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ラプラスの魔物 Secret Seekers  作者: お花
第五章 一場春夢海底都市 カノフィア
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第六十三話 海底のロボトニーク

カノフィアに乗り込もうとする一行だったが、乗り込む前にも後にも波乱しかなく……?永遠に続く科学都市、イカれたメンツが出まくる第六十三話!


息を殺して魔物が去るのを待つ。同時にロジェが手にかけていたオールに力がかかった。視線の先には巻きついた触手。噛み付くアンコウの様な魔物。


「っ……このっ……!」


苦戦しているロジェにヨハンは耳打ちする。


「押せ」


言われるがままに押すと、苦しくなったのか噛み付いてきた魔物はオールから口を離した。触手だけがしつこく絡みつく。気を取られている内に伸びたそれがロジェの足首を掴んでひっくり返した。そして、悲鳴。


「きゃあっ!……あ」


振り返って五つの穴を持つ肌を見ると、確実に聞いていた素振りを見せる。魔物は一度海に潜ると、助走をつけて飛び上がった。オレンジ色の鱗は曇天に鈍く光り、顔には六個目がついている。サイレンの様な鳴き声が辺りに響いた。


「まずいわ!どうしよう!ヒダルの群れが来る!」


さっきのオールに絡みついた魔物達はヒダルのお零れを貰おうとしていたらしいことに今更気づいたロジェは頭を抱える。


「死水域じゃ進めないぞ」


『魔法使ってぶっ飛ばしたら?』


「それじゃあ強い魔物達が集まってくるじゃない!」


『群れで襲ってくるヒダルが来るならあんま変わらないでしょ。他に方法も無いし』


サディコの言う通りだ。ロジェは『ヴァンクール』を起動させて船に推進力をつけた。小船はとんでもないスピードで進んでいく。


「このまま真っ直ぐ!?」


「そうだ!」


塔まであと少しというところでヒダルの群れが壁を成して立ちはだかる。


『えらく頭が回るんだねぇ』


サディコはそう呟くと、ヒダルの群れに水流を作る。


『そのまま進んじゃって!』


小船は群れの上に乗っかって、高く高く飛んだ。着水時にぐらつく。そのまま塔を目指して前進し続ける。


海にはもう水が無いと言えるほどに魔物がひしめき合っていた。船に乗ってきた人面魚をヨハンは投げ飛ばす。


「こいつら何でこんな寄ってくるんだよ!」


「魔物は魔力が主食なの!ここじゃ魔力を得る方法が少ないから魔法使いはいい餌になるわ!」


塔はもう目と鼻の先だ。しかし、煉瓦の彩りが美しい入り江には魔物が生み出した巨大な津波が押し寄せている。


サディコは目を光らせて大波を見ると、船に落ちる僅かな手前で凍らせる。薄暗い紋章が描かれた入り江で、ロジェは魔法を発動する手を止めた。慌てて下りるも魔物は諦めることなく地上にも追いかけてくる。ヨハンは奥にある金属製の扉を見つけた。


「こっちだ!」


必死に足を動かして部屋の中に入る。ロジェが入ったのを見計らって扉を閉め、近くにあった木箱を置いたが今すぐ突き破られそうだ。


「ねぇ!こっからどこに行けばいいの!?」


「三号車……こっちだ!」


人に反応して電気がついていく。長い筒が並んでいる廊下を死に物狂いでひたすら走ると、奥から五番目の扉の前でヨハンはパネルを操作した。部屋の閉じていた扉が破壊された音が響いた後、部屋に魔物があふれ込んできた。


ヨハンは筒の中にロジェを入れて扉を閉める。少しするとそれは下に動き出した。沈黙があって、ロジェは。


「ヨハンのばかっ!こんな怖い目に遭うなんて聞いてないわよぉ!」


入った場所は筒の中に配置された潜水艇だった。ぼかぼかとロジェはヨハンを叩く。


「本当に申し訳ない……普段は魔物が多いこの海でも、ここまで荒れることは稀だから……」


『アトラクションみたいで面白かったよね』


「面白くないわよぉ。もう超怖かったんだから!」


まだ上から魔物の声がする。どんだけしぶといのだろう。へなへなと添付きのソファに座り込み肩で息をしていると、瞼に光が当たった感触で顔を上げる。


「わぁ。綺麗……」


「……そうだな」


途中からガラス張りになった筒からは、自然の水族館と言える海中が見えた。先程まで恐ろしく感じていた魔物も、群れの中で戯れているのを見ると可愛らしく思えてくる。


筒は砂に埋まり、かなり暗い海底に連れて行かれる。顔だけでもロケットくらいある巨大な魔物が、眼球だけ動かして潜水艇内部の人間を見ていた。


「ねぇヨハン。まだ下に行くの?」


「あぁ。もう着く」


『認証を開始します』


潜水艇内に無機質なアナウンスの声が響く。


「これ、大丈夫なの……?」


「人間だったら大丈夫だ。心配することは無い」


潜水艇の真ん中からカメラが出てきた。ロジェとヨハンを捉える。


『遺伝子解析を始めます。サンプルデータ参照。12-h2 承認。85-3a 承認。以下基礎データの承認を確認』


なんとか無事に終わりそうだ。ロジェがほっと胸をなでおろした瞬間だった。


『未承認の遺伝子が発見されました。保護体制に移ります』


カメラが引っ込み、筒状の何かから白い煙が出てくる。甘い匂いだ。


「『ドーム結界ドリメウム』」


心配することは無い。ロジェは軽く詠唱して『ヴァンクール』に力を込めた、が。神器は点滅するばかりで動かない。慌てて口を抑える。


「サディコ!結界貼れない!?」


『ここの潜水艇に入った時から影から出られないんだよぉ』


慌てふためき自分に出来た影を見ると、幾つもの金色の線が影を押さえつけている。ヨハンはロジェを抱き寄せた。


「なるべく息をしないようにしろ。もう着く!」


自分は兵士上がりだし不老不死だから多少の薬剤にも耐性があるが。ロジェは普通の少女だ。腕の中で眠気に耐えて必死に目を開けている。


「う、ん……」


『生体反応確認中……。薬剤の投与を追加します……』


「ぐっ……」


潜水艇はますます白くなり、自分の髪先すら見えない程だった。徐々に意識が混濁していく。


必死にロジェを抱きしめる。カノフィアは一番難易度の低い超古代文明遺跡群だと聞いていた。実際廃墟マニアの不法侵入も多い。


なのに、どうして。驚異的な魔物の多さと、この惨状。リサーチ不足だと言うのか?確かにそうかもしれない。いやしかし、もしかしたら。これが『カノフィアの異変』だと言うのなら……。


「はぁ、ぅ……」


思考がまとまらぬまま、意識を手放した。







『起きてますか?聞こえますか?』


頭がぐわんぐわんする。身体がだるい。出来るのならこのまま眠り続けたい……。


『意識レベルは睡眠状態だから起きてるはずなんですが。目覚めるのを待つしかありませんかね』


薄く開いた視界は眩しい。その眩しさを誤魔化すかのように、何かが飛んでいる。


『こんなタイミングで流れ着いてくるなんて、この人も……この人達か。恵まれていないというか……』


「……うるさい」


ヨハンは頭をかいて起き上がった。頭はぼんやりしているし、視界もぼやけている。身体の節々が痛む。


『おや。お目覚めですか!』


ふわふわ飛ぶ白い何かに目を凝らすがよく見えない。声色は少年のものだ。


『腕を出して下さい。解毒剤を注入します』


ヨハンが左腕を出すと、白い何かは針を刺した。注射だ。瞬間、身体の不調が飛んで行った。


『気分は悪くありませんか?』


白い何かは長方形の箱の様な機械だった。握りこぶし分くらいのカメラが一つついていて、ヨハンの様子を伺っている。


「……あぁいや、助かった。ありがとう」


ロジェはどこに行ったのだろう。辺りを見渡してもめぼしいものは見つからない。機械は見計らった様に問うた。


『お連れ様をお探しなのですよね?』


「……何か知っているのか?」


『えぇ。旧式が連れて行きましたから。私が逃してしまった最後の一体です』


旧式。最後の一体。ドローンから気になる用語が幾つか出てくる。とりあえず先ずは自己紹介だ。


「お前の名前は?」


『『NW_H00610』と申します』


「……それ、名前なのか?」


凡そ名前から程遠いその響きに、ヨハンは眉をひそめた。


『貴方達に近い言葉で表現するとなると、型番が近いと思います。好きにお呼び下さい』


「分かった。じゃあ……ロク。俺の名前はヨハンだ。ここに一緒に来た娘を探してる。旧式が連れて行ったとか言ってたな?そもそも旧式ってなんだ?お前との関係は?」


『矢継ぎ早に質問されますね。好奇心があるのは良いことです』


声色的に小馬鹿にされている気がしなくもないが、ヨハンは立ち上がりながらロクの話を聞く。


『私はとある場所から遣わされた使者です。所属は名乗れませんが、貴方の敵ではありません。むしろ味方です』


ヨハンはただ静かにロクを見つめた。見たところで彼には──ロボットに性別という概念は当てはまらないが便宜上そう表記するしかない──顔もないわけだし、感情が読み取れない。無意味なことをやめて視線をずらした。


『所属機関からカノフィアを守っていた旧式ロボットを回収せよとの指令が下りました。しかし、私は取り逃してしまいました』


ロクの話し声は明らかに作られたものだった。これだったら人も馴染めるでしょみたいな思惑が感じられる、作り手の嘲笑が混じったもの。


『あの旧式はカノフィアの復興の為にお連れ様を連れて行った様です。間違いなく無事でしょう』


「復興だと?こんなボロ都市をか?」


潜水艇の窓から見える都市はビルを写していた。しかしその中には瓦礫の山しかない。しかもこの潜水艇の中も錆び付いている場所があるというのに、復興なんてめちゃくちゃだ。


『旧人類を栄華をもう一度、と考えているそうです』


滅びたものは滅ぶべくして滅んだ。それを掘り返してもなる様にしかならない。旧型ロボットが固執する理由が分からないなか、ヨハンが思考の海に耽っていると、


『貴方達はどうしてここに?……失礼。無理にとは言いません』


探しているのは宇宙船に入る為のパスワードだ。しかしどういう思惑で接触して来たか分からないロボットに話すのは危険極まりない。つっけんどんに返した。


「捜し物だ」


『なるほど……分かりました。突然ですが、取引しませんか?』


「取引だと?」


ロクの音声はにわかに高くなる。こう、何というか……にわかに気分を上げて話そう、みたいなのを感じる。


『えぇ。私は旧式を捕らえたい。貴方はお連れ様を保護したい。目的は一緒です』


「利害の一致ってことか」


『そうです。私はここに詳しい。きっと貴方のお役に立ってみせます』


当たり前だがロクの事は信用出来ない。そもそも遣いってなんだよ。地上と断絶した都市にこんな小さいドローンが一体だけで来たってことか?そんな馬鹿な話あるか?


しかし、ロジェが攫われた今、救出には猫の手も借りたい現状である。それにコイツは誘拐犯を見ている。旧型ロボットとの共犯とも考えることは出来るが、ここは乗るしかない。


「……その取引、乗った」


ヨハンの思い口ぶりにドローンはくるんと一回転した。歓喜の舞らしい。


『良かったです。信頼を勝ち取れる様に頑張ります』


「読心術でも搭載してるのか?」


笑い飛ばすようにして言うと、ロクから乾いた笑いが帰ってくる。


『瞳孔の開き方、血圧や拍動の速さから感情を推定できるシステムが搭載されております』


……あぁ。やっぱり。動物でない生き物は厄介だ。視界の端にロクを見て、最初のエリアへ足を進めた。









耳元で水中の音がする。身体を包む感覚は丁度良い温度で、今にもうたた寝してしまいそう。ロジェは薄く目を開けた。口に何かついているような感覚があって、息をする為に手を伸ばした。その弾みで天井にぶち当たる。


パニックになっている内に肺から全ての空気が抜けて、意識を失いそうになった瞬間前に倒れた。包んでいた感覚は粘性を持った液体で、びちゃびちゃと音を立てて床に落ちている。


「ゲホッ!げほっ……」


口の中から機械を抜いて息を整える。何だここは。どうなってるんだ。


「創造主様!お目覚めですか!」


手をついたまま目の前を見上げると眼鏡をかけた黒髪の男がいた。星座盤が描かれた青い服を着た彼は、嬉しそうにロジェをうっとりと見つめている。


「は?創造主?」


「えぇ!貴方は間違いなく創造主様です!」


絶対関わっちゃダメなタイプの人だ。ロジェは口に残ったぬるりとした液体を飲み下す。


「……そう。私ある人と一緒にここに来たんだけど、その人のこと知らないかしら」


「貴方様以外のことは存じ上げません。貴方様は新人類が欠落した遺伝子をお持ちですから。それ以外は等しく無です。この都市に必要ない」


「欠落した遺伝子?何の話?」


さっきから話が見えない。ロジェは眉を顰めると、男は恐ろしい剣幕で詰め寄った。


「何故知らないのですか?貴方様は創造主様では無いのですか?創造主様なら知っています。何故知らないのですか!?」


「ひっ……」


「……すみません、怒鳴ってしまって。仕方ありませんよね。だって創造主様が来られたのは一万三百二年八時間二十五分八秒ぶり。忘れられているのは仕方ないかなと思います」


今ので分かった。コイツは頭がイカレてる。刺激しないように、ロジェは笑顔を取り繕った。


「え、えぇ、そうね……せ、説明して欲しいわ……」

マルクレオンから計画の一端を説明されるが、その時ロジェは……?秘密裏にファステーラの中に入ったアウロラとミカエルに不穏な空気があったり……?ヨハンがロクと一緒に冒険を始めるハラハラドキドキが止まらない第六十四話!

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