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お前は私を怒らせた!

 私は今、森の中をひた走る。……カイを背負って。


「姉さん、僕を背負って走るはきつくない? 本当に大丈夫?」

「何言ってるの、弟の1人や2人背負って走れなきゃ姉なんてやっていけないわ」

「……いや、そんなことは無いと思うけど」


 カイの速度に合わせて走るより、こうやって走る方が断然速いのだから仕方がない。

 それに、ユーリがもし魔物に襲われていた場合は私が魔物と戦う事になる。その間にカイにはユーリの手当や安全な場所への退避などをしてもらいたので、体力は十分に温存しておいて貰わないと私が困るのだ。


 そんなこんなで私はカイを背負い、ユーリの生命力を目印に森の中を駆けた。


 ……


 …………


 ………………


「……見つけた」

「本当に姉さんはあの距離でユーリさんの事を感じ取れてたんだね」


 なんとカイは私の言葉を完全には信じていなかったらしい。ここらで1つ、姉の偉大さを分からせた方が良いのかもしれない。

 けれど、今はユーリを救出する方が先決だ。何故ならば今ユーリは倒れて気を失っている様子だからだ……大きな熊の魔物の前で。


「姉さん、ユーリさんは死んでないんだよね?」

「ええ、体力は消耗しているようだけど怪我をしている感じは受けないわ。恐らく、あの魔物の魔力に当てられたか、恐怖で気絶したかどちらかでしょう」


 熊からは今までに感じた事のない強い魔力を感じる。突然あんな魔物が出てきたら、その魔力に当てられて気を失っても不思議ではないだろう。

 そんな熊は今、ユーリの匂いを嗅いで罠ではないか警戒しているようだった。


「カイ、今から私があの毛玉の注意を引くから、その間にユーリを背負って逃げなさい」

「そんな!? あの魔物は今まで姉さんが相手にしてきた魔物とは全然違う! 多分、最近森の様子がおかしかったのはあいつの所為だよ!」

「まぁ、そうでしょうね。……でもね、カイ。貴方は私を誰だと思ってるの? 私は貴方の偉大なお姉さまなのよ?」


 私はそう言うと、尚も食い下がろうとするカイを無視して飛び出した。


「そこの毛玉さん。ユーリから離れてもらえないかしら? ユーリに獣臭さが移るのは我慢ならないのよ」

「ガァア˝ア˝!」

「あら、素直でいい子ね」


 私に気付いた熊はすぐに敵だと判別したらしく、一直線に私の方へと駆けて来た。私は少しずつ後退しながら、少しでもユーリとの距離を稼ごうと行動をとる。

 その間にカイは気配を殺しながら少しずつユーリのもとへと向かっていた。


「ガァア˝ウ˝?」

「っ!? 駄目、こっちを向きなさい毛玉! くっ! カイ、逃げて!!」


 出来るだけ熊の注意を引くために行動していたが、やはり野生動物の嗅覚は誤魔化せなかったのか、熊はカイの存在に気付き攻撃対象をそちらに切り替えた。

 熊はカイのもとへと走り襲い掛かろうとする。私はすぐに熊の後を追うが追いつけない……なんて言い訳にもならない。姉は弟を守る存在で、守れない言い訳など存在しないのだ!


 そしてそれは突然起きた。私の頭の中で何かがカチリとハマる感覚がして、突如として体の中から力が沸き上がる。もしかしたら、これがカイの言っていた闘気術なのかもしれない。だが、今はそんなことどうだっていい。


 ――今重要な事は……あの腐れ毛玉をぶん殴ること!!


 私は溢れる力を体にまとい、全速力で熊を追い、そして追い越した。


「毛玉、あなた今何をしようとしました?」

「ガァア˝!?」

「姉の前で弟を襲うとはいい度胸ですね。……その喧嘩、全力で買わせてもらうわ!!」


 姉の前で弟を襲う事。それは万死に値する行為。もはやそれは、首を垂れて無抵抗に命を差し出さなければならない行為なのだ。

 故に私は内から溢れ出る力を右手に込め、全力で熊を殴った。すると熊はその巨体を浮かせて遥か後方へと吹き飛んでいく。それで終いだ。


「ふぅ、何とかなったわね。……カイ、どうかしら? 姉の偉大さが分かった?」


 そう問われたカイは目を見開き、唖然とした顔でコクコクと首を上下に振っていた。

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