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第12話 騎士団生活

 騎士団の生活は主に訓練に費やされる。

 レオナルドやジュリアンはそれぞれの従士を鍛えるトレーニングを午前中に行う。

 そして昼は水浴びと食事と休憩の時間になる。

 この休憩の時間はそれぞれが好きなことをして過ごしていいが、城内にいなくてはならない。

 そして何をするにも自分の従士と過ごすのが奨励されていた。

 それが終わると今度は会議のようなものが始まる。

 他の騎士団の近況や迷宮内の情勢の確認、その他諸々の自分が気がついたことなどを報告する。

 そして夕方になるとみんなで食事をして解散となる。

 この後の寝るまでの時間は本当の自由時間で何をしてもいい。


 つまり従士などいない俺はいきなり午前からなにもすることがなかった。

 仕方ないので俺は鍛錬場の隅っこで腕立て伏せやランニングなどをクリスティーナとやった。


 この騎士団にはコックと雑用の奴隷が三人いる。

 その雑用の一人がサンチョスだった。


 後はみんな騎士の従士か戦闘奴隷ばかりである。

 給料は騎士にしか出ないので、それ以外は騎士が雇っているという形になる。


 俺は早く迷宮に潜りたかったので、副団長兼参謀のジュリアンに打診してみた。

 しかし迷宮内には縄張りのようなものがあるから勝手に入るなと釘を刺されてしまった。

 それでも地下の第5区画までは自由に入ることができるらしい。


 俺は午前の暇な時間は実戦訓練をかねて、迷宮で結晶石集めでもすることにした。

 俺は早速許可をもらいにジュリアンの所へ行く。


「本当に二人だけで行くのか。第2区画以降はちゃんとした編成で行かないと危険だぞ」


「危険だと思ったらすぐに帰ってくるよ」


「お前のような奴は何人か知ってるが、誰一人長生きしてる奴はいない。あんまり自分の力を過信しすぎるな。それにお前はそういうことについてあまりにも無知だ。今日から昼の休みには俺が基礎からたたき込んでやるから、飯を食ったらすぐに俺の所に来い」


 ジュリアンも目つきは悪いがそれほど悪い奴でもないらしい。

 とりあえず俺は判断がつかないので、1階層を探索してみることにした。

 城内にある中庭のような所から迷宮に降りられる。


 その前に説明しておかなければならない。

 俺はヨハンから3つの幻術用触媒をもらった。

 一つは体素というもので、血液の中に召喚しそのまま血液の中を流しておくことで回復などを含む基本的な身体能力を向上させるものだ。

 使うと集中力が高まり周りの動きがゆっくりに感じられ、暗闇でもよくものが見えるようになる。

 これは気分まで高揚させ、痛みや理性を押さえる作用があるためかなり危ない。


 そしてもう一つ、墨守という防御用のものだ。

 自分であれなんであれ対象の周りに薄い膜のようなものが召喚できる。

 これは非常に硬度が高く外側から破ることはできない。

 さらに膜状に広がった微生物は魔物の肉体を浸食する霧状の毒をはき出す。

 しかし中からは外の様子もわからないし、毒を掃き終わるまで解除することもできない。


 そして最後におまけとしてもらった求光菌という、要するに迷宮の出口を教えてくれる粘菌の一種がある。


 俺はてっきりあの気持ち悪いマスクメロンになる奴をくれるのだろうと思っていたので、それよりも見た目に悪くないものをもらえて一安心という所だ。


 迷宮に降りると魔法使いやら何やらが結構な数でいた。

 やはり最初の区画は比較的安全なようだ。

 学園の迷宮にいたゴキブリやらダンゴムシやらの化け物しかいない。

 それでも学園の迷宮にいたのよりは一回り以上も強かった。


 かなり混み合っていたので、それを避けるために俺たちは第2区画まで進んだ。

 区画ごとにちゃんとした目印が立ててある。


 そのあたりでロークなどを適当に倒し結晶石を集めた。

 一度だけ巨大なムカデのような化け物が現れた。

 毒でももっていたら嫌なので光魔を放って焼きはらった。


 ずいぶんと脅された割にはたいしたことがない。

 剣と俺が勝手にファイアーボールとよんでいる炎の魔法だけで倒せる。

 それどころかクリスティーナだけでも十分だ。

 しかしやっかいなことに俺とクリスティーナの戦い方は似ているので、一緒に戦うと干渉が酷い。

 学園にいた頃は3時間も戦えなかったクリスティーナも、今では5時間くらいたっても息一つ乱さない。


「楽勝ね」


 やっとやめさせることができた敬語ではない言葉遣いでクリスティーナが言った。


「そういう油断が危ないって事じゃないのか。それより腹が減ったからそろそろ帰ろう」


「うん」


 俺は集めた結晶石と触媒だというムカデの牙(灰にならず残ったもの)を背中にしょって来た道を引き返す。


「アンナに作ってもらった練習用の剣、ひびが入っちゃったよ。これもう使えないかな」


「そうね。そうなったらもう売るしかないわ」


「はあ、金がないってのに困るなあ」


「もうちょっといいものじゃないと力に耐えられないのよ。あの頃よりも変に強くなってるでしょ」


 確かにそれは感じていた。

 もう属性の使い方にもなれてどんなものでも力任せに一刀両断できる。


「団長にもらった剣、使っちゃってもいいのかな。あれなら結構丈夫そうだけど。そういえばお前の剣だけは召喚したものじゃないよな」


「剣の召喚は中級くらいのものだから覚えられなかったのよ」


「でも今ならできるんじゃないのか」


「触媒の魔剣があればね」


 また金かと俺はため息をついた。


 外に出て結晶石と触媒を売り払うと金貨50枚程度になった。

 ひびの入った剣も銀貨3枚で引き取ってもらった。

 そのまま騎士団本部に帰り昼食を食べる。

 スープとパンとワインだけの面白くもない食事だった。

 それが済んで次はジュリアンの講義を受けなくてはならない。


 講義の内容は部隊の編成についてだった。

 そのあいだクリスティーナは奴隷の女となにやら楽しそうに話をしていた。


 講義の内容は、まず最小の単位、学園でパーティーと呼ばれていた部隊があり、それが集まると連隊となり、これが各騎士団を指すもので、さらにそれが集まると師団になるということだった。

 最近では月に一回くらいの頻度で師団を組んで迷宮に入る大規模な侵攻を行うらしい。

 毎回、死者や怪我人が出るかなり厳しいものだ。


「その侵攻で出た結晶石は誰のものになるんだ」


「半分は皇帝に、もう半分は騎士団の所有になる。そう金にがっつくな。手柄を立てれば特別の報奨金が国からもらえるぞ。だけどそんなものをもらうには最前線に出なきゃならない。俺たちの騎士団では無理だ。俺たちはまだ少しずつ力を溜めていく時だ」


「力を溜めて第一騎士団かなにかになると何か特別なことでもあるのか?」


「騎士団に振られてる数字に特別な意味はない。本当に何も知らない馬鹿だな。いいか俺たちの目標はな、まず腐った上層部にものを言えるようになることだ。ろくでもない作戦で仲間が死ぬのを防ぐためにな。そしていつかナタリーを国のてっぺんに押し込むために力が必要なんだ」


「てっぺんってのは王様か? ナタリーは頑張れば王様にもなれるのか」


「王様ではなく皇帝だ。そんなものにはなれないが師団長にはなれる。王家の血を引いてるからな。いいかカズヤ。あのときはお前には金を返せと言ったが、ナタリーはたぶん金なんか受け取らない。ああいうものはくれるということなんだ。だから金じゃなく、その借りは働きで返せ。騎士というのはそういうものだ」


 えらく大変な借りを作ってしまったものだ。

 しかしこいつらのやろうとしてることはわかる。


「わかった。俺もそれに協力しよう」


「馬鹿だな。騎士になったときから協力することになってるんだよ」


 確かにそうかもしれない。

 しかしこの時から、腰掛け気分でいた俺の心境も変わり始める。


「まずはお前の部隊をちゃんと作れ。もし足りないなら俺の見習いの中からわけてもいい」


 見習いというのはいわゆる部隊の補欠だ。


「俺は女だけで作るよ。お前らみたいな趣味はないからな」


 その言葉にジュリアンは初めて笑顔を見せた。


「そうか。それもいいだろう。それにしてもお前は色々と規格外だな」


「俺にはお前らが規格外に見えるよ」


「難儀な奴だな。女なら外でいくらでも抱けばいいのに。町には娼館がいくらでもあるぞ。商売女が嫌ならこないだのライノール伯爵の婦人でもいい。体をもてあましてるぜ。そんな女が城の中にいくらでもいる」


「そんなことしててばれたらどうするんだ」


「ばれたってかまやしないさ。あまりに若い女と結婚したんで、伯爵も相手をしきれず困ってるんだ。それに最近は他の女に入れあげてるから、むしろ歓迎されるだろうぜ」


 こっちの奴らと来たらどいつもこいつも本当に乱れてやがる。


「それじゃナタリーも体をもてあましてたりするのかな」


 俺は気になったので何気なく聞いてみた。


「ばかもん」


 後ろからやってきたレオナルドにげんこつを食らう。

 馬鹿力なもんだから痛いどころか一瞬意識が飛んだ。


「そういう目で団長を見るんじゃない。王家の娘は純潔を守るに決まってるだろうが。お前の馬鹿さ加減には驚かされるぜ」


 馬鹿に馬鹿といわれては俺にも立つ瀬がない。


「しかも女だけで部隊を作るらしい。男は受け付けないんだそうだ」


 ジュリアンが余計なことを言う。

 それで馬鹿なレオナルドが言いふらすもんだから、俺はみんなから笑われた。

 それで陰ではしみったれと言われるようになった。

 ふざけやがって、何がしみったれだキチガイどもめ。

 俺はここになじめるのか心底不安だった。


 午後になってナタリーを中心に会議が始まる。

 この時になって俺は初めてナタリーだけがこの騎士団の中で唯一まともだと気がつく。

 まじめで、団員思いで、良識がある。

 他の奴らは粗野で山賊と変わらない。


 その日の会議の内容は俺についてだった。

 レオナルドが得意げに女だけの部隊を作る気だとナタリーに報告する。

 色狂いみたいに思われそうで嫌だった。


 しかし俺が使える魔法と召魔について話すと場の空気が変わった。


「どの召魔もマーリンが秘蔵してると言われていたものばかりだな。しかもカシミール家にしか伝わっていない幻術まで、一体どうやって手に入れたんだ」


 ジュリアンはずいぶんとものをよく知っている。

 俺はなんてごまかそうか考えたが、ある程度素直に話すことにした。


「俺はマーリンに捕まって、騎士になることと迷宮の探索に協力することと引き替えに、この力をもらったんだ。ろくに話もしないうちに消えちまったから詳しいことはわからない。幻術は学園でもらったんだ」


 俺の答えにみんな驚いている。

 今までの馬鹿にした態度とはちょっと違う。

 ジュリアンが「こいつは面白くなってきた」とつぶやいた。


 その後俺にとって初めての給料が出た。

 金貨250枚だった。


「もし計画的に使えないようであれば少しずつ支給することもできます」


 と、ナタリーが言ったので、その必要はないと答えた。

 未開人で算数もできないような奴らには金すら計画的に使えないのがいるのかと驚いた。

 その俺の言葉を信じないジュリアンが算術の知恵競べを挑んできたが、簡単な問題だったのですぐに答えを返した。

 これにもみんな驚いていたが、未開人が文明人の知恵に驚くのは今に始まった事じゃないので気にとめない。

 しかしナタリーに感心されたのは気分がいい。


 この時を境に俺の扱いは少し変わった。

 ただの馬鹿ではなく、それなりに敬意を払われるようになったのだ。

 あのレオナルドもである。

 まあたいした変化ではなかったが。


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