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第13話 最初の従士

 俺は給料が出たので、その使い道を考えることにした。

 本当かどうかは知らないがナタリーは金を受け取る気がないらしいので、とりあえずそれは後回しにすることにした。


 まずはちゃんとした家が欲しい。

 今の小屋はすきま風が酷くって、夜になると凍えるほど寒くなる。

 あとはとりあえず家具などだろうか。


 魔法書などはまだ買えそうにない。

 後はクリスティーナの馬くらいだろうか。

 しかし馬を置いておくところがない。

 装備などは今あるもので不満は感じていなかった。


 そこで俺は家を買うことに決める。

 不動産屋のようなものはないので、代わりに役所のような所にいってある物件を聞いてみた。


「騎士様が住むような物件というと、城から徒歩5分の所に邸宅が一件あります」


「いくらだ」


「月に金貨200といったところでしょうかね。部屋数は5でリビングに井戸までついてます」


「もうちょっと安いところがいいな」


「それでしたら月に金貨80枚で徒歩5分、井戸付きの二階建てなんてどうでしょう」


「悪くないな。見せてくれるか」


 俺が案内されて行ってみると、一応煉瓦造りで、2メートルそこそこの庭がついた一戸建てがあった。

 細かい部屋の区切りなどなく一階に一部屋と二階に一部屋だ。

 部屋を暖めるための暖炉が一階にある。

 馬小屋はないが、騎士団本部にあるのを借りればいいだろう。

 それ以外にも金貨50枚と20枚の家を見せてもらったが、どちらも木造で風が吹けばギシギシうるさいような家だった。

 現代っ子の俺には耐えられそうもないので、煉瓦造りの家を借りることにした。


 金を払い、鍵を受け取ってから、生活に必要なものを買いそろえる。

 備え付けのベッドが二つ二階にあったので、それをくっつけてダブルベッドにする予定だ。

 それ用の布団と毛布を買い、まもなくやってくる冬に備えて薪を買って届けてくれるように頼む。

 布団といってもわらの詰まった布袋でたいして柔らかくはない。

 ソファーと椅子と、低めのテーブルも買った。

 それ以外にもかまどがあったので鍋をいくつかと食器類をそろえた。

 あとは体を洗うための桶やらタオルやらを買った。

 そしてクリスティーナなのアドバイスで、RPGに出てくる宝箱のようなタンスをいくつか買う。

 これで金貨50枚以上なくなってしまった。


 日も落ちて完全な暗闇が訪れる頃、新しい家に帰った。


 湯を沸かして今日買ってきたばかりのお茶を入れて、パンをかじった。

 恐ろしく質素な夕食だがクリスティーナと一緒なので悪くはない。

 明日はちょっと高いが肉も買ってこようと思う。


 その後、沸かしたお湯でお互いの体を拭いてからベッドの上で十分に楽しんだ。

 その日はクリスティーナの細い体を抱きしめながら眠りについた。

 騎士団の宿舎に比べれば天国のような住み心地だった。




 次の日は先に起きていたクリスティーナがお湯を沸かして俺の起きるのを待っていてくれた。

 そのお湯で顔を洗って歯を磨き家を出た。

 夜の9時ごろ寝て、朝の5時くらいに起きるのがこっちでの一日だ。


 騎士団本部に行き、みんなと一緒に朝ご飯を食べる。

 一応みんなは従士として扱ってくれるのでクリスティーナの分も出る。


 午前中はまた迷宮に入る。

 ジュリアンからは第5区画までの入場許可をもらっていた。

 今日は何故か手放しで好きにしていいとまでの言質をもらっている。


 そして5階層付近でムカデや蜘蛛の化け物と戦う。

 どちらも毒はないと聞いているので剣で倒した。

 あまり手応えがないので訓練になっているか怪しいものだ。


 その日は金貨120枚を4時間足らずで稼ぎ出した。

 このペースで行けばあと10日くらいで新しい奴隷が買えることになる。

 悪くない稼ぎだろ。

 俺がこっちの世界で大金持ちになる日もそう遠くはなさそうだ。


 そして本部に戻り昼飯を食べてからジュリアンの話を聞く。


「それで第5階層まではいけたのか」


「ああ、楽勝だよ。今日は金貨120枚も稼いだぜ」


「それはよかったな。だが迷宮内にだってモンスターのなる木がある訳じゃない。そんなペースでやってたらすぐに狩りつくすだろうな。それにこの町には結晶石の加工をやってる奴は少ないから、すぐに値段が下がるだろうぜ」


 うかれている俺にジュリアンが水をさす。

 いつもこうだ。


「そうか。そんなにうまい話はないのか。でもなあ、他に金を稼ぐっつってもなあ」


「だいたい騎士がそんな商人みたいに金のことばかり考えてるんじゃない」


「そうはいったって、俺にも従士は必要だし、顔もねえ、そんなにこだわる訳じゃないけど、かわいいに越したことはないだろう? それに魔法だってもっと覚えたいしさ。マーリンのケチ野郎がろくに金をよこさなかったもんだから、カスみたいな魔法しか使えないんだぜ。ここの奴隷まで俺と同じ魔法が使えるもんだからびっくりしたよ。それにテレポートだなんだって便利な魔法も覚えてみたいしさ」


「お前には国のためとか騎士団のためといった思考が全くないな。だいたい従士なんてのはオークションのようなところで落とすもんじゃない。向こうから従士にしてくださいって言ってきた奴を取り立てるのが普通なんだ。だから、そこら辺の町で見つけてくればいいだろ」


「なるど。そういう方法もあるのか……。どこかで美人コンテストみたいなことやってないかなあ?」


 ジュリアンは眉間を押さえて考え込む。

 実にイヤミな態度である。


「よし、じゃあ俺の妹を紹介して──」


「いや、それはいい。そんな目つきの悪い女なんて嫌だぜ」


「見てもいないのに、どうして目つきがわかるんだ。会ったことがあるのか?」


 この世界にはちゃんと映る鏡がないらしい。

 そういえば俺も見たことがない。


「それより何かいいアルバイトでも紹介してくれよ」


「じゃあ暗殺なんてどうだ」


 ジュリアンの目が怪しく光る。


「そういうのだけは勘弁だ」


「このあたりじゃ問題を抱えてる奴は多い。その解決手段として暗殺ってのもよく使われる手だ。何なら俺が依頼してもいい。この騎士団にとって邪魔な人物は多いからな。俺たちの出世を快く思わない奴らだ」


「おい、本気で言ってるのか? そんなの、そのこざかしい奴らがぐうの音も出ないほどの手柄を立ててやればいいだけじゃないか。俺はそういうのは正々堂々とやるたちだぜ。それに人を殺すなんてのはまっぴらだ」


「マーリンの所から来た割にはまっとうなことを言うじゃないか。安心しろ、ちょっとお前を試してみただけだ。あと俺の妹の件な、今度連れてくるから会ってみてくれ。お前なら気に入ると思う」


「だからさあ。いいって言ってるだろ。お前もしかしてシスコンか? 俺、次は穏やかな性格をした女が欲しいと思ってるんだよ」


 ジュリアンは肌も白く、女っぽい顔立ちではある。

 妹もさぞかし美形なのだろう。

 だが今さっき人を殺してきましたみたいな、この眼だけは絶対同じだと思うんだよな。


「まあ確かに穏やかって感じではないな」


「だろうな」


「まあ会ってみてから決めたらどうだ。断られたからって落ち込むような奴でもない。それに異母兄妹だから顔はあんまり似てない」


 ジュリアンがやたら押すので、俺は渋々うなずいておいた。

 その妹が俺たちの前に現れたのは、それから3日後の事だった。




「これが妹のニーナだ」


 ジュリアンが騎士団のみんなに紹介する。


 確かにかわいい。

 いや、かなりかわいい。

 確かに目は強いが、かわいい系の顔立ちなので、活発な印象で収まっている。

 黒髪のショートがよく似合う女の子だ。

 しかし……ちょっと幼いような気もする。

 14、15といったところか。


 彼女は「どうもニーナです」と挨拶を済ませると、まっすぐにレオナルドの所へ歩いて行く。


「あなたがカズヤね。悪いけどあたし馬鹿とむさ苦しいのは苦手なの。わるいけど、今回の話はなかったことにしてくれないかしら」


「なんだと! この俺のどこが馬鹿でむさ苦しいんだ。それに俺はカズヤじゃない!」


「あら違うの。ごめんなさい。でもあなたそういう感じよ。それじゃあ、あなたがカズヤ?」


 今度はクリスティーナに話の矛先を向ける。

 俺は思わず眉間を押さえこんだ。


「どうだ?」


 ジュリアンがちょっと不安げな様子で俺に聞いてくる。


「ホントにお前の妹かよ。目つきの心配はしてたが、頭の心配はしてなかったぞ」


「頭は悪いが素直で努力家だ。魔法の才能もある」


 そこへ顔を真っ赤にしたレオナルドがやってきて俺たちの会話に割って入った。


「おいジュリアン。あれがお前の妹じゃなかったら、俺は今頃あの女を簀巻きにして川にたたき込んでるところだぜ」


「すまない。あいつはちょっとそそっかしいところがあるんだ」


「俺は女からこんな屈辱を受けたのは初めてだ」


 レオナルドは肩を怒らせて出て行ってしまった。


「おいニーナ、こっちがカズヤだ」


「ああそうなの。へー、あなたがカズヤね。うーん、思ってたよりさえない顔なのね」


「わるかったな」


「あらごめんなさい。そんなつもりじゃないの」


 じゃあどういうつもりなんだろう。

 顔は好みだ。

 体も悪くない。

 ジュリアンが言うくらいだから本当に才能もあるんだろう。


「まあいいわ。じゃあお兄ちゃん、私はこの人の従士になればいいのね。まかせて、立派な騎士になって見せるわよ」


「いや、まだそうと決まった訳では──」


「やーね、なに言ってるのよ。あたしはもう決めたわ。今、立派な騎士になった自分の姿が見えたもの。頑張るわよ。よろしくね、カズヤ」


「あ、ああ……」


 こうして俺の一人目の従士が決まってしまった。

 これだけ性格の似てない兄妹もめずらしい。


 騎士と従士というのは雇う雇われるという関係よりは家族に近い。

 だから色々と面倒を見なければならないことになる。

 俺はかなりやっかいなのを抱え込むことになってしまったようだった。


「それじゃあ、あたしは早速、服と剣がほしいわ。お兄ちゃんとカズヤのどっちが買ってくれるの」


「カズヤだ」


 それだけ言って、気まずいのかジュリアンは逃げるようにどこかへ消えた。


「そう、じゃあカズヤ。早速買いに行きましょう」


 そう言って、俺の腕を取り歩き始める。

 俺は流されるままに城を出た。


「ところで、この女の人はだれなの」


 いつの間にか後ろにはクリスティーナがついてきていた。


「あ、ああ、本当は従士にしたい所なんだが、訳あって俺の奴隷をやってるクリスティーナだ。ニーナの先輩にあたる人だぞ」


「あらそうなの。きれいな人ね。あたし女もいける口だからよろしくね。あなたみたいなきれいな人なら大歓迎だわ」


 クリスティーナが顔を引きつらせた。

 さすがにちょっと困惑しているようだ。


「あなたちょっと、くっつきすぎじゃないの」


「あらどうして。従士だもの家族みたいなものでしょ。いわば夫婦よ──ああ、うらやましいのね。それじゃあなたも反対側の腕をどうぞ」


 俺は両腕をつかまれながら買い物をした。

 制服と剣で金貨200枚の出費だ。

 なんだかんだ言われて俺のよりもいい剣を買わされてしまった。

 次の日には俺の家にニーナの荷物が届けられた。

 そして彼女もその日から俺の家に住むことになった。


 夜の方はどうしようか迷ったが、まだ手は出さないことにした。

 どうせいつかは3人でするのだからと、クリスティーナとはしてしまった。

 興味津々の顔を真っ赤にしたニーナに見られながらというのは、あまりいいものではなかった。


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