第19話 洞窟探索
洞窟内は少し進むごとに敵が現れる。
横からはポツポツとしか来ないので、横をまかされてる隊の負担はそれほどでもない。
しかし安全を確保するために中型以上にはそれなりの魔力を割かなくてはならなかった。
二時間ほどでジュリアンはひたいに汗を浮かべ息を切らし始めた。
それを見たナタリーの命令で、今度はレオナルドが替わりに先頭に立った。
これは二時間で交代するほどのハイペースで進んでいることになる。
何でそんな追い立てられるように前に進むのかわからない俺に、ジュリアンはこう説明した。
「作戦中はなるべく迅速に目標を達成するべきなんだ。集中力なんてのは、そんなに長く続くもんじゃない。ちんたらやっていれば緊張感がなくなり思わぬ事故につながりやすい」
俺はなるほどと納得した。
「なるほど、こいつはいい剣かもな。この切れ味は初めてだぜ」
先頭をまかされていたレオナルドが刀をかかげて叫ぶ。
どうやら新しい武器にも少しは慣れてくれたようだ。
あまり魔法を使わないレオナルドにこそ刀は合っているのかもしれない。
力任せに敵を叩き切るので、並みの剣ではすぐに替えが必要になるだろう。
レオナルドに変わってから三時間が経つ頃、俺達は歩きながら昼飯を食べた。
サンドイッチと水で薄めたワインだ。
俺が食べ終わる頃、レオナルドが音を上げた。
「俺もいい加減腹が減ったから、先頭を交代してくれ」
本当はかなり疲れが見えているが、やせ我慢からかそんなことを言う。
俺はニーナを指名して先頭に立った。
そろそろ疲れの色が見えていたクリスティーナはアンナのそばで休ませることにした。
俺が先頭に立って最初に現れたのはコカ5匹だった。
来る方向はわかっていたので、姿が見えると同時に光を放ち2匹を一度に焼き落とした。
残った3匹の内、1匹はニーナに氷の魔法をぶつけられてそっちに向きを変える。
俺は正面に残った2匹を、強化した体で脇を走り抜けざまに、体を回転させながら刀で頭を跳ね飛ばした。
その斬りかかる瞬間には、ヨハンにもらった体素の力も使っている。
幻術はコストが重いので、一瞬だけ発動させられるように練習してある。
これを発動させると周りの動きがゆっくりになり、いつもの何倍も正確で速い動きが出来る様になる。
そこからも先頭に立って戦いを続けたが、ニーナとの相性は抜群で戦うことが楽しかった。
お陰で、ついつい夢中になってしまい、気がつけば5時間以上も時が過ぎていた。
そしてとうとう洞窟の終わりにぶつかる。
そこでしばらく休憩ということになった。
まだ子道の捜索が残っていたが、ナタリーは今日はこれまでと言った。
それで来た道を引き返すことになる。
中央に戻ってくると、すぐにナタリーのテントに呼び出され騎士だけの会議が開かれた。
「今日はご苦労様でした。それでは少しだけ反省会をしましょう。と、その前にカズヤ、あなたはやっぱり凄かったわ。国で一番の怪力と言われたレオナルド、有史以来最高の天才と言われたジュリアンも、あなたの活躍の前では形無しよ」
「いやいやそんなこともないでしょう。俺はまだ国一番の力持ちのままですよ。まあ騎士として何とか合格点をやれるくらいの働きはあったかもしれませんがね」
「魔力の量が多いだけで、使い方は無策もいいところです。なにせ火の玉を投げることしか知らない未開人の様な戦い方です。あれでまともに戦えているのは召魔のおかげでしょう」
「あら、そうかしら。いつもなら2日はかかる道のりをたった1日で終えてしまったのよ。お二人は、もっと素直に彼の力を認めなくてはならないのではないですか」
ナタリーが俺をえらく褒めたので、レオナルドとジュリアンは揃って抗議の言葉を並べたてる。
特にレオナルドの焦り様は見ていて気分がいい。
「確かに素質だけは素晴らしい物を持っているかもしれません。しかし本当に学園が、卒業を許したとは思えないほど魔法に関する知識が滅茶苦茶です。一体どうして、こんなにもアンバランスな人間が出来たのか理解に苦しみます」
ジュリアンは本当に不思議そうに俺を見ている。
俺は自分の魔法の使い方のどこに問題があるのかよくわからない。
確かに学園の方は適当に過ごして、最後は勝手に辞めてしまっている。
「そうです。剣もただ反射神経に任せて振っているだけで、剣術の基礎が出来ていません。まだまだ新入りだから、そんなに甘やかしたらつけあがりますよ。大体、身体の魔力をあれだけ垂れ流しておいて、どうして今だにピンピンしてるのか不思議でならない。お前の魔力測定器の結果はいくつだったんだ」
「3周半だぜ」
「3周半? 3週半ってどのくらいだ、ジュリアン」
「420位だな。俺ですら200も行かないってのに。それにこいつの恐ろしいところはまだまだ伸びしろがあるってことだ。この若さでこれなら、死にさえしなければ後世に名前が残るだろうぜ」
「ほらね、凄いじゃありませんか。同じ騎士団の一員なんだから、皆でカズヤの力を認めなければいけませんよ」
「言われてるぜ」
俺は得意になって二人に胸を張ってみせた。
「まあ確かに、大したもんだな。改めて、この騎士団に入ったことを歓迎するぜ、新入り」
俺とレイナルドはガッチリと握手した。
騎士という気風のせいか、レオナルドはサバサバした付き合いやすい性格をしている。
ところがジュリアンはそう一筋縄にはいかない。
「それにしても火炎の玉を投げるみたいに飛ばすのはどういうつもりなんだ。炎の持つ熱気というのは上に向かってあがっていくものだ。あんな風に使ったら半分も効果が無い。次からはもっと地面をはわせるように広げることを心がけろ。それ以外にも、移動が脅威になるような敵でもないのに地面を凍らせたり、無駄遣いが過ぎる。後でみっちり基礎を叩き込んでやるからな」
「まあまあ、そんなことは後でもいいでしょう。なにせカズヤは今日が初めての作戦参加だったのですよ。十分です」
「本当にあれで初めてだって言うから、ぶったまげるぜ。剣はあの女奴隷にでも習うんだな。あれは相当筋がいいぜ」
「ニーナに教わってもいいだろう。それにしても騎士が奴隷や従士に教えを請うなんて話は聞いたことがないがな」
そんなことなら俺は何のこだわりもないので、あとで教えてもらうことにする。
「これだけのメンツがいきなり揃ったとなると、あの話もそろそろ実行に移す時かもな」
レオナルドが急に神妙な面持ちになって言った。
その話になら俺も心当たりがある。
「あのナタリーを師団長にする話か」
「そうだ。だがいきなり師団長を目指すわけじゃない。まずは第4騎士団以上の活躍を見せて、もうちょっと前線に近い任務を受けられるようにすることだな。今日みたいな端っこの掃除とかじゃ手柄はあげられない」
「でもさ、騎士団の中で一番力を持ってるのは第四騎士団なわけだろ。あそこの隊長はなかなか話がわかる人に見えたけどな」
「問題なのはそこじゃない。第8騎士団と皇帝の周りにいる参謀気取りの貴族共だ。うまい具合に第一騎士団の馬鹿どもが自滅してくれたおかげで、俺達にとってはまたとないチャンスがめぐってきたことになる。動き始めるにはいい時期だ」
「ジュリアン。カズヤの前ですよ」
「いや、俺は別に構わないですよ」
2回くらいしか会ったこともない奴らだ。
しかも俺に散々ひどいことしてくれた。
むしろ俺が率先して文句を言いたいくらいだ。
「じゃあまずは手始めに俺たちが力をつけたことを知らしめる必要があるな。それもわかりやすく」
「具体的には?」
「与えられた仕事を手早く終わらせるってことだ。多少無理をしてもな。周りが手堅くやってる中、そうやって余裕があると見せておくことで、のちのち重要な役割が回ってくるようになる」
この話をもって俺達は反省会をお開きにした。
みな寝るための準備を始める。
なんだかこんな共同生活をしていると、本当にみんなの仲間になったようで俺は楽しかった。
明日も頑張るぞという意気込みを新たに、俺は床についた。




