早く解毒して!
レベッタさんにフラれる夢を見た。
別の男ができたらしく、僕は用済みになったらしい。子供もいらないと言われている。
他にもヘイリーさん、アグラエルさん、メヌさんなど、僕を求めてきた人たちも新しい男ができていた。
「DV男の血を引いているイオディプスはいらない」
これが皆の総意らしい。
子供を作る覚悟ができたのに、相手から捨てられるとは思わなかった。
僕が応えれば相手は絶対に拒否しない。そういった傲慢な気持ちを見透かされたのかもね。
自分への嫌悪感が満ちると意識が覚醒していく。
「いだいっっ!! いっっつつ!!」
全身が燃えているように熱い。全身を針で刺されているようで、叫んでいないと頭がおかしくなってしまいそうだ。
痛みを誤魔化すために体を動かそうとするけど失敗した。手足が拘束されているみたいで、腰を浮かせるしかできない。
激しい痛みは絶え間なく襲ってきて、体をよじり、手足を何度も動かして血が滲む。
近くに誰かがいて声をかけてくれているみたいだけど聞こえない。痛みによって外部の情報が遮断されているみたいだ。触られても気づくことはなさそう。
何時間叫んだかわからないけど、体が自分を守るために意識が薄れていく。
ようやく痛みから逃げられると安堵すると共に、目覚めたときにまた同じ体験をするだろう確信があった。
気絶と覚醒を繰り返し、僕の心は限界に近づいていた。
◇ ◇ ◇
ブルド大国から連絡があって、ミシェルを連れて私――レベッタは、イオ君がいる治療室に入った。そこにはグロリアーナ女王やルアンナたちがいた。ドア近くには医者や侍女の姿もあるけど、手を尽くした後らしく絶望した表情をしている。
近くにいた彼女たちへ「何をしていたの!」と、恨み言を言おうと口を開きかけて止まる。
激しい痛みによってイオ君が叫んでいた。
全身の肌が青白くなっていて、耳や目から血が流れ出ている。
「可哀想……」
思わず拘束されている手を握ったけど、体温が下がっているみたいで死人のように冷たかった。
このままだったら数日中に死ぬと、グロリアーナ女王が言っていたのを思い出す。
ボツトキシンという猛毒を使っていて、解毒剤はないみたい。大国の女王が頭を下げて助けを求めてきたときは驚いたけど、聖女とまで呼ばれるミシェルなら解毒してくれるかもしれない。
「イオ君を助けて!」
「やってみます」
ミシェルの顔色は良くない。期待はできないと思いつつも結果を待つ。
イオ君の手を握った彼女は、しばらくして首を横に振った。やっぱりダメだったみたい。
「痛みを減らすことはできますが、それだけです。他に解毒スキルを持っている人はいますか?」
「ランクは低いが数名はいる。呼んでこさせよう」
ミシェルの要望に返事をしたグロリアーナ女王は、侍女に視線を送る。慌てた様子で部屋を出て行った。
数分待つと三人の女性を連れてくる。
どれも兵士みたいで金属鎧を着ていた。
「共同スキル発動をします。手を繋いでください」
同系統のスキルを同時に発動させて威力を高めるみたい。回復スキルは、それが使える。
四人は手を繋いだけど、ミシェルはスキルを使わない。ただ見ているだけ。どうしてそんな冷たいことができるんだろう。
「早く解毒して!」
イオ君を楽にさせてあげたいと思ったら、つい文句を言ってしまった。
私はミシェルの護衛として特別に同席されている立場なのに。
邪魔だから出て行けと言われたら断れない。でも、そんなことは言われなかった。
「私たちの力だけじゃ足りません。イオディプス様のお力も借ります」
「スキルブースターを使ってもらうの?」
「はい。ですからタイミングが重要なんです」
まだ聞きたいことはあったけど、邪魔になりそうだったので黙ることにした。
どのぐらいの時間が経過したのかな。分からないぐらい待っていると、イオ君が目覚めたみたいで叫び出す。
「今ですっ!」
ミシェルが宣言するとスキルが発動された。
痛みによって叫んでいたイオ君の状態が明らかに良くなる。顔色は悪く、血は出ているけど、周囲を見る余裕はできたみたい。
よかった……。ううん、違う。安心するのは、まだ早い。
「あれ……ミシェ…………ルさん?」
「解毒のために駆けつけました。私にスキルブースターを使ってください」
イオ君の頬に優しくキスをしたミシェルが光り出した。スキルが進化したみたい。
聖女と呼ぶに相応しい神々しさを感じた。
唇を離すと、ミシェルは静かに神へ祈る。共同スキルを発動させ続けている兵の三人も同じだった。
「天から見守る男性の皆様。どうか同性のイオディプス様をお助けください」
本当に神がいるのかわからないけど、私も本気で祈ることにした。
医者や侍女、そしてグロリアーナ女王すらも同じことをしている。この場にいる全員がイオ君の回復を待っているんだね。
治療室が祈祷室に変わったみたい。
神聖さすら感じるミシェルから光が消えた。
ミシェルは祈りを止めて、兵と共に数歩下がる。
誰もが固唾を呑んでイオ君を見ている。解毒は成功したのか。もうすぐ答えが出るところだった。