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ラプラスの魔物 Secret Seekers  作者: お花
第四章 夢心遺却列車 最果鉄道
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第五十一話 暗闇のファンタズマ

ロジェの行動により城塞の中には入れたが、一行不穏な気配が忍び寄る。命をかけた陣取り合戦が始まる第五十一話。ボードゲームのところはぜひ紙に書いて読んでもらえると嬉しいです。上手くゲームになってるかな?あと今回は話が短いです。すいません……。

「だから問題なんだよ。城塞の壁は硬くて壊れないしな」


ヨハンはそう言うものの、確かめない訳にはいかない。ロジェは壁に近づいて高威力の星魔法をぶつけた。確かに少し傷がいくだけで崩れる気配がしない。


見る限りでは城塞自体が崩れている様には見えない。だから穴を広げて入る事も出来ない。


「ねぇヨハン。制御棒が壊れてるってどういう感じなの?」


「さぁ。詳しく見たことは無い」


人伝に聞いただけだ、と男は告げる。それを聞いてロジェはふわりと飛び上がった。


「何とか出来るかも。ちょっと待ってて」


『頼もしい限りだねぇ』


サディコは眩しげに言うと、ヨハンの影の下で小さく縮こまっている。


「……ずっと思ってたけど、砂漠に来てからお前静かだな」


『水がないからだよ。ぼくの主属性だもん』


「そういうのに左右されるのか」


『左右されるんだよ』


ヨハンは持ってきていた水を見せつけるようにして飲むと、サディコに喰われかけながらロジェが帰ってくるのを待った。肌が汗ばんできた頃、城塞の影が変わって黒がにゅっと現れる。


「じゃーん。出来た」


ロジェは一人と一匹にランタンの様なものを見せた。そしてすたっと砂漠に降り立つ。


「それは?」


「魔法で作った」


ランタンは光を吸い込むほど真っ暗で、中にある棒が水色に光っている。見た目よりは軽いらしく、ロジェはぶんぶん振り回している。


「制御棒が真ん中から二つに折れてたの。根元はまだこの城塞に刺さっている訳だから『物体に宿る記憶を戻す魔法』で作ってみたのよ」


少女は開かなかった扉にランタンを近づけると、棒と同じ水色が走る。ずずず、と重い音を立てて扉が上がった。


「これを近づければ……ほら!凄いでしょ!」


『すごいじゃん』


「よく分からんが……ともかく助かったよ」


得意げにロジェは笑って中に入るが、その瞬間に扉が落ちる。ヨハンとサディコは唖然としてその様子を見ていた。


「……ただまぁ出力が弱いから一分ぐらいで効力は無くなっちゃうんだけど」


『挟まれないように気をつけないとね』


ひんやりとした城塞はその役目を果たす為か、変わった構造をしていた。三方向に壁があり、ロジェの魔法で何とか見えているが薄暗い。


「書庫室ってどこにあるの?」


「北西の部屋だって聞いた。そこを目指して進んでみるしか無いな」


なるほどねぇ、とロジェは前を見た。双方どちらも道がある。


「……左と右、どっちから行く?」


こういう時は誠実に答える (という触れ込みがある) 使い魔に聞いた方がいい。視線で質問を促すと淡々と返された。


『迷った時は左から行ったらいいよ』


「どうして?」


『人間は迷うと左に行くから』


サディコはぺたんと座って耳裏をかきながらのんびり答えた。つまるところこの使い魔が言いたいことは、


「なるほど。迷えってことね」


『不確定要素が多すぎるからぼくに聞いても答えられないよ。ごめんね』


サディコは勢いよく身体を震わせば砂が落ちた。砂漠の砂が絡まって痒かったらしい。水浴びをさせてあげたいところだが生憎近くに水がない。とにかくここは前に進もう。


まずは左からだ。重厚な扉の隣にあるプレートには何かしらの文字が書かれている。目を凝らしていると背後から声がかけられた。


「『生物実験棟』だ」


「大層なものがあるのね。行きましょ」


ランタンを掲げると、エネルギーを感知した扉は砂を零しながら上がる。……しかしその先は真っ暗だった。


「暗くてなんにも見えないわ。魔法で──」


少女が光魔法を唱えようとするのをヨハンは抑えた。少女の前を横切って、扉の傍にある制御盤の前で構えて、


「下がってろ」


銃を構えて一発、撃った。銃弾は何の迷いも無く鍵穴をぶち抜くと、後には制御盤の中身だけ示される。


「ここに当ててみたらどうだ」


言われた場所にランタンをかざすと、閉じ込められていたエネルギーが部屋を駆け巡った。


『非常電源装置が作動します』


機械音声が照らしたのは、本物の熱帯雨林だった。ドーム状の空には現在の天気が反映され、鳥の声溢れる雨林を継続させている。


「わぁ……綺麗……」


『凄いよ!水も木も本物だ!』


目の前に流れている小川に顔を突っ込んだサディコは身体を水に変化させて縦横無尽に駆け回っている。


「これ全部本物なの……?」


ロジェはふよふよと宛もなくさまよう蝶を手に乗せた。先程まで真っ暗だったのに、どうして今まで生きてこれたのだろう。


「あまり奥に行かない方がいい」


「そうね。サディコ。戻るわよ」


『えー!仕方ないなぁ!』


半身を水のままにした使い魔は身体に魚を買いながら少女の元に戻る。最初の玄関に戻ってみると、もう片方の扉が空いていた。


『あれ?扉が開いてるよ?』


「そうね。行ってみましょう」


その瞬間ある音が耳についた。巨躯が一歩、動いた音。その音が近付く音。


「……ねぇ、今のなんの音?」


「分からん。用心して行こう」


不審に思いながらも反対の部屋の扉に赴く。


「『インフラ整備室』。これはまた大きそうだな」


インフラということは電気やらガスやら水やらが詰まっているということだろうか。大きな音を立てて扉が開くと、自動的に電気が着く。非常電源装置がしっかり動いているようだ。


ヨハンの指摘通り、部屋内部はとんでもなく広い。奥から精製された水が流れ、手前のタービンを回してせっせと電気を作っている。右側では鉄塔から棒が伸びており、ガスを採掘しているのが見て取れた。


部屋全体は明るく、工場のような作りになっており、薄くなった立ち入り線がそれを示していた。


『こんな小さくて賄えるのかな』


「余程発電効率が良かったか、電気の消費量が少ないかのどっちかだな」


「とても非常電源がついてる様には思えないわ」


戻りましょう、と言って元いた入口に戻る。双方には光る扉と、また巨体が動く音。


「また大きな音……」


ふと視界に入ったものに気づいて顔を上げると、前の壁にピンクの光の点が二つ、奥に青い光が二つついている。


「なに、この掲示板……」


壁には五×五の正方形の板が張り付いていた。縦列には数字と、横列には何かが書いてある。


「ボードゲームっぽいな」


ほら、と言ってヨハンは続ける。


「光ってる場所が移動できる部屋なのだとしたら、ボードゲームっぽいだろう」


確かにそうかもしれないが危ないことには変わりない。サディコは少し声を潜めて呟くようにして言う。


『とにかく一回出ない?別のところから突破する方法を探そ?』


「そうね」


ロジェは元来た道を辿ると、落ちた扉を撫でた。……うんともすんとも言わない。魔力を込めても動かない。ランタンを向けても無駄だ。


「あ、開かない……」


「来たからには帰さないってことだな」


すっかり忘れていた。ここは『城塞』なのだ。入り込まないように工夫はするし、逃げ出せないように策も練る。そんな単純なこと、すっかり忘れていた。


「それじゃ、捕まったら私達……」


『……まぁ、あんまり良くない結果になるかな』


「幸か不幸か、相手はこっちと合わせて動いてる。ともかく戦略を考えよう」


逃げられないし、幸運なことに自分達は先攻だ。ボードゲームだったら有利な盤面ではある。ロジェは肩を竦めて息を吐いた。


「……そうね。やりましょう。まずなんだけど……」


ランタンで照らされた文字は横列を指した。『a b c d e』と書いてあるのだが、魔法が台頭する新たな時代に生きる少女と使い魔は読む事は出来ない。


「この横の文字はなんなのよ」


「超古代文明で一番よく使われていた言語の誦文ずもんだ。手習いでやるだろう」


「あぁ。最初に言語の勉強をする時のやつね」


つまり、ロジェ達のいる場所はa1として表すことが出来る。a2『生物実験棟』、b1『インフラ室』が踏破した部屋だ。対して相手は順にe4とe5を開けている。


「斜めには進めないのかな」


『無理なんじゃない?進めるんだったら向こうも突っ切って来てるだろうし』


相手は半ば迂回しているような形で動いている。斜めに移動できるのならそうした方が早いのにしていないということは、動けないと考える方が良いだろう。


「『インフラ室』に進んだ方がいいかもな……」


少女の疑問が混じった視線に、ヨハンは口を抑えながら答えた。


「……恐らくだが、この城塞には入れない部屋が幾つかあるはずだ」


ヨハンは紙とペンを取り出すと五×五の正方形を表を書き出した。


「今分かっているのは、このゲームはナナメに進んではいけないことだけだ。となると……」


ロジェ達がいたところ、相手がいたところを簡単にペンで塗る。


「基本的に陣取りを模したゲームは最初の陣地を守るように動かすのが定石だ。なのに相手はしていない」


相手はL字をかくように動いていることが図を持って示された。


「相手はe5から始まり、d5を経由していない。入ることが出来ないのかもしれない」


ロジェは静かに頷く。


「となれば、だ。『インフラ室』を抜けた先の部屋で俺達は前か左に進むか決めることになる。ここで相手の出方を見てどういうルールなのか理解しなきゃならない」


ルールを、理解する。先攻が覆るくらい圧倒的に不利な状態だ。


「『インフラ室』の隣、c1部屋は二つの選択肢がまだある。惨事は避けられるだろう」


もし上手くいかなかったら、なんて思考がロジェの脳裏に過ぎった。しかし勝負を放棄すると言うのなら、それは餓死を意味する。ここはもう賭けるしかない。


「『インフラ室』の奥に行きましょう。『書庫室』の場所もわかってないしね」


ロジェは笑みを作って『インフラ室』へと戻った。巨体が動く音がしない。占拠した部屋はどれだけ動いてもターン消費にならないらしい。部屋は広いが見渡せないほどでは無い。奥を北側として、東には扉が無かった。


『ねぇねぇ!これ開けられない?』


サディコが駆け寄る西側の方を見ると扉がある。だけどこう、何となく生気がない。オマケに下からは砂が零れている。


「無理じゃないかしら……試してみるわね」


ロジェはランタンを掲げたが、扉は一寸たりとも動かない。


「b2は動かないと。なるほどね」


ヨハンはバツ印をメモに残した。となると、次なる選択肢は北側の扉だけだ。一行は無言で扉に向かう。ロジェは期待をランタンに乗せて恐る恐る掲げた。


身が抓まれる様な静寂の後、がたん、と音を当てて扉が上がった。ほっと胸を撫で下ろす。


「『食料庫』だ」


一面の倉庫だった。ぱん、ぱん、と連続で電気をつけて、すっかりからっぽで、時々缶詰やクッキーが乗っている棚を見せる。


「手がかりになるものは無さそうねぇ」


また巨体が動く音がした。入口にはあの掲示板。L字から真っ直ぐ、c4に動いていた。


「d3は入れないのかもな」


「ちょっと安心だわ。そのまま突っ込んでこられちゃ困るもの」

足音の正体が掴めぬまま一行は足を進めるが、ルールを把握していないということはゲームに負ける前兆でもあったりして……?城塞探索の第五十二話!

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