第三話~夢~
「おいしいよ、母さん」
俺は母にそう言った。
「よかった。涼介の好きなハンバーグを作った甲斐があったわ」
今日は俺の誕生日。母は俺の為に腕によりをかけたハンバーグを作ってくれたのだ。正直お世辞にも形が整ってるとは言えないハンバーグ。
でもそのハンバーグは本当に美味しかった。
「私ね・・・」
母は言う。
「涼介を育ててきて本当に良かったと思っているの。成績は優秀だし、優しいし・・・。母さん誇りに思ってるわ」
「やめてくれよ母さん。成績がいいのはたまたまだよ。それに俺は優しくなんかない」
これは俺の本音だった。
「かーさん、私はーーーー!?」
「梨穂子のこともとっても誇りに思ってるわよ」
「お兄ちゃんばっかり褒めないでよねーーー」
梨穂子は俺の妹だ。中学2年生である。こういうのもなんだが、梨穂子は俺の自慢の妹だ。素直で、そして俺なんかよりずっと優しい。
俺はふとテレビの方へ視線を向けた。
『警察では、この殺人事件をこの地域で発生している連続殺人事件と関係があるものとして捜査を進めるようです』
「怖いわね...。梨穂子は絶対1人で出歩いちゃダメよ」
「分かってるよ~。でもそんな怖い人がいたら、私が蹴散らしてあげる」
力強く梨穂子は言うが、
「無理だろうな。先週亡くなられたのは柔道経験者らしいしな」
「お兄ちゃんは真面目に返しすぎ~」
「はは。そうだな」
我ながら平和な家庭である。
「そういえば今日父さんは?せっかく兄ちゃんの誕生日なのに~」
「色々あるのよ、色々」
「ちぇっ、また仕事か~」
「しょうがないよ。父さんは忙しいんだ」
父さんは医者だ。外科医であることもあって、とても忙しいらしい。
出かける前に、
「涼介、本当にすまないな。お前の誕生日だというのに・・・この埋め合わせは絶対にする」
と言ってくれた。別に何とも思ってないのに・・・
ちなみに俺も医者を目指している。すでに医学の勉強もちょっとしており、父さんが時々教えてくれる。
「お前にはまだ早いだろう・・・」
半ば飽きれながらそういうのが父の口癖だった。
その後は梨穂子の学校での話をした。なんでも梨穂子の描いた絵がコンクールで入賞したらしい。
俺が「俺のも絵の才能があればなあ」と言おうとしたその時だった
突然テレビがついた
母と梨穂子は全く気にしていない
そしてなんと母がテレビ画面に映っていた。
あっ、と俺が言おうとしたその時だった。
「ごめんね...」
テレビ画面の中の母がそう言った。