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第16話 ニーナ

 ニーナは実に不思議だ。

 朝は、そこら辺のニワトリよりも早く飛び起きてランニングをしてみたり、ひどい偏食家のくせに出されたものは何でも食べたりする。

 放っておけば町で売ってる甘いパンのようなものを朝昼晩に食べている。

 それに俺がクリスティーナにちょっかい出していれば、興味深そうに寄ってくるのに、少しでも触ろうものなら無言で距離をとられてしまう。


 俺は何とかその距離を縮めたくて、朝まだ寝ているニーナに後ろから抱きついた。

 そのまま張りのある胸をまさぐっているとニーナが目を覚ました。


「ちょっとカズヤ、なんかあたってる」


 と、ニーナがちょっと緊張した声で言った。


「う~ん」


 俺は寝言だかなんだかわからないような返事を返す。

 そのまま触れていた手でニーナの胸を揉んだ。

 ピクッと反応はしたが、くすぐったがってるだけの様でもある。


 ニーナが起き上がろうとしたので手を緩めると、くるりと回転して俺にキスをしてきた。

 いきなり舌が入ってくる。

 キスはこれが初めてなのにすごく情熱的だった。


 すっとニーナの顔が離れる。

 そして俺から目をそらすと、ビクッと震えて飛び起き、下へ降りていってしまった。

 俺が隣に目を移すと、クリスティーナと目が合った。

 気まずかったので、俺は何も言わずに二度寝をするふりをした。

 やっぱりもうちょっと広い家を借りたい。

 いくらなんでも気まずい。

 そんなことを考えていたら、俺はそのまま本当に寝てしまった。



 日も高くなる頃に起きだして、桶に汲んであった水で顔を洗った。

 もう水浴びができるような季節ではなくなっている。

 家の中も少し肌寒い。


 俺は暖炉に火をつけてソファーの上で横になった。

 ガラスが貴重品なので窓もない家の中では、暖炉の火がいい照明代わりになる。

 ローソクを立てる小さなシャンデリアのようなものはあるが、数時間毎にロウーソクを取り替えるのが面倒で、俺はいつも魔法で照らしている。

 しかし暖炉の火があればその必要もなかった。


 俺がソファーの上でくつろいでいると、その上にクリスティーナが乗ってきた。

 暖かくて張りのある、やわらかい尻が俺の下腹部の上に乗った。

 そのまま胸に手を回して抱き寄せキスをする。

 こんなことをしていると、なんだか今まで感じたことのない幸せを感じた。

 最近では異世界に来てよかったと本気で思うようになっていた。


「そんな美人に良くしてもらえるなんて、カズヤはついてるわよ」


「そんなことないだろ。胸だってこれしかないんだぜ」


 俺はニーナにも見えるようにクリスティーナの胸をつかむ。

 クリスティーナはすぐに俺の手を振り払い、俺の上でくるりとこっちに向き直った。


「今なんて言った?」


「わっ、怖い顔。せっかくだからニーナにも見てもらいなよ」


 俺はクリスティーナの顔を手で挟んで、ニーナのほうへ無理やり向ける。

 それを見てニーナがケラケラと笑った。

 クリスティーナは俺をコツンとやって離れてしまった。


「せっかく心地よかったのに、戻ってこいって」


「意地悪する人の近くには行きません」


 そう言って、クリスティーナは装備の手入れを始める。


「じゃあ代わりにニーナが来るか」


 俺がそういうと、ニーナは少しためらってから、俺の上に乗った。

 お尻も胸もニーナのほうが大きいので、クリスティーナよりも吸い付くような心地のいい重さがある。

 それに比べるとクリスティーナは栄養失調じゃないかというくらい軽い。


 俺はゆっくりとニーナのふくらみに手を回した。

 すぐにふくらみの先で硬い感触が現れる。


 なんだか廃退的すぎる気もしたが、普段から命がけで戦っていることを思えば、このくらいでちょうどいいような気もしている。

 迷宮に入る以上、いつだって死んだっておかしくはない。

 それとも、そんな刹那的な生き方は悔い改めるべきなのだろうか。

 俺は結論を出せないまま、子供をあやすみたいにニーナを抱えて午前中を過ごした。



 午後になって、また町に出た。

 今日は国全体が休日なのか、町はいつもより賑わっていた。

 町に出るとやはり魔法関係のものが俺にとっては面白い。

 さまざまな魔法効果のついた日用品から武器防具まで本当にいろいろある。

 ニーナやクリスティーナに説明してもらいながら、それらを見て回るのはとても楽しかった。


 この頃になると俺はこの国の景色や文化を楽しめるようになっていた。

 それにつれて、もとの世界との違いも目に付くようになっている。


 こっちでは魔法さえ使えれば金にはそうそう困らない。

 そして金さえあれば、それなりに快適な生活を送ることも不可能ではない。

 奴隷や魔法など元の世界にはなかった便利なものもこちらにはあるからだ。

 奴隷を便利の一言で済ませていいかは思うところがあるけどな。


 しかし、もとの世界では考えられなかった大変さもある。

 洗濯や料理、掃除や照明用のロウソクの取替えなどの家事仕事だ。

 どれも完璧にやろうとすれば一日仕事になる。


 こっちではそういった家事は奴隷に任せるのが一般的だった。

 だから俺のように家事専用の奴隷がいない場合は、かなりの時間を家事仕事に取られることになる。

 たぶんレオナルドやジュリアンは騎士団の本部に泊まりこんでいる理由はそんなところにあるのだろう。

 こっちでは奴隷なしで男の一人暮らしなど不可能に近いのだ。


 こっちの常識に合わせるのなら、俺はもう少し広い家に住んで、家事のための奴隷を買わなくてはならない。

 そういうこっちでの当たり前を知らないと、生活に出る支障が半端ではない。

 すでにクリスティーナたちにはだいぶ負担をかけてしまっている。


 それ以外にもとの世界と違うのは、変性の魔法があるため、文明の割りにかなり精度の高い製品が多いということだろう。

 ランタンなど元の世界にあるような精巧な作りをしたものが売られている。

 しかし、どれも高価で庶民は魔法かオイルで明かりを得るのが一般的なようだった。


 あと意外なことに魔法の普及率の高さがある。

 農民までも召魔を使って畑を耕したりしているのだ。

 まあ収穫は手作業になるだろうから、それほど生産効率は高くないだろう。

 しかし畑を耕したり水をまいたりするのには召魔や自然要素魔法などが使われている。


 それと同じように商人などは時空属性などをうまく商売に生かしていた。

 そのあたり属性によってうまく住み分けられているのだ。


 それにしても、こっちの世界で本気できついものが一つだけある。

 食べ物だ。

 冷蔵庫に似たようなものはあるが、一般の家にはまずないものなので、こっちで売られている食べ物はほとんど保存食のようなものしかないのだ。

 パンはやたら固くて塩辛いし、肉も塩まみれでカチコチになったようなものしか売ってない。

 そして外食できるような場所は酒場くらいしかなく、クリスティーナたちが嫌がるので入りにくい。

 騎士団本部で食べる焼き立てのパンに比べると、家で食べるパンなど板切れに等しい味しかしない。


「やっぱり奴隷を一人、二人買わないと色々大変だよな」


「そうね。騎士なら二人ぐらい雇うのは普通よ」


「どうしてカズマは騎士団本部に泊まらないのよ。お兄ちゃんたちは本部が楽でいいって言ってたわよ」


「あんなところに居たら3日で廃人になる自信があるよ。やっぱりもうちょっと大きな家を借りる必要があるのかあ。今度の大進攻で稼がなきゃなんないな。だけどナタリーにも金貨3000枚分の借金があるんだよなあ」


 それまで親元で金の心配などなくぬくぬく育ってきた俺には非常にわずらわしい問題だった。


「大進攻が終わったら3度目の引越しになるのかしら。でも先立つものが必要よね」


「そうだな。ニーナもがんばって稼いでくれよ」


「なんだか所帯じみた話ね。あたしは騎士にはもうちょっと優雅なイメージがあったのに、カズヤのせいでドン詰まりの商人みたいな気分になってくるわ。それにあたしの魔法が迷宮内の魔物に通じるかはまだわからないわよ」


「それなら心配要する必要はないわね。カズヤに力をもらえば普通以上には戦えるようになるはずよ」


「それには期待しているけど……、だけどカズヤがどのくらい魔法を使えるのか、どうも怪しいのよねえ。カズヤってそんな特別に魔法が使えそうな感じはないもの」


「そんなの見た目でわかるもんじゃないだろ。俺のあまりの偉大さにそのうち驚くことになるぜ」


「そうなのよ。見た目はこんなでも、カズヤは多分この国で1,2を争うくらいの素質があるんじゃないかしら」


「うそでしょ。初級魔法も覚えかけなのに、とても信じられないわ。でも、お兄ちゃんもカズヤのことは期待の新人だって言ってたわね。人は見かけによらないってこと……なのかな」


 それは初耳だった。

 ジュリアンなど、いつも俺のことを物を知らないだの守銭奴だの言っているだけだ。

 しかし多少なりとも期待してなかったら妹を預けたりはしない……のか?


「あとで俺のこと見直して、惚れても知らないぜ」


「もう惚れてるわね」


 と言って、ニーナは顔を赤らめた。

 その顔はびっくりするくらい可愛かった。

 そして、その真っすぐな発言に、俺は心臓が止まるかと思うくらい驚いていた。


「ま、まあ当然だよな」


『顔が赤いわよ』


 二人は声をハモらせて、俺の必死な強がりを暴いた。

 こんなことになれてない俺は、狼狽を隠すことができない。


 はっきりとものが言えるニーナの前で、俺はなんだか自分が情けなく思えてくる。

 どうも俺には物事を茶化してしまう悪癖がある。


 俺はなんだかニーナに対して印象が変わりつつあるのを感じていた。


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