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第20話 ナタリー

 洞窟の本道は昨日のうちに終わらせていたので、糞まずい朝食をすませた俺達は3つの部隊に分かれて子道の捜索を始めた。

 俺はナタリー達と組むことになった。


 ナタリーは昨日の作戦では先頭に参加しなかったので、今日はじめて俺はその腕前を見ることになる。

 最初にナタリーが前衛をすることになった。

 リリーが中衛、ニーナが離脱、俺が後衛だ。


 ナタリーは細身の剣を持ち、軽量そうな鎧をつけている。

 その装備の軽さを活かし、敵の間を縫うように移動しながら剣で敵を切りつける。

 その瞬間、剣を通して電気を送り込んで見た目以上にダメージを与えている。

 剣だけでなく、左手で敵に触れたところからも同じように電気を流す。


 元の世界にあったゲームとは違い、魔力を電気に変換することは出来ても、それを飛ばすことは出来ない。

 だから直接敵に触れて流しこむのだ。

 ナタリーが敵に触れる度、バチバチと派手な音がした。


 戦いに電撃系の魔法を使うのは初めて見たが、それは攻撃力の低さを補うように使う物のようだ。


 運動量の多い戦い方のせいで、一時間もするとナタリーは息を弾ませ、青白い顔に玉の汗が浮かびはじめた。

 ナタリーはすぐにクリスティーナと前衛を変わった。


「クリスティーナ、今日は昨日よりも早く進めてくれ」


「いいけど、それはどのくらいのスピードってことなの」


 全力で、という俺に答えにクリスティーナはいいわよと軽く答える。

 そこから戦ってもいない俺が小走りになるようなペースで探索が進んだ。


 ナタリーはもともと体が弱いのか、このペースについてくるだけでも魔力を消費している。

 青白い顔に頬だけ赤く染めて、肩で息をしていた。

 迷宮内の空気は冷たく、吐き出す息が心なしか白い。


 二時間もしないうちに終端まで探索が終わった。


 あとは残り二組の探索が終われば俺達に割り振られた仕事は終わりだ。

 予定よりもまる1日以上早く終わった。


 時間を節約するため道を引き返しながら、昼食の干し肉とパンを食べた。

 干し肉は親の敵のように塩辛い。

 それにしてもこの拷問のような食事だけは何とかならないのだろうか。


 中央のテントの中で休んでいると、しばらくしてレオナルトとジュリアンが揃って戻ってきた。

 すぐにジュリアンはナタリーとともに本部テントへと行ってしまった。

 そしてレオナルドが俺のテントにやってくる。


「よう新入り。調子はどうだよ」


「今日はまだ朝から失業中だよ」


「何だ、先頭に立たせてもらえなかったのか。そいつは残念だな。それでナタリーの様子はどうだった」


「だいぶ疲れてるんじゃないのかな。戦いの方はそつなくやってたけど、どっか具合でも悪いんじゃないのか。顔色が良くなかったぜ」


「それはいつものことだ。ナタリーは昔から体が丈夫な方じゃないから、迷宮に入れば魔力の消費も大きくて大変だろう」


「ずいぶん気楽な返事だな。ナタリーが魔力を使ったのなんて今日が初めてだろ。今日まで何を消費することがあったんだ。だいぶ疲れが出てるように見えたぞ」


「本当に何も知らねえ新入りだな。迷宮ってのは、そこに居るだけでも強い魔力にあてられて消耗するんだよ。下に行けばいくほどそれはキツくなる。繊細な人間ほどその効果は致命的だ。お前のように鈍けりゃ、まだ何も感じないんだろうけどな」


 こんな鈍さの権化のような男に太鼓判を押されるほど、俺は平気な質なのだろうか。


「レオナルドも多少は消耗してんのか」


「ああ、それなりにな。それにしてもお前は何で上にいた時よりも元気なんだろうな。ちょっとおかしいんじゃないのか」


 たしかに俺はいつもより調子がいいくらいだ。

 たぶん異世界から来たとこが関係しているのだろうと、この時ではそれくらいにしか考えなかった。


「だいたい普通はどのくらいの階層まで行けば目に見えてその症状が出てくるもんなんだ?」


「中層と呼ばれてる15階層くらいまで行けば、周りが目に見えて衰弱するのがわかるぜ。ナタリーはそのくらいでかなりキツいだろうな。弱い質なら12階層くらいでも歩けないほど衰弱することもある。どこの騎士団も15階層より下に行くときは何人か連れて行けなくなる」


「でも今いるのが12階層だろ。結構ここまでは簡単に来たじゃないか」


「本当に無知なんだな。迷宮ってのは下に行けばいくほど階層の面積が倍々で増えていくんだ。そんなの常識だぜ。13階層でもここより倍はきつくなる。毎回、15か16くらいで帰ることになるんだ。本当は15階層あたりで帰るべきなんだがな。まあ部下に手柄を立てさせたい貴族共と、やたら手柄を欲しがる第8騎士団あたりが無茶を言って、限界の体を引きずって16階層あたりを連れまわされることになるんだ。今回もきっとそうだろうぜ」


「でもカズヤにとっては周りが疲れてきた頃が一番のチャンスよね。魔力の量が多ければそれだけ体力を残しておけるもの」


 それまで黙って聞いているだけだったクリスティーナが言った。


「どうだかな。こいつだって、その頃にはボロボロで口も聞けなくなってるかもしれないぜ」


「そんなことないわ。カズヤならきっと大丈夫よ」


 と、ニーナが言った。


「どうやら女どもはお前に期待してるらしいな。色男も大変だ。その点、男なら気が楽だぜ。今度、俺がお前の体を試してやってもいいぞ。口じゃ嫌だと言ってても一回でやみつきになるやつも多いんだぜ」


 馬鹿な話が始まりそうだったので、俺はそれ以上何も言わなかった。

 そんなことをしているうちにジュリアンたちが戻ってくる。


 そして俺は新たな任務を与えられることになった。

 こんなところでで暇を持て余していてもつまらないのでありがたい。


 それにしても、しばらく休むと言ってテントに引っ込んでしまったナタリーのことが少し気がかりだった。

 本当に魔力にあてられて疲れているだけなら問題はないのだが。


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