オレはどうしたいんだ?
『あれからオレは変だ』
たまに、ぽっと浮かんでは消えるだけだった咲良の顔が、今では、何をしていても、仕事中でも急に浮かんでは消える。
恋愛したての少年みたいじゃないか。
これは、何なんだ?明らかにおかしい。
自分が結婚するのは麻理絵のはずだ。なのに、今、自分の中を占めていた麻理絵の大半が咲良にすり替わっている。
『オレはどうしたんだ?』
ふうっと大きく息をついて、パソコン画面から目をそらし、軽く目を閉じた。
現在、スマホゲームのバグを修正するプログラミングを作成中だ。
一日中、パソコンの前で作業していると、時々、何とも言えない閉塞感に駆られ、発狂したくなることがある。
最初の配属がこの部署だったが、あと何年同じような仕事を続けるのだろうか。
そういう会社に入ったのだから、そういうことをやるのが仕事に決まってるだろうと言われれば、その通りだ。
何だか、血が通っていない。そういう仕事にしか思えなくなってきた。
先日、同僚の1人がうつ病と診断され、しばらく休職すると聞いた。
目に生気がなくなり、食欲もなくなり、眠れなくなり、自殺願望まで出始めた頃に、地方から遊びに来ていた親に気づいてもらえたから、命を絶たずに済んだという。
自殺にまで至る人と、その一歩手前で引き返せる人との差って何なんだろうな、とぼんやりと考えてしまう。
この前、咲良から聞いた話では、自殺する人のほとんどはうつ病を発症しているのだが、それに気づいていない人がほとんどだという。
明らかに異常行動が見られらり、外見が変わる人は気づかれやすいが、全く見た目は普通で、内部の心だけが壊されている人は気づかれにくいという。
「先生は大丈夫だよ」
そう言ってあげる、と咲良は言っていた。
自分が今、正常か異常かなんて、自分で判断する術はないんだよな。
パソコンの画面には、修正途中の人生ゲームが映し出されている。
サイコロを振って、出た目の分だけコマである車を動かして行くゲームだ。
行く先々で、株で大損したり、遺産が転がりこんだり、結婚したり、子供が生まれたりする、子供の頃から慣れ親しんだゲーム。
盤上で遊んでいたアナログなゲームでさえ、オンラインゲームになるなんて、誰があの当時思っただろうか。
アナログで遊んでいた当時は、もっと自分の将来にわくわくしていなかっただろうか?きらきらと輝いている大人の自分を想像していなかっただろうか。
そして、今・・。
人生ってこんなものなのかな。このままでいいのかな?
ふいに疑問がわいてきた。
サイコロの目を振ってみて、ゴールまでかかる時間がそれぞれ違うだけで、みんな同じコースの上を走っている。
それは、ゲームの世界なのだから、と言ってしまえばそれまでだが、自分と重なって見えた。
この会社で働き続ける限り、このコースから外れることはないんだろうな、きっと・・。




