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ラプラスの魔物 Secret Seekers  作者: お花
第三章 怪夢黍離王国ノルテ
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番外編 正月休みにいつもと違うことをしようっていっただけなのに何故かコックリさんをする話

お正月の番外編です。内容はタイトルのまんまです。短め。

「ヨハン!年が明けたわ!」


ロジェはノックもせずに書斎の扉を開けた。しかし、当の主は意にも介さず足を組んで分厚い本に視線を落としている。


「そうか」


「天慶国では『年越し』と言って年が変わったことをお祝いするのよ」


「そうだな」


「だからこう、いつもはしないことをしましょう!」


大理石のような手がぴたりと止まる。そしてロジェをゆっくり見上げると、また本に視線を戻した。


「ちょっと?やらないの?」


「ただ年が変わっただけだろ。いつも通りだ」


ヨハンは変わらず本を読み続ける。業を煮やした少女は目の前で駄々を捏ね始めた。


「つまんないつまんない!何かしましょうよ!」


「やらない」


『ぼくもつまんないよ!なんかしようよ!』


「どっちかと言うとお前がどうにかする側だろうが」


サディコまでぐずり出したのを見て、ヨハンは本を閉じて立ち上がる。


「……やれやれ。大したもんは無いぞ」


ごそごそと書斎の机をあーでもないこーでもないとひっくり返し始めたヨハンを見て、ロジェはグズるのを止めた。


「ロジェ。神霊下ろせるか」


「大きなものは無理だけど、弱いものなら……」


「よし。それじゃあ……」


ニヤッと笑うヨハンが掲げた箱には、ある文字が書いてある。


「ガチのウィジャボード、やろうぜ」









「これで良いのか?」


ロジェは机を書斎の真ん中に置いて、その周りに円を描くようにして塩を盛る。撒き終わると少女はその中に飛び込んだ。


「良いのよ。ボードの召喚魔法陣は強すぎるくらいだもの。簡易な準備で喚べるわ」


さて、とブランシェットに手をかざして。


「何を喚ぶ?」


『悪魔以外で』


「何でもいい」


何でもいいってまた適当な、と思いながら無骨な手と少女の手、後は水で作られた手が乗るブランシェットを見る。


「じゃあなんか強そうなヤツ喚ぶわ」


「それ大丈夫なのか……?」


「なんかあったらぶっ飛ばすわよ。それじゃあ、ブランシェットから手を離さないでね」


ロジェは深く目を瞑った。周りにある二つの魂以外に、波動を放つものは無いか。……あ。ちょっと遠いけど、いる。それに手を伸ばして、ブランシェットに封じ込めた。


「……出来た」


「何が入ったんだ?」


「……さぁ……?」


『世界で一番不安な回答来たね』


「で、でも、入ってるのは事実だし……そうだ!」


ロジェは恐る恐る、ブランシェットへと問うた。


「貴方は誰なの?」


ブランシェットはさくさく動き出した。のだが。


「……『だ』『れ』」


『『で』『しょ』『う』?』


「……『(笑)』」


ヨハンは軽く息を吐いた。


「……手、離していいいか?」


「呪われるわよ」


「ほう。不老不死にどんな呪いをかけるのか……それは興味があるな」


またブランシェットは動き出す。


「『かなら』……『ず』、『角に足をぶつける呪い』?……それはちょいと困るな」


『これ本当に何喚んだのさ……』


「近くにいた神霊よ」


ロジェはもう一度意識を沈めた。旅人を見送る仙人でもなければ、都を治める少女でもない。知り合いでは無いようだ。


『厄介なヤツを引っ掛けたね』


「それこそがボードの楽しみ方なんじゃないのか?」


サディコとヨハンの会話を横目に、ブランシェットに込める力を強めた。名を明かさないと言うのなら、無理にでも名を知らなければならない。


「え?『ちょっと待って』?『使役しないで』って……じゃあ名前を教えてよ」


いきなりそれはぐん、と動いた。慌ててロジェも追いかけるがどうやら遅かったらしい。ブランシェットから手が離れて、とうとう誰も触っていない状態になってしまった。……え?何で誰も触ってないの?


「へっ……?何で……?」


『触れなくてね』


「右に同じ」


一人と一匹の手は宙で何かに止められている。


「やっぱりまだ居たか」


ぽつりとヨハンが何かを呟く。


「まだいたか、って何を……」


『ロジェ、前!』


ボードから大きな影が飛び出して来る。ヨハンを問い詰めるのは後だ。とにかく今はこれをどうにかするしかない。


ロジェは素早く周りの塩に魔力を込めるとそれを浮かせて影にぶつける。影はウィジャボードに吸い込まれ、ヨハンの持っていた箱に戻って行った。


「よし」


「よし、じゃないわよ。どういう事か説明して貰うからね」


ヨハンは箱に鍵をかける。


「昔貰ったんだよ。いわく付きの霊が憑いてるっていう触れ込みでな。ただ……管理が悪くて逃げ出してしまって……」


箱に封じられた霊は未だ暴れてガタガタとそれを揺らしている。手からずり落ちそうになるのをヨハンはもう一度抱え込んだ。


「そんな強い霊じゃないからその辺にいるだろうと思ったが、予想以上に近いところにいたな」


「……やれやれ。あんたそれ何に使ってたの?」


「神霊を召喚する触媒。これは神霊の残滓を蠱毒で混ぜ合わせたシロモノらしい。言わば人工的な霊だな」


『そんなもんどこから買うのさ』


人間より悪魔の方がより身近だからか、サディコは身を震わせて問うた。


「黒霊術に手を染めてノルテに逃げた天慶国の霊術師から」


「……それ、祓ってあげようか」


「ん?」


ヨハンが承諾を下す前に、少女はそれに手をかざした。箱は動くのをやめて、何か黒い煙が上がって、消えた。


「……ど、どうも……」


「要らないでしょそんなの。だって私があんたの事を殺してあげるんだから」


「……ふふ、有難い話だな」


そっぽを向いたロジェにヨハンは微笑む。箱をその辺に投げて、書斎の扉を開けた。


「さ、行こう」


「どこに?」


「マヤばあちゃんのとこ。美味しいご飯作ってくれるんだって」


『ぼ、ぼくも……!』


「お前の分もあるってよ」


サディコはやったぁと飛び上がって玄関の方へ走り去っていく。少女は最後に、打ち捨てられた箱を見た。何の変哲もない、ただのハコ。


「どうした?」


ヨハンの呼びかけに振り向くと、ロジェは首を振った。


「何でもないわ」


そうして静かに、扉は閉まった。年が変わって二時間ぐらいの事だった。

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