろう。あれを剣で倒すと溶岩が噴き出してきてどうにもならん。しかも無理に倒すと剣がなまくらになってだめだ。魔法か何かで倒す必要がある。そこでお前さんの出番ってわけだ。どういうわけかここにだけ、こんな厄介な魔物が湧いておる。なんとかならんか」


「まあ、なんとかなるでしょう。でも俺一人でやるんですか? 自分の従士たちを連れて来てないんでフォーメーションも組めませんが」


「なあに、この階層程度なら、そんな堅苦しいものはいらん。わしが付いていれば大丈夫だ」


 かなりいい加減な話だが、暴れたかった俺にはちょうどいい。

 今日は朝から何もしてないので体力が有り余っている。


 俺は深く考えもせず、さっそく小走りで敵へ向かった。


 まず光魔を手近な奴に一発放つ。

 赤黒い岩のかけらのようなものを振りまきながら、火の玉の親分ような敵は砕け散った。

 離れていても、倒した瞬間に熱気が感じられる。

 確かに近くで倒せばこの熱に巻き込まれて大変なことになるだろう。


 今の一撃で、俺を気が付いて襲ってきたコカを、俺は一刀のもと両断した。


 楽しい。


 せっかく迷宮暮らしまでしてるんだからこうでなくっちゃ。

 ナタリーやジュリアンは堅苦しくていけない。

 こんなもの、要は全部倒せばいいのだ。


 自由気ままにに暴れまわれるというのは実に気分がいい。

 俺はわざと敵に囲ませて、体に体素を巡らせた

 これだけ囲まれていても、敵の弱点やスキがよく見える。

 まず、右、左、と両断し、スキのない敵は光魔で貫く。

 どう動けば効率がいいのか、考えていたのはそれだけだ。


 小物は魔法で焼き払った。

 初級魔法とはいえ、それなりの魔力を注ぎ込めばそれなりの威力だ。


 3体の火の玉が射程に入った瞬間、体素の量を増やして、光魔に三回魔力を送り込んだ。

 俺の射程に入った火の玉はコンマ数秒で弾け飛ぶ。


 体素の興奮作用か、俺はペース配分も何も考えられなくなって暴れまわった。


 魔力の使いすぎで足元が少しふらつき始めるころ終点と思われる壁にぶち当たった。


 ふっと緊張感をゆるめた瞬間、上から火の玉が落ちてきて足元に転がる。


 こんな近くでは光魔を打つわけにもいかない。

 俺は強化した右足でその火の玉を蹴り飛ばした。


 ところが、その火の玉は俺が考えていたよりも100倍以上は固かった。

 しかも表面が溶岩石のようにゴツゴツしているのでムッチャクチャ痛い。


 俺はなけなしの気力で火の玉に光魔を放ったが、あまりの痛さに尻餅をついた。

 しかしオーレグたちの手前、これで泣き言を言っては格好がつかない。

 俺は体素で痛みを誤魔化して立ち上がった。


「終わったようじゃの。それにしても見事な戦いぶりじゃ。戦ってる時の集中力が違う。わしの隊の奴らもお前さんぐらい楽しんでやってくれればいいんだがな」


 俺は上の空で、ええと返した。

 この足で歩いて大丈夫だろうか。


「ほれ、お前さんの大好きな結晶石はわしが集めておいたぞ。それじゃ帰るとするか」


 俺はオーレグに渡された袋を背負い、平静を装って洞窟を出た。

 洞窟の外にでると一目散に自分たちのテントまで帰る。


 ニーナに回復魔法をかけてもらい、横になっているとガス欠で体素が維持できなくなり、じんじんする痛みが襲ってきた。

 その後、痛みに耐えかねて泣き言を言っているとジュリアンたちも帰ってきたので足を見てもらった。


「骨には別状はない。破片が突き刺さっているようだな」


 などと言ってジュリアンはいきなり短刀で俺の足をほじくり始めやがった!

 俺はたまらず叫び声を上げ暴れるが、それをレオナルドに馬鹿力で抑えこまれてしまった。

 ニーナまで俺の口の中に硬いパンを無理やり押し込んできたので、俺は抗議もできない。


 それからジュリアンの気が済むまで、俺は右足をほじくり返された。

 俺は暴れ疲れてぐったりし、しかも魔力の使いすぎで意識が朦朧となった。


 最後はジュリアンも、薬を塗って包帯を巻き、まともな治療を施してくれる。

 しかし俺はお礼も言わずに早々と毛布をかぶって横になった。

 未開人共の手荒な治療を受けては、もうそれ以上何もする気になれない。


 俺はニーナが膝枕してくれたので、そのまま太ももの感触のことだけを考えていた。

 途中ナタリーが夕食を持ってお見舞いに現れた時は少しだけ膝枕が気まずかったが、どうする気も起きない。

 ナタリーはまだ少しだけ疲れが残っているような感じだった。


 ナタリーが出て行くと、今度はクリスティーナが膝枕をしてくれた。

 そのままの体制で食べ物を口まで運んでくれる。

 この頃には痛みもだいぶ落ち着いてきて、俺は安らかな気持ちで眠りについた。


 驚いたことに、翌日には俺の怪我は跡形もなく治っていた。

 一晩寝たおかげで魔力が回復したのだろう。


 しかしそのせいで、レオナルドからはジュリアンとの仲を疑われ、ジュリアンからはレオナルドとの仲を疑われた。

 しかも嫉妬混じりにだぜ?

 いやいやケツから魔力を注入だとか、そんなことあるわけねえだろ!


 俺は無言でつばを吐き、二人から距離をとった。

 こいつらと話してると舌が汚れる。

 それどころか、魂まで汚されるような気がしてくるからたまったもんじゃない。


 ふざけやがって、こっちの奴らは本当に頭がおかしいんだ。


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