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恋は叶うものではなくて……

 早いもので、ユーリ救出からもう1週間が経った。その間、ユーリは両親から怒られ続け、心配や迷惑を掛けた村人たちの元へ両親と共に謝罪行脚を行っていた。


「姉さん、本当に良かったの? 魔物を倒してユーリさんを助けたのが姉さんだって話さなくて」


 そう、今回私はユーリを助けたのが私だという事を話さなかった。

 私とカイは家で大人しくしていたし、ましてや森になど入っていない。ユーリを救ったのは偶々通りかかった冒険者と、その冒険者に後を頼まれたコーザさんなのだ。

 ちなみに魔物を倒した冒険者は、その後何も言わずに颯爽と去っていたという話になっている。


「問題ないわ。入っちゃダメってお母さんから言われているのに、それを無視して森へ入ったなんて言ったら怒られちゃうじゃない」

「何を今更。今まで散々言い付けを守らず怒られているし、母さんも僕たちが森に入っている事を薄々感づいているよ」


「……だって、恥ずかしいじゃない」

「……はい?」


 カイは何を言われたのか分からないといった顔をして私のことを見返す。


「私が助けたとか、ユーリについて行くために訓練してきたのとか、そういう事を自分から言うのは何かこう……恥ずかしいの!」

「えぇ、今まで傍若無人の限りを尽くしてきたのに、そこでヘタレるの?」

「誰が傍若無人ですか、誰が! ……それに、こういうのは自分からグイグイ行かずに相手から気付いて貰える方がポイント高いのよ? 私は奥ゆかしくそっとユーリをサポートして、そしてユーリはそんな生活の中で私への好意を育んでいくのよ!」

「まぁ、そのよく分からない理論で自分を納得させられているのなら僕は何も言わないけど……」

 

 カイがまだ何かぐちぐちと言いそうだったので、私はユーリのお見舞いに行くと理由を付けて家を出た。最近、弟は少し生意気になってきている。ここらで一度、バシっと姉の威厳を見せつけた方がいいのかもしれない。


「ユーリ、こんにちは。ラナよ。お見舞いに来たわ」

「ラナ! 丁度いい所に! その、実はラナに伝えたい事があるんだ。……ここではちょっと話せないから、僕の部屋まで来てもらえないかな」

「へっ!?」


 お見舞いの為にユーリの家へ行くと、目をキラキラさせたユーリが出迎えてくれた。そしてそのままユーリの部屋へと案内される。


 ――これは、もしかして!?


「ラナ、どうか聞いて欲しい。……このことに気付くまで時間が掛かってしまったけど、やっと気付けたんだ!」

「は、はい!!」

「僕は……」


 ……


 …………


 ………………


「カイ! 今日から僧侶を目指して訓練を開始するわ。貴方も手伝いなさい!!」


 私はカイの部屋の扉をバーンと開き、いつもの様に読書に勤しんでいる弟に決定事項として指示を出した。


「えぇ……」


 ユーリの伝えたい事とは『拳闘士になる』というものだった。

 

 先日の森で魔物に襲われた事件の時、ユーリは魔物の魔力に当てられて気絶していたが、どうも一時的に薄っすらと意識を取り戻していたらしい。

 そしてその時に見た光景が、誰かが自分を襲っていた大きな魔物を拳一つで吹き飛ばす光景だったらしく、その日から拳闘士に憧れて親に隠れてシャドートレーニングをしていたそうだ。

 ちなみにその話の後に見せてくれたのが、幼少の頃に行商人から買っていた絵本だった。その内容は『拳闘士と僧侶が協力して悪者を倒す』というお話で、今度はこの絵本のような冒険を目指すらしい。


「ちょっと予定は狂っちゃったけど、問題は無いわ」


 そう言って私は自信に満ち溢れた表情をカイに向ける。



「だって恋は叶うものではなく、”叶えるもの”なのですから!」


 そう、私が諦めなければ、この恋が実ることは確定事項なのだ。

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